(3)
製作会社の東京スタジオに到着すると、そこにはブルー役にイエロー役、あとスーツアクターが何人か……そして……。
「あ……あ……あ……お早うございます」
ブルー役の役者が、チュ〜と同じ位にキョドっている。
「ああ、どうも、お早うございます」
「チュ〜さん、お早うございます」
「お早うございます」
「お早うございます」
「あ……は……お早うございますッ‼」
無理矢理気味な絶叫。
「何で、今日、出番無い筈なのに来てんのかな?」
愚痴るように、あたしにそう言ったのは……戦隊の副リーダー「ブルー・マリーン」こと
TATSUはクール系のイケメン……に見えるが、実は大の特撮オタク。特撮ヒーローになるのが夢で「ダンスが出来るのが当り前。何なら格闘技もやっとけ」のウチの事務所のタレント達の平均よりも身体能力や運動神経は上だ。
ただし、その為に……十代の間の大半を犠牲にしたらしい。小学校高学年・中学・高校の間にやってたのは、体を鍛える事と、オタ知識の習得、あと演技の勉強。
それにのめり込み過ぎて……友達付き合いも、恋愛経験も、ほぼ
早い話が、同年代の女の子と、どう接していいか判らない童貞野郎だ。あと、同年代の同性とも、どう接していいか、イマイチ、判ってないらしい。まぁ「自分が、女の子と、どう接していいか判らない童貞野郎」だと自覚してる分、女の子にとっては極めて安全な男だ……男のスタッフ達に比べれば遥かに。
ちなみに、元々の芸名は、少し前にニュースになったテロ容疑者と紛らわしいモノだったので、番組スタートとほぼ同時に、今の芸名に変った。
「誰の事で……えっ?」
戦隊の紅一点「イエロー・ウォーデン」こと
いわゆる「大きなお友達」の間では「百合関係では?」と言われてる2人が腕を組んでいる。
言われてみればそうだ。
本日の撮影は戦闘シーン。
司令部のシーンは別撮影の筈なのに、何で、司令部に居る筈の登場人物の役者が、ここに居る?
「高木さん、何で、村上さんが、ここに居るんですか?」
「何だよ、いつも、まったく……」
「でも、僕、村上さんにキモオタだと思われて……」
「無い、無い、無い、大丈夫」
TATSUのマネージャーの高木さんと目が合い……向こうは「そっちも大変ですね」と言いたげな表情。
多分、あたしも同じ表情だろう。
イケメンの癖に、女の子と接し慣れてないTATSUは……「身近な女の子から自分がどう思われているか?」を異常に気にする。……いや「身近な女の子から自分がどう思われているか?」を推測するのが異様に苦手で、しかも、その事を自覚している。
当然、身近な女の子の前では、自信無さげなキョドった言動を取る事が多い。
後は、良く有る悪循環だ。
「あ……あの……僕をキモ男だと思って、その……えっと……僕から赤城さんを守る為に……」
「君が誰かから、そう思われてるとしたら、そんな事を気にし過ぎてんのが、態度に出てるからじゃないのか?」
「いや……判ってますけど……あと……」
「何?」
「あの子も女の子ですよね?」
「えっ? だって、台本では男の子……?」
そう言って、TATSUが指差した先には……確かに服装は男もの。でも、美少女に見まごう美少年か、男装している美少女か判断が難しい小学校高学年ぐらいの子役が居た。
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