青痣

これ

第1話



 ニュースをお伝えします。本日未明、千葉県館山市の海岸沿いで乗用車に入った男性の遺体が発見されました。男性は東京都在住の新美陽一にいみよういちさん二九歳。警察は事件性の有無も含めて捜査を進めています。





「陽一、あと何分くらいで着く?」


 助手席に座った浜本はまもとが訊いてくる。俺は運転しながら、浜本の顔を垣間見た。鼻が低く、唇もぼてっとしていて、とても端正な顔立ちとは言えない。


 でも、その肌は窓から射しこむ朝日に照らされて、血色がよく見えた。


「今、高速に乗ったばかりだろ。あと軽く一時間はかかるよ」


「じゃあさ、それまで暇だし何か話してようぜ。お前さ、この車いつ買ったんだよ。前会ったときには買ってなかっただろ」


 運転している俺は暇じゃないんだけどな。そう言いたい思いを押しこんで、俺は答える。


「先月だよ。こうやって誰かを乗せるのはお前が初めてだ」


「そっか。じゃあ、初めての人を乗せての運転、緊張してんのか?」


「まあ、それなりにはな」


「へぇ。別に乗ってんのは俺とお前だけだし、そんな緊張しなくてもいいのに」


 浜本は軽い調子で言っていたけれど、それでも俺は緊張せずにはいられない。これはただのドライブではないのだ。


「なぁ、なんか音楽聴かないか?」


 数秒間の沈黙に耐えかねて、俺は口にした。浜本も「ああ、頼むわ」と応じている。


 俺は注意深く、ドア下の収納から一枚のCDを取り出した。何も書かれていない真っ白なCDだ。


 浜本にインパネの挿入口に入れてくれるよう頼む。浜本がCDを入れたのを確認して、俺は再生ボタンを押した。流れてきた透明感のあるイントロに、浜本はすぐにその曲に思い至ったらしい。


「おっ、スピッツじゃん。『青い車』だよな、これ」


「まあな、お前スピッツ好きだっただろ。このCDにはスピッツだけしか入ってないから、お前にいいかと思って」

「えー、マジでサンキューな。いや、テンション上がるわ。『青い車』は、俺がスピッツで好きな曲のベストスリーに入るから」


 声を弾ませる浜本に、俺も「ああ」と頷く。浜本がこの曲を好きなのは俺も以前から知っていた。浜本とのドライブ中に音楽をかけるならこの曲しか、スピッツしかありえない。


 スピーカーから伸びやかな歌が流れ出す。綺麗な歌声に、俺の気分も引き上げられていく。


「あっ、もしかしてこの車が青いのも、『青い車』から来てんのか?」


「まあな、俺もスピッツ好きだし、黒や白よりはいいと思って」


「いや、こんな高い買い物をそういう理由で決められるなんてよっぽどだぞ。マジのファンじゃん」


「そうかな」


 曲はサビに入る。何度聴いても心地よいメロディーだ。でも、浜本は小さく乾いた笑いを漏らしている。


「ていうか、これから海に行くからこの選曲って、ちょっとそのまますぎねぇか? ベタすぎだろ」


「別にいいだろ。俺だってたまにはこういうベタなことしたい気分なんだよ」


 俺は口を尖らせる。これが浜本と最初で最後のドライブになるかもしれないのだ。奇をてらってスベるよりはマシだろう。


 浜本が「そうだな」と頷くと、俺たちの間からいったん会話はなくなった。でも、車内には音楽が流れているから微妙な感じはあまりしない。


 大らかな曲は、俺たちの間に流れる時間を穏やかなものに変えてくれていた。





 窓の外では雨音が響いている。いや、響くというよりも打ちつけると言った方が正しいその音は乱暴で、会議室の中にいても俺は耳を塞ぎたくなってくる。


 鉛色の空に覆われるように、電気が点いていても会議室の雰囲気は暗い。


「では、新美さん。最後に部署の人たちに改めて挨拶に行きましょうか」


 中谷なかたにさんにそう言われて、俺たちは会議室を後にした。同じ階にある経理部は目と鼻の先にあって、俺は心の準備ができないままオフィスに足を踏み入れる。


 俺たちが入ってきたことに一瞥しかしなかった一〇人ほどの同僚が、中谷さんに「皆さん、少しお時間よろしいでしょうか?」と言われると、全員の目がはっきりと俺たちの元へ向く。


