閑話 婚約者になってよ!!
時は少しさかのぼり、創哉と奏が領地を出て海へ向かっている最中のこと。
奏を肩車したまま森をのんびりと歩いていた創哉の視界に、一人の女性が映り込んだ。
「ど、どうしよ~……」
地に四つん這いになって項垂れている女性。
パツンと切り揃えられた長い赤髪で、顔が隠れている。肩口から鳥の翼が生えていて、頑張れば辛うじて何か掴めるかな……? という感じのかなり退化した手らしき部分が翼の山部分にあり、そこから生えた鋭い5本の爪で地面をがりっと削って握りこぶしをつくり、ぷるぷると震えている。
足も鳥のソレで、太ももの途中から艶やかな小麦色の人間のものから鳥足に変わって、鋭くゴツい3本の爪が地面を抉っている。
そう。その女性は、
「……そこの
無言で横を通り過ぎるのも気まずかったのか、顔をしかめた後軽くため息をついて創哉は女性に声をかけた。
「ふぇ……? あ~~~~っ!! 君!!!」
すると女性は急にハイテンションになって喜色満面と言った風に立ち上がると、創哉の奏の足を抑えている手を上から鷲掴みにし、
「お願い!!! 婚約者になってよ!!」
顔を思いっきり近づけて叫んだ。
「は……?」
創哉は突如叫ばれたその願いに、思わず大混乱。完全にフリーズし、宇宙猫状態になってしまっている。
「だから、婚約者になって欲しいの!!!」
もう一度叫ばれる。
「い、いや……分からん分からん。何がどうしてそうなった? 一応聞くけど婚約者ってあの婚約者?」
「そう!! あの婚約者! 番になる約束をした相手!!」
「つ、番になる約束をした……ちょ、ちょっと待ってくれな」
創哉はハーピィの女性に待ったをかけて、一度冷静に思考する。
(いきなり何なんだこいつは。普通、初対面の男にそんなこと言うか? それだけならもしかしたらあるかもしれないが、俺は今女連れなんだぞ!? 訳が分からないよ……。モテ期が来たってか? クロはなんだかんだ受け入れたけど、もうこれ以上嫁さん増やしたくねぇよ俺! だぁ~もう! こんなことなら無視しとくんだったぜちくしょう!)
早速自分の選択を悔い始める創哉。
(くそっ、ここで返答に時間がかかったら俺があたふたしてるのがこいつにバレるし、もしかしたら奏が怪しむかもしれない! だ、ダメだダメだ!! よし、ここは即座にきっぱりビシっと断る!! これ一択だ!!)
方針を決定すると、
「絶対嫌だ! 悪いけど俺、嫁さん居るんで。他を当たってくれ」
創哉は掌を突き出して断りを入れた。
しかし、
「それでもお願い!! ね、君がその嫁さんだよね? ダメかな!?」
ハーピィの女性は諦めなかった。
今度は軽く空を飛び、奏の手を掴んで潤んだ目で頼み込む。
それを見た創哉は、
(……諦めねぇ……だと……!?)
