第9話


瑞稀の言葉に少しドキッとしながらも、私は笑顔を浮かべて食事を続けた。


「瑞稀って、なんやかんや私のこと大好きよね」

私はふと口に出してしまった。


「は?何言ってんだよ」

瑞稀は照れくさそうに笑った。


「だって、いつも私のこと気にかけてくれてるし?」


私は彼の顔を見つめた。


学生時代もなんやかんや宿題写させてくれたし、テスト勉強にも付き合ってくれたし…


多分押しに弱いタイプなんだと思う。


瑞稀の目が一瞬だけ私を見て、すぐに視線をそらした。


「ま、友達だからな」


友達、か。


瑞稀は大事な幼なじみだし、これからもずっと友達でいたい。


はずなのに。


「そうだね、友達だもんね」

私は無理に笑顔を作った。


どうしてこんな気持ちになるんだろう。


「今は、だけどな」

瑞稀は小さな声で付け加えた。


「ん?なんか言った?」

私は聞き返したが、瑞稀はすぐに話を打ち切った。


「いや、なんでもない」


その言葉に少し戸惑いながらも、私は深く考えないことにした。


その時、瑞稀の電話が鳴った。


彼はスマホを取り出して画面を確認した。


「ちょっと待って、電話だ」


いつもは仕事なら仕事だって言うのに


「誰から?」


「非通知だから取ってみないと分からない」


そう言うと瑞稀は立ち上がり、少し離れた場所で電話に出た。


私は彼の背中を見つめながら、何となく胸の中にモヤモヤとした気持ちが広がっていくのを感じた。


さっきのことがどうしても気にかかった。


友達だって言われてどうして嫌な気持ちになったんだろう。


前にも一度、こんな気持ちになったことがあるような…


瑞稀が戻ってくると、彼の表情は少し硬くなっていた。


「どうしたの?」

私は心配そうに尋ねた。


「いや、大したことじゃない」


瑞稀は笑顔を作ったが、その笑顔はどこかぎこちなかった。


その笑顔が私の心に引っかかる。


大したことじゃないならそんな顔、しないでしょ。


瑞稀が何かを隠しているのは明らかだけど、それが何なのか分からない。


「本当に?」


私はさらに問い詰めたが、瑞稀はそれ以上何も言わなかった。


何があったのか、瑞稀が何を考えているのか知りたいけど、彼が話してくれない限り、私は何もできない。


私だって、何かしてあげたいのに。

力になりたいのに。


どうして何も言ってくれないの。


その後、私たちは何事もなかったかのように会話を続けた。


だけど、どうしても瑞稀の言葉と表情が頭から離れなかった。



いつも肝心なことは話してくれないんだから。


今回も瑞稀が話してくれるまで待つしかないのかもしれない。

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