 雑談をほとんどしたことがない同僚たちの目は、冷めきっていた。


「今日で新美さんが退職となります。最後に一言だけご挨拶をいただきます」


「本日付で退職となる新美です。皆さん、本当にお世話になりました。ありがとうございました」


 中谷さんに最後の挨拶を振られても、俺はほとんど喋れなかった。同僚が俺が辞めることにほとんど関心を抱いていないのが、視線で分かってしまう。「ありがとうございました」と口々に発せられる言葉も、まるで揃わない拍手も、ただ形式上やっているという体裁を隠そうともしていない。俺はもう不要な存在だということが改めて身に染みた。


 最後に一階のロビーで中谷さんと一言二言言葉を交わしてから、俺はもう二度と訪れない会社を後にする。


 外に出たとき、数分前まで激しく降っていた雨はいつの間にか止んでいて、雲の隙間からかすかに晴れ間が覗いていた。でも、その光は俺の心にまでは届かなかった。





 一五分ほど歩いて家に帰る。アパートの三階。ドアを開けると衣類やレジ袋などが散らかった部屋が、俺を招き入れた。何週間も前から放置されているゴミ袋もいくつかあり、部屋にはすえたような臭いさえ漂っている。


 部屋着に着替えて、俺は真っ先にベッドに横になった。外はまだ明るいし、空には晴れ間が増している。きっと多くの人が、今も汗水流して働いていることだろう。


 でも、俺はもう何ヶ月も洗っていない布団を被ると、そのまま目を閉じた。会社にいた時間は三〇分にも満たない。しかし、それだけで今の俺には重労働だ。この程度でへこたれてしまう自分が不甲斐ない。


 でも、そういった感覚も時間が経つにつれて、ゆっくりと薄れていっていた。


 目を覚ましてスマートフォンを見たとき、時刻は既に夜の九時を回っていた。家に帰ってきてから七時間、俺はずっと寝ていたことになる。まだ身体が重い感覚はあったものの、それでも腹は空いていて、その呑気さが腹立たしく情けなかった。


 俺は身体を起こし、カップラーメンを作るためにやかんでお湯を沸かす。沸いたお湯をカップラーメンに注ぐ。

 どうして俺はこんなにダメなのだろう。今日も何も生産的なことをしなかったばかりか、会社を辞めてしまった。収入はなくなり、このままではこのアパートにいつまでいられるかも分からない。SNSを見る気にもなれず、気分は塞ぎこんでいく一方だ。


 俺はただじっとカップラーメンが出来上がるのを待つ。すると、スマートフォンが振動して着信を知らせた。電話をかけてきたのは浜本だった。高校の同級生で、今でもたまに会っている。


 俺は何の気なしに着信に応じた。でも、「もしもし、新美さんの携帯電話でよろしいですか?」と聞こえてきたのは、女性の声だった。うっすらと聞き覚えがあるような気がする。


「はい、そうですが」


「私、晃浩あきひろの母です。今晃浩の携帯電話から、登録されている番号に電話をかけていまして」


「……どうかされたんですか?」


 浜本の母親は数秒置いて、絞り出すように口にした。


「……あの、晃浩が今日の昼、亡くなったんです」


 その言葉は、最悪としか表現できないようなものだった。脳がすぐに理解することを拒んでいる。言葉を失うとはこういうことを言うのだろう。


「……そうですか。それはご愁傷様です」少しして口から出た声は、自分でもぞっとするほどの冷たさを纏っていた。


「……はい。私たちもまだ受け止められない、信じられない気持ちでいっぱいです。でも、実際に現実として起きたからには、残された私たちが何もしないわけにはいかなくて。近々通夜と告別式を執り行う予定なのですが、新美さんはご都合など大丈夫でしょうか……?」


