どこにも終らない夜はない
(1)
「
何で、ウチの事務所では先輩社員の事を「
どうやら、元々は落語家やお笑い芸人の間で使われてた用語らしい。
しかし、判んないのは、ウチみたいな超体育会系でタレントは男女問わずダンスが巧いのが当り前、何なら格闘技もやっとけみたいな汗臭そうな芸能事務所で、何で、落語やお笑いの人達が使う用語が使われてるかだ。
ひょっとしたら、落語やお笑いの方が、ウチ以上の超々体育会系なのかも知れない。
「判ってると思うけど、あんた、子供が憧れてる戦隊ヒーローのリーダー役なんだからね。一般人に見付かる所では、絶対に煙草吸うなよ」
「はい……」
「あと、煙草の量、どんどん増えてるけど……銘柄言ってくれれば、あたしが買い置きしとくけど……」
「あ……いいです……俺が多量に買うんで、近所のコンビニでは切らさないようにしてくれてますんで……」
「大丈夫なの? 今はいいけど、齢取ってから……」
「あああ……大丈夫っす」
こいつは、人気特撮番組「正義特捜トゥルージャスティス」の主人公側のリーダーであるクリムゾン・サンシャインこと
あたしは、そのマネージャーの荒木翔子。
チュ〜の奴の外見を一言で言えば「昭和の戦隊レッド」。「実は男装レズの女だ」と言っても違和感が無い外見の男ばっかの今時の芸能界の若手には珍しいタイプだが、困った事に、内面は逆だ。
ウチの事務所の社長は、マ・ドンソク主演の新作に悪役(それも、あの熊さんと殴り合いで良い勝負をやるような)で出演してくれ、って依頼が有ったほどで、格闘漫画の「刃牙」にしれっと出てても誰も変に思わない感じの男性ホルモンの塊みたいな男だ。
そんなのがトップやってる事務所が、チュ〜みたいな内向的な性格の奴にとって、どんな地獄だったかは言うまでもない。
そして、事務所の誰も期待してなかったのに、今期の戦隊のレッドに選ばれ……糞忙しい撮影のせいで、事務所に顔出さずに済むと喜んだのも束の間、撮影現場は事務所以上の超々々(中略)々体育会系の世界だったのだ。
「あの……病院が開いてる日に休みって取れますか?」
煙草を吸い終ったチュ〜がそう訊いた。
「判んない。番組のプロデューサーに確認しとく」
土日も、朝の5時台に、こいつのマンションに迎えに行き、6時半までには制作会社の事務所に集合。
そこから撮影現場へ向かう。
当然、日曜朝に放送されてる自分の出演番組は自分で観れない。
「わかりました……シャワー浴びてきます」
もう、チュ〜の目は死んでるが……あたしにとっての地獄も、チュ〜にとっての地獄も、これから始まる。
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