思わずどこぞの死神代行のように戦慄した。
「……とりあえず、お友達からじゃダメなの?」
奏が冷静に告げる。
「う~、もう一声!! お願い!!」
深く頭を下げるハーピィの女性。
「……じゃあ、結婚する? 創哉は超魅力的な男性だし、一目惚れしちゃうのも私は頷けるから……本気で好きになっちゃったなら、私は応援してあげても良いよ。創哉がどう思うかは知らないけど」
「ゔぇ!? 奏さん!!?」
奏の言葉に創哉が驚くが、
「それはちょっと重たいかな!」
ハーピィの女性は今度は先程とは真逆のことを言った。
「はぁっ!? いや、訳分かんねぇんだけど……」
「……なにか事情がありそうだね。一回落ち着いて話そっか。創哉、降ろして」
「え、あ、あぁ」
混乱しっぱなしな創哉をわきに、奏は一人冷静だった。
奏の言葉に従い創哉が肩車を辞めて地面に降ろすと、改めて話は再開する。
「あのね、どうしても
「うん。それは分かったから、経緯を教えて。それだけ言われたって全然分からないよ。何か事情があるんでしょ?」
奏の言葉にハーピィの女性はポンと手を打ち、それもそっかと頷く。
「そうだったね、まだ何も話してなかったや。ごめん! えっとね? 私最近ずっとパパとママにお見合いしろって言われてて……全然興味ない雄の求愛ダンスをず~っと見せられ続けてるの」
疲れ切ったような顔ではぁ、とため息をついて説明するハーピィの女性。
この時点で奏は全てを察したようだが創哉はと言うと、
(ほ~ん、そこら辺は鳥と変わんねぇんだな)
凄まじく暢気だった。
「それで嫌気がさして、つい言っちゃったの。婚約者いるもんって。そしたらパパとママが婚約者を見に来るっていうから~! すっごい困ってたの~! だからさ! ちょっとの間だけ貸してくれればいいの! お願い!!」
ようやく、創哉も事の次第を理解したらしい。お約束の展開だな~、と遠い目をしながら鼻で笑っている。
「だってさ創哉。やってあげたら? ホントに他意はないみたいだしね」
「えぇ~、どうして俺が……。折角のデート中だぜ?」
「だったら声かけなきゃ良かったんだよ。ね? ほっとけなかったんでしょ? だったら最後まで面倒見ないと。中途半端が一番ダメだよ」
「……まぁ、それは確かに……。はぁ~~~~。ったく、分かったよ! やるよ。どうすりゃいいのさ」
深くため息をつくと、創哉はガシガシと後頭部をかき、ハーピィの女性に指示を乞うた。
「やった~!! ありがとぉぉぉ~~!! ついてきて! もうパパとママは来てるんだ!! これから婚約者の雄を連れてくるって言って、抜け出してきてたの!!」
「はぁ、そっすか。……さっさと終わらせてくれよ?」
「うん。大丈夫! 顔合わせだけの予定だし!」
「さいで。……ごめんな奏。俺が軽い気持ちで声かけちまったせいで」
「ふふ、良いよ。そういうなんだかんだ優しいとこが好きなんだし。じゃあ私はちょっと離れた所で見守ってるね?」
そう言って、一人離れて行こうとする奏。
「ちょ、ちょっと待った! だ、大丈夫なのか奏。一人で。凄い心配なんだけど」
しかし、そんな彼女を創哉は引き留めた。
「どうにかするよ! ホントに危なくなったら思念話で助け呼ぶし。そうしたら召喚してくれれば良いんだよ。でしょ?」
「……まぁ、それはそうか。分かった。気を付けろよ? マジで」
「うん。創哉も頑張ってね!」
そう言って、今度こそ奏は2人のもとを離れた。
「仲良いんだね! すっごい可愛がってる感じだ。なんかイイね! もう80年くらい生きてるけど、君達みたいな関係性の番って、見たことないや。子供だけ作ったらさよならが基本だし。人間はそうじゃないんだね?」
「80!? マジかよ……。めっちゃ年上じゃん。え、あ、はい。そうですね。人間の夫婦はそんな淡白じゃないですよ。えぇ。ってか、元人間であって、今は違うんですけどね?」
「あはは!! 敬語なんて良いよ~! 君達とは時間の流れが違うんだしさ! でもそっか。だから姿はまるっきり人間そのものなのに、瘴気を放ってるんだね」
「……まぁ、そゆこと」
なんて話しながら暫く森を歩いていくと、2人は周囲の樹とはレベルが違う一本の巨大な樹の根元に辿り着いた。
「ここだよ! パパ、ママ!! 連れてきたよ~!」