 それは日付を聞かないと何とも言えない。いや、今の俺には何日の何曜日だろうが関係はない。そう思うと少し落ちこむけれど、それは浜本が亡くなったと知らされた衝撃に比べれば、些細なことにすぎなかった。


 頭はぐらぐらし、心はぐちゃぐちゃにかき乱されている。俺もただ聞いただけではまだ信じられない。


 でも、浜本の母親が嘘や冗談でこんなことを言うわけがない。


 俺は「は、はい。また知らせてくれれば調整します」と応えるほかない。声は自然と暗くなっていた。


「は、はい。また日取りなどが決まったらお知らせしますね」


「はい。了解しました。あの、改めてですけど今回はご愁傷様でした」


「はい」と浜本の母親が返事をすると、電話口には気分が塞ぎこむかのような沈黙が訪れた。「で、では失礼します」と、浜本の母親との電話を終わりにする。


 すると、俺の部屋は何の音もしない状態に戻る。その静寂が今の俺には耳を塞ぎたくなるほどうるさく、俺は再びベッドに逃げこんだ。目を瞑ってみても、七時間たっぷり寝た後だからすぐには眠くなるはずもなく、それ以上に未だに収まっていない混乱が、睡魔の侵入をはねのける。


 どうして浜本は死んでしまったのだろう。そもそも本当に浜本は死んだのか。でも、ただでさえ頭はろくに働いていないうえに、考える材料も不足していて、答えや結論は出せるはずがなかった。


 何もできずに、ベッドの上で身体を丸める。遠くから、電車が高架を走っていく音が聞こえた。





「はい、ドロー2」


「あっ、俺もドロー2」


「俺もドロー2あるわ。二枚」


「なんだよー。俺が八枚も引かなきゃなんねぇんじゃねぇか。お前ら、よってたかって俺をいじめんなよー」


 そう言いながら、渋々山札からカードを八枚引いていく浜本を、俺たちは笑って眺めていた。手札が一気に多くなった浜本を見ていると、俺はまた笑いがこみあげてくる。高田たかだ木町きまちも笑みを絶やしていない。


