前世でメロメロの呪いをかけた魔王様、生まれ変わった私は貴方のことを愛せません!!!

綾瀬 りょう

第1話 聖女シャーロットです。

 王都から馬車で五時間ほど離れた北の国境付近の教会が、私の育った場所。

 私を産んだ人は、とても心が綺麗な人だったのを私は覚えている。乳幼児の頃からの記憶が全部備わっていることは誰にも話していない。

 というか、本当は前世の記憶もうっすらと残っている。その時に神父様に似た人と共に行動をしていた気がする。誰なのかはハッキリと思い出せないし、残っている記憶もうっすらとしたものなので、聖女として国に仕えているのも国の図書館を利用するため。

 私と同じ事例があることは、まだ一つも見つけていない。

 生後直ぐに教会に捨てられていた私を、愛情たっぷりで育ててくれ神父様。彼にも恩返しをしたいと心の中でひっそりと決めている。

聖魔法を使う魔力があると判明した七歳の頃から、聖女として国に仕え覚えている限りの前世の記憶を駆使して国を守護している。そんなわけで最年少の十八歳で聖女としての責務を全部こなせているのには、秘密があった。

本来ならば聖女の身の安全も兼ねて通常は城の近くに移住するのだが、生まれ育った場所から離れたくないと駄々をこね、私はずっとここで暮らしている。

城にいると第二王子・ブラウン様が私のことを口説いてくるからなんだけど、神父様に心配をかけたくないので黙っている。王家には男児が二人いて女児は三人いる。年のころも近いということで、聖女の仕事以外にも彼らの遊び相手もしていた。我が国・フィーギル王国の王位継承権は精霊に選ばれた者が継ぐ。聖魔法は精霊に気に入られる条件の一つとなっているので、一緒に魔法を勉強してきた。

近くで見てきたから、第二王子ブラウンは魔法よりも剣の才能がある。それを本人に伝えたら「君は僕の内面をしっかり見てくれている!!」と何故か好意を寄せられるようになってしまったので、現在全力で逃げているところだ。

 教会には私が厳重に結界魔法を張っているので、害をなす人間は入って来れないようになっている。教会の談話室で冬のバザーに向けて編み物を編んでいた私の元に、六十代になる神父様がやってきた。短髪の髪には艶があり、顔に皺ひとつないその姿から若い血を吸って美を保っているのではないかと王都で噂されている神父・ハロルド。……この名前何度思い返しても聞いたことがあるのよね。思い出せない。大切な人の名前だったような気がするんだけど。

「あー、いたいた、シャーロット。城から連絡があったんだ。急いで来てくれと」

「え―――――。嫌な予感しかしないんだけど、行かないと駄目かしら?」

 神父様が手にしている手紙には、確かに王家の紋が入っている。私は編んでいたマフラーの長さを確認しながら、どうするのが一番最善か考える。季節の折にある教会のバザーは、教会の収入源の一つでもある。今年の夏はいつも以上に暑く、雨がほとんど降らなくて雨乞いの祈りを捧げていた。そのせいで夏のバザーに「聖女お手製品」と名の付く物を出品できなかったので、売り上げがイマイチだった。冬のバザーには何か出品したかったのでせっせと準備をしているのに。

「シャーロットなら気づいていたと思ったが魔王が復活した噂を聞いていないのか?」

「……今、魔王様って言った?」

 この国に生まれた者なら誰でも知っている。数百年前に暴れて甚大な被害を被った魔王が一人の賢者によって封印されたことを。子守歌代わりに子どもの頃に聞かされる話が私は大好きだった。皆が怖がる魔王様の話だけど私は心優しき魔王様の話だと思っている。

 手にしている手紙を握り潰しそうなハロルド。私は好きな話だけど、ハロルドは魔王のことを憎んでいるのか話題に出ると苦しそうに眉毛を寄せる。

「今、フィーギル王国にシャーロット以上の魔法の使い手がいない。君一人に魔王討伐をさせるはずはないと思うが……僕も一緒に討伐に行くようにするか??」

「神父様が??攻撃魔法使えましたっけ?」

 教会には孤児が数名いるから、残して一緒に来ることはできないのはハロルドが一番分かってるはずなのに。と考えていたら急に視界が、一瞬にして黒くなる。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る