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利居 茉緒

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「やあやあ、どーも。なかなか腕のいい占い師がいるって聞いて。アンタであってるよな?え、違う?いやいや、そんなわけないだろ。ちゃんと地図を見てきたんだぜ。アンタの写真もばっちりな。記憶力はいい方なんだ、そのセクシーなたらこ唇と、どこぞ宣教師みたいな髪型と、ふみ荒らされた芝生みたいな髭はそうそう間違えないね。さあさあ、俺を占ってくれ。もちろんタダなんて言わない。ちゃんと報酬は支払うからさ。決まりだな。何を使う?水晶玉か?タロットカード?それとも手相を見る?なんでもいいが、その前に酒をくれないか。これから心の中を覗かれると思うと緊張するんだ。ワイン?いや、発泡酒がいい。こういう時にはあえて安酒を飲むのが好きでね。え?ない?ならいいや。何?ビールはあるって?なあ、俺は『もういい』って言っただろ。席を動くな。そう、それでいい。」


「それで、アンタは何を使うんだ?よく見るやつでも構わないが、俺は変わり種を期待してるぜ──はあ、カトラリー。スプーンとフォークとナイフ。今時はそんなもんを使うのか。面白いねえ。は、おいおい、今ここにはないのかよ。商売道具は常に持っとくもんだぜ。ああ、もしかして店じまいの時間に邪魔しちまったか?まあ、ド深夜だもんな。それは悪い。いいぜ、早く取って来てくれ。」


「ああ──いや、やっぱり俺もついていくよ。占い師のキッチンって気になるし。え?ダメ?なんで?何、汚いから?それでいいんだよ。ありのままを見たいだけなんだから。臭いが酷くてゴキブリが居る?ははは!もっと見てみたくなった。楽しみだな。な?早く行け。」


「──あっはっは!めちゃくちゃ普通じゃねえか。えっと?冷蔵庫の中はチーズと生ハム、オリーブの実。ビールと炭酸、棚にはウイスキーとジンとワイン。まあ、銘柄の趣味はいいが、酒のことしか頭にないのか?ああいや待て、これは俺好みだ。ああ、いいね、最高。貰ってくよ。そんな顔すんなって。まあ、多少がっかりしたけど予想通りさ。で?目当てのものは見つかったんだろうな。もしかして忘れてた?そんなことない?そうか。ならさっさと戻ろうぜ。」


「さあ。それ、どう使う?スプーンを曲げる奴を見たことはあるが、あれはマジックだしな。占いにカトラリーは、本当に想像がつかないよ──ほお、スプーンにその人の人生が映るって?いいね、それっぽい!自分自身のことって、実はあんまり分かってないって言うしな。教えてくれ。俺はどんな奴だ?あ、そのスプーンは置くだけでいいのか?ナイフとフォークは使わない?ああ、血がいるって。その為の。なるほどな、理にかなってるね。喜んで協力するよ。ナイフを貸してくれ。え?アンタがやるって?アンタは医者だっけ。占い師だ。そうだよな。でもプロだから?奇遇だな、俺もだ。心配しなくていい。だからほら、貸せよ。──よし、これでいいか?なんだよ。いいかって聞いてんだろ。ああ、いい。そうか。じゃあ結果を聞こう。どうぞ。よく見てくれ。いやあ、緊張するね。占いなんてしたことないから──ああ何だって?声が小さい。」


「発言力があり、リーダーシップがある。へえ!自分ではあんまり考えたことなかったな。そうなのか。あとは?芯が通ってる。それはそうかもな。他人の評価は、まあ気にせざるを得ない立場だが、人に左右されたりはそうそうないね。計画力があり、常に冷静で狡猾。もしかして貶されてる?そんなことはない?あっそう。──え?ああ、面白いよ。もっと聞かせてくれ。ほら。───何?サディスト?は、はは!大当たり!他にはどうだ?忌々しいほど情熱的?何に?仕事に!ああ、その通りだ!」


「─────なあ、イライラしてるな。」


「怖がってるが、同じくらい腹も立ってる。占わなくてもわかるよ。はは、悪い悪い、俺もやり過ぎた。じゃあ、さいごに聞かせてくれ。──俺はどうやって死ぬ?車に轢かれる?癌にかかる?脳の血管が切れる?自分で首を吊る?それとも、誰かに殺される?教えてくれよ。」


「うーん、困ってるな。かわいそうに。わからないな。わからないよな!だって、全ー部お遊びだから!」


「ああ、楽しかったよ、おっさん。欲に負けてヤバいところにまで手え出しちゃった、馬鹿で愚かなクソ野郎。アンタのこと占ってやろうか。平凡な家に生まれて、テキトーな学校行って、ギャンブルにハマって道を踏み外した。金がなくなって、稼ぐために何でもやって、弱みを握ることに味を占めた。情報屋が天職だと思った、そうだろ?全部上手く行ってたな。全部上手く行き過ぎたな。慢心ってのは怖いねえ。アンタは答えられなかったが、俺にはわかるぜ、アンタの死に方。まあ、自分でもわかってるだろうけどさ。深夜に頭のおかしいごっこ遊びをやらされて、雇われの殺し屋に頭をブチ抜かれるんだ。」


「アンタの悪あがきは死ぬほど笑えたが、今更命乞いなんてやめてくれよ。ああこれ。冷蔵庫に入ってたこれ、早速使わせてもらうぜ。ほら、逃げるなよ。報酬の時間だ。好きだろ、報酬。え?何のって?言っただろ。タダでとは言わないって。ははは。忘れてたか。そうだろうな。もう、それどころじゃないもんな。でも、俺は約束を守る男なんだ。ちゃんと渡すよ。

もちろん、支払いは──」


「鉛玉で。」

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