 学校が終わった放課後、俺たちは浜本の家でウノに勤しんでいた。


「よっしゃー! あがりー!」


 浜本が最後の一枚を床に置く。八枚もの追加を喰らったのに、俺たちがなかなか上がれなくてもたもたしている間に、浜本は瞬く間に手札を減らしていた。


「うわー、まさか負けるとは思わなかったわ。途中、あんなに手札あったのに」


「まあ、お前らとは運の良さが違うんだよ。なにはともあれ、これで今度アイス奢んの決定な。楽しみにしてるわ」


 得意げな表情を浮かべている浜本にも、俺は悪い気はしなかった。一番安いアイスだったらたかだか一〇〇円もしない。


 確かに財布は痛むけれど、アイスを賭けようぜと言い始めたのは俺だったから、言ったことは守らなければならないだろう。


「なぁ、来週から夏休みだよな。お前ら、何すんだよ」


 ウノが一段落ついたところで、木町がふと口にする。それは外でじりじりと夕方の蝉が鳴いているこのときにふさわしい話題だった。


「俺はじいちゃんのとこに行くかな。毎年夏休みはそうしてるし」


「高田のじいちゃん家って確か北海道だっけ?」


「そう。最寄り駅から車で二時間かかるとこ」


「へぇ、やっぱ北海道ってデカいんだな」


「まあな。基本的にはあまり何もないとこなんだけど、まあそれでもゆっくりするよ。新美は?」


「俺はずっと東京にいる予定だよ。まあ花火見に行ったりとか、近くの神社での夏祭りに参加したりとか、色々夏っぽいことする予定」


「本当に日本の夏って感じだな。色々選択肢あって羨ましいぜ」


「何だよ、お前じいちゃん家嫌なのかよ」


「いや、全然そんなことはないんだけど、周りは自然ばっかだしすぐ後ろには山があるから。まあ俺はその中で遊ぶのも嫌いじゃないんだけどな」


「確かに東京の作られた自然とは違って、北海道の何つうか手つかず? の自然もいいよな」


「まあ、そんな良いことばっかじゃないけどな。虫とかめっちゃ出るし。そう言うお前はどうなんだよ? 夏休み、なんか予定あんのか?」


「俺は大体塾行ってるかな。俺たちもう二年だし、そろそろ受験の準備も始めとかねぇと」


「マジかよ。大変だな。学校からの課題もあんのに」


「ああ、本当に大変だよ。でも、今の俺じゃ志望校にはまだまだ偏差値的には届かないし、今のうちに頑張っとかねぇとな。それに」


「それに、なんだよ?」


「塾はお盆ぐらいで終わるんだけど、最後の一週間は親が勉強頑張ったご褒美に、旅行連れてってくれることになっててさ」


「マジかよ。それはいいな。で、どこ行くんだよ」


「韓国。一週間で色々周るよ」


「まさかの海外かよ。お前ん家、奮発してんな」


「ああ、俺もそう思う。だからこそ、それに応えられるように勉強頑張らねぇとな。ところで浜本は?」


「俺?」そう反応した浜本に、俺たちの視線は集中する。浜本は少しはにかんでから答えた。


「俺も大体家にいるかな。ほら、お前らも知ってると思うけど、俺ん家あまり金あるとは言えねぇし。どっちかっつうと貧乏寄りだし」


 浜本はなんてことのないように言っていたけれど、俺たちは一瞬返事に窮してしまう。確かに浜本は母親と築何十年も経っている平屋建てのアパートに住んでいるし、ゲーム機はおろか漫画もほとんど持っていない。


 俺たちの間には「訊いて悪かった」という空気が、誰からともなく発生した。「何だよ。冗談だよ」と浜本は軽い調子で言っていたけれど、浜本ほどにはお金に困っていなくて、いくつもの選択肢がある俺たちが笑ってはいけないような気がした。


「つっても貧乏だからってすることがねぇわけじゃねぇぞ。ほら、俺本好きじゃん。だから、暇なときは図書館行って涼しい中で本読むんだ。図書館なら本はタダで借りられるし、時間もある程度は潰せるからな」


「そっか。確かにそれは良い過ごし方かもな」そう俺はフォローするように言ったけれど、浜本の言葉に痛々しさを感じずにはいられない。お金がない中で浜本が編み出した生活の知恵に、涙ぐましい思いさえしてくる。


 でも、当の本人は「だろ? エアコンが効いた中で本を読むことの心地よさを、お前らにも知ってほしいくらいだぜ」と表面上は明るい調子を崩してはいない。


 だから、俺たちも憐れむようなことはしなかった。


「それよりもさ、ウノの続きやろうぜ。まぁ、次もどうせ俺が勝つけどな」


 この話題は退屈だというように、浜本が口にする。俺たちも頷いて、再びウノをする準備を整えた。


 ウノが再開されて、浜本はさっそくさっきのお返しというようにドロー4を出していて、隣にいる俺はなす術なくいきなり四枚のペナルティを喰らう。俺は笑みの中に、少し恨みがましい視線を混ぜて浜本を見る。


 浜本はまったく気にしていないように、満面の笑みを保ち続けていた。





「じゃあ、今配った進路調査票は、来週の金曜日までに提出するように。来月の三者面談の重要な資料になるんだから、しっかり親御さんとも話して考えて、決して白紙で提出することがないようにな」


 先生がそう言うと、教室には口々に小さな返事が起こった。俺は手元のプリントに目を落とす。はっきりと「進路調査票」と書かれたそのプリントは、希望の進路先を第三希望まで書きこめるようになっていた。


「じゃあ、俺からの連絡は以上だから。高田」


 今日の日直である高田が指名されて、「起立」と淡々と言う。立ち上がった俺たちは「礼」と高田が言ったのを合図にして、「ありがとうございました」と挨拶をした。生徒たちの揃った声が教室に響く。