ハーピィの女性がそう叫ぶと、樹のうろから
「……まさか、本当に居たとはな」
「人間の少年? ……ではないようね。何者かしら」
「どうしますか? 御父上、御母上。本当に現れてしまいましたが」
3人がこそこそと、創哉たちを見ながら話し合う。
「あ~っ!! もうっ! そいつヤダって言ったじゃんパパママ! なんでまた来てんのよ!!」
「貴女こそいい加減聞き分けなさい! もう80にもなるのよ! とうに子供の5人くらいは産んでても可笑しくないの! それを貴女って娘はっ……!」
「知らないよそんなの! 好きな人としか子供作りたくないもん! あんなダッサイダンスでどう好きになれってのよ!」
ぎゃーぎゃーとハイトーンで言い合う
「むぅ……あの娘に婚約者など、現れようはずがないと思っていたのだがな。おい、本当にお前は
「……そうですが、何か?」
「諦めてくれんか。わし等は、何処の馬の骨とも知れんお前なんぞより昔から知る友人の息子にあの娘を任せたいのだ」
「それは貴方の都合でしょう。娘さんの気持ちを考えてやったら如何ですか?」
冷たく睨み合う、父と婚約者(嘘)。
「ふぅ……分かりました。では、こうしましょう。僕と婚約者さんでダンス勝負をします。それを見て判断してもらう。というのは如何でしょうか?」
そんなお見合い相手の言葉に、
「「「それだ!!」」」
創哉を除く全員が賛同した。
「……めんどくさ」
◇◇◇
「み、認めるしかない……!! なんと美しく、それでいて激しいダンスなのかっ……!?」
「か、感動してしまいました。な、涙が!」
「ま、負けた。完全に……」
「で、でっしょー!!! どーよ! これを見てからあいつのダンス見せられて、その気になる訳ないじゃん!!」
「うぐっ……そ、それは確かに」
「だからもう良いよね! お見合いなんかしなくて!!」
「……う、うむ。これほどの相手が既に居るのなら、良いだろう」
「やったー!! じゃあ、これからまた遊びに行ってくるね~!」
「え、えぇ……」
こうして、ハーピィ一家のお家騒動は終わった。
◇◇◇
「え、ちょっと上手すぎない!? 本気になっちゃいそうなんですけど!」
「知らねーよ。ってか、俺もあんな上手く出来ると思ってなかったし。マジでちょっと齧った程度だったんだよ」
「そうなの!? めっちゃ才能ある~!!! ねぇ、旦那さん私にくれない? 子供作るだけだからさ! 種だけ貰ったらすぐに返すから!! ね? ね!?」
「絶対嫌。ちゃんと創哉のこと愛してるなら良いけど、そうじゃないなら絶対嫌。諦めて他の男探して」
「えぇ~~っ! ぶぅ。ケチ! あっ、じゃあさ! さっきやってたダンスの名前教えてよ! それが出来るかどうか聞いて回ってみるから!」
「……多分誰も知らねぇぞ」
「良いから良いから!!」
「ブレイクダンス。それが、俺がさっきやったダンスの名前だ」
そう。ダンス対決で創哉がやったダンスは、ブレイクダンス。転生しレベルアップを経て、更に魔王へ覚醒し身体能力がうんと上がった為に、思いの外簡単にイメージ通りに出来てしまったダンスであった。
――ダンスの熟練度が6に上昇しました
今話の最終ステータス
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名前:神崎創哉 16歳 男 レベル:25
種族:魔王
クラス:
CBP:3000/3000
筋力:4500
耐久:1650
敏捷:3100
魔力:7750
器用:6250
能力:クラススキル『迷宮の支配者』
…DPショップ,領地拡大,領域改変,領地内転移
虚ろなる身体,万能翻訳,眷属化,解析
ユニークスキル『暗殺者』
…暗器百般,生体解剖,弱点看破,影渡り,状態異常付与
ユニークスキル『武芸者』
…武芸百般,闘気術,超加速
ユニークスキル『吟遊詩人』
…唱奏思念伝達,地獄耳,絶対音感,声域拡張
称号スキル
『転生者』『超シスコン』『
エクストラスキル
『悪意感知』『直感』『家事全般』
常用スキル
『魔王死気』
熟練度:芸術5,ダンス6
耐性:飲食不要,疲労無効,不老,痛み耐性Lv8,熱変動耐性Lv3
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