第1章 魔王への覚醒
1話 え、俺の心臓って外にあんの。マジ?
妹を通り魔から庇って死んだと思ったら、知らない場所で目が覚めた。
辺りは薄暗く、あちこちに点在するヒカリゴケによって辛うじて視界を保っている状態だった。天井からは無数の鍾乳石が垂れ下がっている。
どうやらここは、何処かの洞窟らしい。また、ヒカリゴケが光っているのなら集光出来る環境であることを意味する。ということは、いつもは何処からか光が射し込むのだろう。それがないってことは、外は夜だな。
次に、水場も何処かにある筈だ。でなければコケは生存できないからな。コケが多い方へ多い方へと進めば、水場に辿り着くはず。水があれば、とりあえず生きていける。雑菌や寄生虫は怖いが、湧き水ならまだ比較的安全だ。
そんな状態の中俺はと言うと、ごつごつとした岩から直接切り出したような乱雑なつくりの椅子に座っていた。
にしても――。
「俺は……いったい、どうしたってんだ?」
「あっ、気が付いた? マスター君」
突然知らない女性が話しかけてきた。
綺麗な人だ。けれど、何故か既視感がある。全体像を見ると全く知らない女性なのに、部分部分に注視すると物凄く見覚えがあるのだ。前に見たアニメのキャラにそっくりな部分もあるし、お気に入りの漫画のキャラにそっくりな部分もある。(※こいつの姿は読者の皆さんで脳内補完してください)
偶然なのだろうか。……本当に? そんなことがあり得るのか。
それに、違和感はそれだけじゃない。そもそも誰かがいるような気配を感じなかったし、今も感じていない。それがまず可笑しいのだ。
自慢じゃないが、俺は自他ともに認める気配斬りマスターだ。(※気配斬りというのは目隠しをして視界を完全に塞いだ状態で気配を探り、おもちゃの剣で斬り合うチャンバラゲームである)
更に、かくれんぼの鬼をすればすぐに全員見つけられるし、誰かが背後に立てばすぐに気づく。そんな俺が気配を感じられないとは、一体どういうことなんだ?
まさか、彼女はホログラム? だとすれば納得だ。ほとんど真っ暗闇なのに女性の姿だけがくっきりと映る理由にもなる。……いや、それともまさか、気配のない存在……人造人間か!? そっちでも納得だ。例えば体表に蓄光性の何かしらを塗ってあるとかなら、見える理由になる。そんなもんがあるのか、人造人間なんているのか、という疑問はこの際置いておく。
「ちょ、ちょっと待った待った! 僕はホログラムじゃないし、ましてや人造人間なんかでもないよ。霊体だから生物が持つ気配がないんだよ。見えるのも同じ。いわば幻影だね。あぁ、だからって怖がらないでよ? 怨霊じゃないんだから」
「……貴女は、心が読めるんですか?」
「ん〜、別に読心術が使えるって訳じゃないんだ。相手がマスター君だから分かるだけ。他の人には通用しない。それと! 僕に敬語なんか使わないでよ。僕とマスター君は運命共同体、切っても切れない関係にあるんだからさ」
むくれたように話す女性。可愛い。でも、俺と彼女が運命共同体ってのはどういうことだ? 意味深に過ぎる。
だがまぁ敬語が得意な訳ではないし、タメ語で良いと言うなら甘えよう。
「分かった。それじゃあ色々と聞きたいことはあるけど、ひとまず俺は今どういう状況なのか、教えてもらってもいいかな?」
「ん~、それは私が口頭でうだうだ説明するより、直接見て理解してもらった方が手っ取り早いかな。騙されたと思ってメニューオープンって言ってみて? マスター君が良く知るあのイメージを思い浮かべながら、ね?」
俺をマスターと呼ぶ謎の女性は、微笑みながらそう言ってきた。
目が覚めたら知らない場所に居て、メニューオープンとかいう単語を耳にする。
テンプレではメニューではなくステータスオープンだったが、これはもしかしてアレなのだろうか? 期待しても良いのだろうか。
正直、興奮が抑えきれない。膨れ上がる期待を胸に、俺は呟いた。
「メニューオープン」
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アイテム
ダンジョン
装備
ステータス
マップ
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現れた半透明の窓。
感触はなく、自在に操作でき、後ろに手を回せば透けてそれが見える。
「ほ、本当に……出た」
イメージとしてはARのようなもの、だろうか。
そうか。彼女の言う幻影とは、こういうことか。彼女は、このメニューウィンドウと同じ、俺の内にのみ存在するのだ。
でもこれがあるってことは、本当にファンタジーな世界に転生したんだ俺。残してきた妹のことは心配だけどそれはそれとして、正直メッチャ興奮する。
「ん、ダンジョン?」
よくあるRPG的なメニューウィンドウだな、とか思ってたけど……もしかして俺ってダンジョンマスターに転生したのか? もはやそうとしか思えない。
まさか彼女は、そういうことなのか? 十中八九間違いないだろうと個人的には確信しているが一応、諸々を確定とする為にも、好奇心としてもステータスを見てみよう。