 窓の外では、校庭の木々がほとんどその葉を落としていた。


「陽一、一緒に帰ろうぜ」


 ホームルームが終わるやいなや、浜本に声をかけられて、俺は頷いた。高田はまだ日直の仕事があったし、木町にはこれから塾がある。


 俺たちは騒がしい教室を一緒に出ると、昇降口を後にして、学校から帰る。肌に触れる空気は、もうめっきり寒くなっていた。


「進路調査票って正直だるいよな。なんでいちいちこんなもの書かなきゃなんねぇんだって、感じしねぇ?」


 少し話しながら歩いて、人通りも車通りも多い大通りに出ると、浜本が愚痴っぽく口にした。俺は小さく笑って返す。


「まあ、しょうがねぇだろ。学校だって生徒の希望は把握しておきたいだろうし。こんなもん適当に書いときゃいいんだよ」


「そうだよな。適当でいいよな。でもよ、お前はどうすんだよ?」


「どうすんだよって?」


「大学行くか、それとも就職すんのかどっちだよって話」


「そうだなぁ。まあ何となくだけど、大学には行ってみてぇなとは思ってるよ。別に今はまだ何かやりたいことや学びたいことがあるってわけじゃねぇけど、大学に行ってる間に何か見つかるかもしれねぇしな」


「それってどこの大学なのかってもう決まってたりすんのか?」


「いや、これから考える。でも、まあなんとかなんだろ」


「そうだな。お前、頭いいもんな。きっとどの大学にだって入れるよ」


「ありがとな。ところでお前はどうすんだよ?」


 そう訊いた瞬間、浜本は小さくふき出すようにして笑った。言わなくても分かるだろとでも言うように。


「それ、俺に訊くか? 就職に決まってんだろ。別に大学に行ってまで勉強したいとかは思わねぇしな。高校でもう十分だよ」


「そうだな」俺はそう相槌を打って、かすかに笑う。でも、それはほんの少しの気まずさも含んでいた。


 浜本の家は母子家庭だ。家計は決して楽ではない。だから、奨学金を借りない限りは大学に行くのは難しいだろう。


 俺はバツの悪い思いに駆られる。進学と就職のどちらも選べる自分が、少し恥ずかしく思えた。


「なあ、陽一さ」


 俺たちは信号で立ち止まる。そのときだった。浜本がぽつりと口を開いたのは。


「なんだよ」


「お前さ、好きなことやれよ。お前なら大丈夫だよ」


 どこか遠くを見るような目で言った浜本に、俺は少し遅れてから「ああ」と言うほかなかった。「どういうことだよ」なんて訊き返せるはずがない。


 そう言ったきり浜本も黙ってしまって、騒がしい大通りの中で俺たちの間だけに沈黙が降りる。普段以上に長く感じられた信号待ちの時間を経て、再び歩き出す俺たち。


 しばらく帰り道が分かれる交差点に差しかかるまで、俺たちはそのまま何も喋れなかった。





 壇上では、区長が式辞を述べている。男性はスーツ、女性は振袖を着た参加者はたぶん誰も話に聴き入ってはいない。それどころか暖房が効いた区民会館の空気は、眠気すら誘っている。


 今年に入って二回目の月曜日。俺たちは区の成人式に参加していた。


 俺の隣では、浜本がうつらうつらしている。着ているスーツには、少なくない数の皺が寄っていた。


「お前、区長の話んときほとんど寝てたよな」


 成人式は午前一〇時からの開始で、終わって久しぶりに会った高田や木町と少し話したら、昼食を食べるのにちょうどいい時間帯になった。区民会館からは少し離れたファミリーレストランに入る。


