第24話
「助手君、あなた忍者の家系の末裔だったりはしないわよね?」
「残念ながら……農家の出です」
「じゃあ、猿の子孫だったりは?」
「人類皆、猿が祖先では……? ウーム、なにかいい方法はないか……」
「そうねっ! ふたりで考えれば、きっとなにかいいアイデアがうかぶわ!」
(数式によればマイナスにマイナスをかけたらプラスになるそうだ……。けれど、ひとつ問題があるとすると、博士はマイナスだとしても、ぼくはプラスの数字を持っているということだ。プラスとマイナスをかけあわせても、マイナスの触れ幅が大きくなるだけ。戦場で最も危険な存在は、無能な仲間だとはいったものだ……たとえ足し算だとしても博士のマイナスを補填できる気がしない!)
助手君、涙目で歯をカチカチ鳴らしながら、私の顔を見ているわ……。やっぱりバカすぎて、私のことを頼りにするしかないのね……、かわいそうに。
ぴゅー……
灰のまざった風が、私たちのよこをさみしくとおりぬけていく……。
まるで、あざ笑っているかのようだ。
(ンー、こうやって考え事をしているとお腹が空いてくるなぁ)グーーー……
(最近はカップラーメンとか、固いパンとか、携行用チーズ食品とかばかりで、あまり栄養のある物食べてないわね……。お味噌汁とかお魚とか野菜とか食べナイト……肌荒れがひどくなるわ。
お味噌汁……といえばアサリを入れたらおいしいのよね。
アサリかぁ。そういえば夏に助手君といっしょに、潮干狩りにいったなぁ……。あの時、助手君、私の水着に顔を真っ赤にしていて……ハッ!)
「ひらめいたっ!」
「博士……どうせ、その顔つきだからお腹が空いていて、晩ご飯のことを考えていたんだとおもいますが、さすがにこんな陸地にヒラメはいないかと」
「そのヒラメじゃないわっ! いいアイデアを思いついたのよっ! さぁ助手君、のび〇君風に私に頼みつくといいわっ!」
(ダルっ……でも博士、こういう時やらないと泣きだすからなぁ)
「は、博士えも~ん、高い所にある花を採取できる道具だしてよ~」
「まったく~、助手君は私がいないと何もできないんだから~。
しかたないなぁ~」ゴソゴソ……(車の荷台を探る音)
「パンパカパンパンパーン♪く~ま~で~♪」
「熊手?!」
「これをひっかけて崖をよじ登るんだっ!」
私と助手君、ふたつの熊手があるから、こうやって肩のとこでかかげて「ガオーッ」て熊のモノマネしてれば、遠くから老眼のおじいちゃんがみれば「ホッホッホッ……いきのいい熊がおるのぉ……」と勘ちがいするかもしれないわっ! 熊なら崖くらい登れるわよね♪
私の興奮をよそに助手君の顔は青ざめている……。
「これ潮干狩りの時に使ったやつじゃないですか! 博士がおっぱい大きく見せたいからって、巨大合金パッドを胸に詰めて溺れかけた、あの『悲しき思い出の潮干狩り』の時に使っていた熊手」
「そそそそそそそんな歴史しらないわっ! 勝手に捏造するんじゃないわよっ!」
「いいんですか……? そんなこといって? あられもない博士のあの写真を政府のおじ様方に売れば、いい金になるとおもいますが」
「すんませんしたっ!」ずこーっ
私はプライド全てを投げうって、大あわてで土下座を敢行した……っ。
「熊手って……理屈はともかくとして、どっちが登るんですか?」
(こんな切り立った崖……熊手なんかで登ろうとしたら死んでしまう!
そりた〇壁の挑戦者の気持ちが今ならよくわかるぜ……)
「博士ちゃん~♡こんな高い所登るの怖い~♡」きゅるるるん……♡
「助手君のカッコいいとこみたいな……?」ぎゅううう……♡←助手君の体に抱きつき、胸を押しつける音
「……っ!」
(ゲ……コイツ、大した色もってねーくせに色仕掛けかよ?! このぼくがそんな浅はかな手に乗るわけ)
ぎゅううう……
「よっしゃ博士! ぼくの勇姿を、その目に特と焼きつけておいてください!」ゴゴゴゴゴゴゴッ!!!!!!
「きゃぁあ♡助手君、カッコいいっ♡」
「今なら魔王城だって、この熊手でよじ登ってやんよっ! ゴキブリのようになっ」キラーン☆
「んじゃいってくるぜっ! うぉおおおおおおお!!!!」
助手君は景気のよい掛け声とともに、熊手を岩肌にひっかけたっ!
「うぉおおおおおお!!!!」両手に持っていた熊手を交互に岩肌に突き刺しながら、勢いよく、崖をよじ登っていく!
「ぐぅ……っ負けないぞっ!」
重力にひきずられ、宙ぶらりんになっていく助手君の体……。
それでも助手君は、必死に歯を食いしばりながら、腕と肉体をもちあげ……。
そして……
「あーーーーーれーーーーーー」
(ア、落ちてきたわ……そりゃそうか。
まさか本当に登ろうとするなんてね……。
やっぱり助手君は、筋金入りの『バカ』ね)
グキリっ!!!!
「博士……ぼくはもうダメです……。
今までいろんなことがありましたが、どれも大切な思い出です。
本当にありがとうございました」
「助手君ダメよっ! あきらめないで……」
「最後に博士といっしょにいることができて、ぼくはこの世で一番の幸せ者です。
ど、どうか……博士の未来に、幸あれ」ガクッ……
「じょ、助手くーーーん」
負荷孵化 ―ふかふか― ……完(木目君の次回作にご期待くださいっ!)
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