俺はメニューウィンドウに書いてある、ステータスの項目をタップする。
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名前:神崎創哉 16歳 男 レベル:1
種族:人間
クラス:
CBP:3000/3000
筋力:150
耐久:80
敏捷:120
魔力:300
器用:250
能力:クラススキル『迷宮の支配者』
…DPショップ,領地拡大,領地内転移
虚ろなる身体,万能翻訳,眷属化,解析
称号スキル
『転生者』『超シスコン』
エクストラスキル
『気配感知』『悪意感知』『直感』
『家事全般』
熟練度:芸術5,歌唱6,演奏6
耐性:飲食不要,疲労無効,不老,痛み耐性Lv8,熱変動耐性Lv3
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「おぉ! これが俺のステータスか!!」
やっぱりダンジョンマスターに転生してたんだな。じゃあ、彼女もやはりそういうことなのだろう。ダンジョンマスター系のテンプレ的に考えて。
まぁそれはともかく、このステータスって喜んでいいのか良く分かんないな。
めちゃめちゃ弱くは見えないけど、チートって感じはしないしな。
でも、耐性スキルはかなり強力そうだ。やっぱ俺の最愛の妹、癒しの大天使を逃がすために滅多刺しにされてでも根性で取り押さえながら死んだから、その分を加味されてるのか。飲食不要とか書いてあるけど、別に要らないだけで食えるなら問題はない。これで飲食
俺、自分で作った飯を食うのが趣味みたいなところあったしね。疲労無効も大助かりだな。更には老いない。全人類が羨むな。不老
防御面は結構強いのでは? ってか、気配感知と超シスコンなんてのもあるな。まぁでもこれには自信あったからね。なきゃ嘘だ。
家事全般にも心当たりはあるけど、意外だな。スキル化するほどではないと思っていた。
読んで字の如くが多いけど、ちょくちょく詳しい効果が分からないのが紛れてるな。多分解析ってのは鑑定スキルの仲間みたいなものだと思うけど……使い方知らないしな。どうしよう。俺のステータスってどんなもんなのか知りたい。スキルの詳しい効果も知りたいし。
「そんな君に朗報だよ、マスター君! 確かにチートではないけど、君が思ってるよりずっと強い。だから安心して? だってこの世界のベテラン戦士のステータスよりちょっと低いくらいだもん。もし人間社会に行ったらかなり異質に映るだろうね。レベル1で、剣の振り方も分からないような素人なのに、身体能力はやたらと高いんだもん。しかもマスター君の本領は魔法だしね」
「そうなのか? まぁ確かにCBP? とか言うのを除けば、魔力が一番高かったけど……でも俺、魔法の使い方分かんないぞ。というか魔法どころかスキルの使い方すら全然分からない」
「うんうん。そこらのことを解決するためにも、いっちょマスター君の椅子の裏にあるオーブに触れてみよっか。そうすれば色々と分かるよ。全部ね」
その言葉に従い、椅子から立ち上がり裏を覗く。
そこには、不自然に良質な石の台座の上に浮かび上がる、淡く光る無色な水晶玉のようなものがあった。
「……よし」
高鳴る鼓動を軽く深呼吸して抑えると、オーブに手を伸ばす。彼女の言葉から導き出される答えは一つだ。それに加えダンジョンマスター系のテンプレ的に考えて、きっと前世より遥かに俺の自由は減るだろう。
だけど、俺は既に死んだ筈の人間だ。ならば彼女が与えてくれたこの命で精一杯恩を返すのが、俺に課せられた責務だろう。
それに何より……昔から、やってみたいと思ってたことだしな。
「っ……!!!」
脳裏を過る数多の情報。
刷り込まれていく。あっという間に。
――エクストラスキル『魔力感知』を獲得しました
――エクストラスキル『魔力操作』を獲得しました
男とも女ともとれる、無機質な声が脳裏に響く。
オタク知識で言う所の脳内ボイスさんだが、これはコアに刷り込まれた知識によると、『天啓』と呼ぶらしい。
「……良く分かった。これから宜しくな? 相棒」
「ふふ、うん! 宜しく。マスター君」
「なぁ、色々と分かったんだけど……さ。その格好と口調は何なの? どっから来たの?」
「うん? あぁ、君の性格を読み取った結果だよ。どうしたらやる気を引き出せるか試行したら女性の姿をするのが一番だと結論が出たんだ」
「……俺のやる気を引き出すなら、妹が一番だと思うが?」
「自分から言っておいてピクピクしないでもらえるかい? そんなことしたらマスター君、間違いなくブチギレるでしょ? 『超超超ちょー! 可愛い癒しの大天使たるマイリトルシスターに化けるたぁ、フテェ輩だなぁ~。 ……ぶっ殺す』とか言って。やる気を引き出す所か、自殺するハメになっちゃうよ」
「……ふん。流石は相棒ってか。良く分かってらっしゃる。俺の物真似も完璧だな。声も身体も、言い方も、全部そのままだ」