 浜本は、悪びれもせずにはにかんでいた。


「だってよ、あんなザ・形式的な何の面白みもない話聞いてたら、誰だって眠くなってくるだろ。無駄に朝も早かったんだから、しょうがないだろ」


「まあ、それはあるな。俺も正直ちょっと眠かったし、退屈であくびが出そうになった」


「だろ? あんな判で押したような成人式自体に意味なんてさほどねぇんだよ。こうやって久しぶりに昔の友達に会うのがメインなんだから。お前や高田や木町みたいにな」


「だな。こういった機会でもないと、なかなか集まることってないからな」


「ああ。で、最近お前はどうなんだよ、大学生活楽しんでんのか?」


「まあ、そこそこには楽しいよ。今は映画研究会に入って、色々昔の映画とか見たりしてる。正直古かったり白黒だからって敬遠してた部分はあるけど、さすがに名作と言われてる映画は今見ても面白れぇよ」


「そっか。そりゃよかったな。で、どうだよ。大学で彼女とかできたりしたのかよ?」


「ああ、できたよ」


「へ、へぇ。そうなんだ」


「何だよ、その目は。もう別れたっつうの。一回生のときに三ヶ月ぐらい付き合っただけだから。今は連絡すら取ってねぇよ」


「でも、やることはやったんだろ?」


「まあ、それは別にいいだろ。それよりもお前はどうなんだよ。高校卒業して建設会社に入ってただろ。どうだよ? 仕事は」


「ああ、それならもう辞めたよ」


「マジで? 何でだよ?」


「別に仕事がきつかったわけじゃねぇんだけどさ。いや、普通に毎日残業はあったりしたんだけど、それよりも会社の雰囲気に馴染めなくてさ。必要以上に結束を求めてきて、『社員は全員家族です』とか、平気で言っちゃう会社だったんだぜ。そういうノリがさすがにきつくてさ。一年半勤めたところで、退職届を出したよ」


「そっか。それは大変だったな」


「まあな。でも、今はバイトで倉庫でのピッキング作業をしててさ。全然お互いに干渉してこない職場だから、なんとかやれてるよ。そうそう、それよりも俺最近小説を書き始めたんだよ」


「えっ、マジか。どんな小説だよ?」


「巨大なタコが地上に現れて東京を襲うって小説」


「本当にどんな小説だよ。でも、すげぇじゃん。お前、高校んときから本読むの好きだったもんな」


「別にすごくなんてねぇよ。でも、書き上げたら新人賞に応募するつもり。お前、どうするよ。もし、俺の小説が新人賞を受賞して、作家デビューってことになったら」


「そうだな、そのときは発売日に真っ先に買いに行ってやるよ」


「ありがとな。俺もまずは最後まで書き上げられるよう頑張るわ。だから、お前も頑張れよ。これから就活とか社会人生活とか大変なこと色々あると思うけど、それでもさ」


「ああ、そうだな。俺も頑張るよ。だから、お前もバイトとか小説とか頑張れよ。作家になって俺にお前が書いたもの読ませてくれよな」


「言われねぇでも」浜本がまた小さく笑う。俺はその笑みに力強さを感じて安堵した。俺も微笑んで、男二人で笑いあっているという事実に、さらに笑みが漏れてくる。


 店員が料理を運んできて、昼食を食べ始めてからも、俺たちはなんてことのない雑談をした。浜本はバイト先での愚痴を面白おかしく話していた。





「……浜本、そろそろ着いたかな」


 木町が呟く。どこにかは、きっと訊かなくても三人ともが分かっていた。だからこそ、俺と高田はすぐに返事ができない。


 告別式が終わって斎場を後にした俺たちは、駅に向かう途中にある中華料理店にいた。休日の昼時ともあって、店内は満席に近く騒がしい。その騒がしさが、俺たちの心の空白を少しだけ埋めた。


「……さあな。どこでそうされるのかまでは、俺たちは聞かされてねぇわけだし。分かるわけねぇだろ」


「でも、もしかしたらもうとっくに着いていて、今頃は中に入れられてるかもしれねぇぜ。そう思うとやりきれねぇよな」


「高田、その話はやめようぜ。そんなとこ想像したって気分よくないだろ」


「……そうだな」


 高田がそう言ったきり、俺たちの間には沈黙が降りる。俺たちはこういうときに言うべき言葉を持ち合わせていなかった。


「……浜本の人生って何だったんだろうな」


 木町が呟いた言葉は、俺たちの心にずしりと沈みこんだ。「どういうことだよ」とは俺には訊き返せない。そういった思いは、浜本の母親から電話を受けた後に、俺も感じていたからだ。