「ふふ、当然だよ。ま、とにかくそういうこと。だから僕は君の記憶の中から集めた色んな要素を組み合わせて、良い感じの容姿と口調をつくり上げたのさ。おかげで第一印象はかなり良かった。まさに『計画通り』だね」
やはり、偶然ではなかったか。
見覚えがあったのも当然だったのだ。俺の記憶から抜粋して組み合わせた姿なんだから。
「物真似が上手いのは分かったから、どっかの新世界の神みたいな顔しなくて良いぞ〜。はは! でも、おかげで気楽にやれそうだ。相棒は俺の全てを知ってる。異世界に来てなお、アニメやゲームの話を存分に出来るってのは、幸せなもんだ。俺の要望通りの見た目と口調に出来るってことだもんな? さっき自分からやってたけど」
「ふふ。うん、そうだね。何なら今すぐやってみせようか? コスプレ演技」
「是非! と頼みたい所だが今すぐは遠慮しよう。スキルの使い方も分かったことだし早速俺のスキルを解析してみたい」
「ふふ、そうかい」
相棒の微笑みを受けながら、俺は早速眼に魔力を集中させて解析を発動しステータスウィンドウの知りたい箇所を順に見つめた。
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迷宮の支配者
『DPショップ』…DPで商品を購入する。また、不要物をDPに交換する
『領地拡大』…迷宮の規模を広げる。拡大予定地内で最も強い生物の無力化により、土地及び生物を迷宮内に取り込む
『領域改変』…外装・内装・領域内効果などをDPを消費して改変する
『領地内転移』…領地の中であれば何処へでも自在に転移できる
『虚ろなる身体』…肉体がどれだけ傷つこうと無限に再生する。だが、そのダメージは
『万能翻訳』…全ての種族と通常通りに対話が可能。文字も言葉も、互いの知るモノへ自動的に変換される
『眷属化』…契約した対象を眷属にする。承諾さえ得られていれば肉体の生死を問わず転生させることが可能。眷属は主の種族に近い肉体を獲得する。また主と眷属の間に霊的なパスを繋ぐ。それを介し互いの位置の把握、思念の共有、召喚、経験値の共有を可能とする。眷属との繋がりを強めるほど互いに強くなる。繋がりの強化方法は、眷属によって異なる
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『CBP』…Core Barrier Pointの略。
『転生者』…成長速度や成長値に極大補正がかかる
『超シスコン』…自身が妹だと認識した者を守るために戦う時、全パラメータが極大上昇。状況が終了するまで効果は永遠に持続する
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「なるほど……」
CBPってのは、要するにHPのことだったのか。まぁ薄々察してはいたけど。でもこれ、結構強いんじゃね? パラメータはチート感なかったけど、これは相当強いぞ。首斬り飛ばされたって心臓貫かれたって再生できるんだもんな。まぁ
もしかしたらRPGのHPって概念、これの親戚みたいなものなのかもしれない。彼らは自分の身体に防御膜を常に張ってて、それが破れたら死亡扱い、みたいな。
あー、でも某国民的RPGとか、ゲームによってはちゃんと棺桶入るか。多分彼らは防御膜が破れたショックで死んでたんだろうな。
だって、RPGにおいて戦闘中にキャラクターが部位欠損する、なんて事態起きたことないしね。
「眷属化、かぁ」
「マスター君。今エッチなこと考えたでしょ」
「なっ!? どうしてバレ……あ"ぁ"ぁ"ぁ"。んんっ! 相棒よ。時には口を噤んでおくことも大事だと思うんだ。でもまぁ、否定はしない。だって眷属だぜ? 男の子なら誰でも考えちゃうと思うんだ僕は。うん」
「あはは! まだ僕とマスター君だけなんだから、固いこと言いっこなしだよ。実質一人なんだぜ?」
「まぁそりゃそうなんだけどさぁ。そんな綺麗なお姉さんに言われるとちょっと来るものがあるっていうか。まぁいいや、え~っと……」
こうして、俺の
解析によって判明したスキルの詳細を読み進めながら、今更だから口にはしないが俺は一つ思うことがあった。
え、俺の心臓って外にあんの。マジ?
その瞬間!
突然、緊急地震速報のような不協和音が、脳が割れんばかりの爆音で響いたのだった。
今話の最終ステータス
====================
名前:神崎創哉 16歳 男 レベル:1
種族:人間
クラス:
CBP:3000/3000
筋力:150
耐久:80
敏捷:120
魔力:300
器用:250
能力:クラススキル『迷宮の支配者』
…DPショップ,領地拡大,領地内転移
虚ろなる身体,万能翻訳,眷属化,解析
称号スキル
『転生者』『超シスコン』
エクストラスキル
『気配感知』『悪意感知』『直感』『家事全般』
『魔力感知』(new)『魔力操作』(new)
熟練度:芸術5,歌唱6,演奏6
耐性:飲食不要,疲労無効,不老,痛み耐性Lv8,熱変動耐性Lv3
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