 母子家庭に育ち、経済的な理由から選択肢を狭められ、アルバイトでどうにか食いつなぎ、趣味で書いていた小説は結局日の目を見ることはなかった。そして、最後は五階にある自分の部屋のベランダから飛び降りた。それは誰も言わなかったけれど、俺はニュースで知ってしまっていたし、きっと高田たちもそうだろう。


 意味のない人生なんてない。そう言い切れない自分の弱さを感じてしまう。


 誰も何も言わずに、俺たちの間には葬式の後だとしても、重たすぎる空気が垂れこめる。料理が運ばれてくる気配は、まだ全然ない。


「……俺さ、一回浜本が書いた小説読んだことあるんだよな」


 おもむろに言った高田に、俺は思わず「マジかよ」と口にしてしまう。浜本は、俺に自分が書いた小説を一度だって見せたことはなかった。


「ああ。確か去年ぐらいだったかな。いきなり浜本から『これ読んでくれ』ってメールが来たんだ」


「それどんな小説だったんだよ。面白かったのか?」


「本当に正直に言うと、よく分からなかった。巨大なタコが地上に現れて東京を襲う話だったんだけど、展開が突拍子もないっていうかさ。小説にしても、さすがにあり得ないだろって思ったな」


「そこは『面白かった』って言うところだろ」


 木町がそう指摘する横で、俺は一言では言い表せない思いを抱えていた。どうして読ませてくれなかったんだという思いは、もちろんある。でも、同じくらい浜本が七年以上をかけても一つの小説を書き上げていたことに、安堵もしている。よくは知らないがきっと小説を書こうとしても、何一つ書き上げられない人間だって世の中にはいるだろう。


 そう考えると、浜本は立派だ。たとえ何年もかけた小説が箸にも棒にも掛からなかったとしても、俺はそれを肯定したかった。


「まあでもよ、たとえ何も結果が出なくても、小説を一本書けただけですげぇことじゃんか。生きた証を残せたってことじゃんか。多くの人の目に触れなくたって、俺はそこに意味がなかったとは少しも思わねぇよ」


「そうだな。浜本が生きたことは、なかったことにはなったりしないよな」


「ああ。高田、もしよかったら後でその小説、俺にもメールで送ってくれねぇ? 俺も浜本がどんな小説を書いたのか読んでみてぇ」


「分かった。帰ったらメールするよ」


「ああ、頼むな」そう俺たちが頷いたところで、店員が料理を持ってやってきた。ラーメンやチャーハン、餃子や天津飯といった料理がテーブルに並ぶ。


 俺たちは料理を食べながら、また少し話をした。浜本との思い出話は、食事の間は尽きなかった。





 車から降りると、抜けるような青い空が広がっていた。目の前には乳白色の砂浜が広がり、その向こうでは広大な海が静かに凪いでいる。濃厚な潮の匂いは、俺にとっても十年以上ぶりに嗅ぐものだ。


 少し涼しくなってきたとはいえ、まだまだ半袖でいられる季節。平日だからか、それとももう海水浴の期間は終わったからか、海岸には人っ子一人いなかった。


「着いたなー」


 浜本は大きく一つ伸びをすると、靴と靴下を脱いで早足で海へと向かっていった。俺はその後を普通の速度で追う。


 波打ち際に立った浜本は、寄せては返す波に触れて「うわっ、冷たっ」という声を出している。どうやら今の浜本でも、温度は感じるらしい。ますます俺と変わらない。


「なあ、陽一も来いよ。冷たくて気持ちいいぜ」


 浜本が、砂浜にただ立っている俺に声をかける。その顔は、海に反射する太陽に照らされてキラキラと輝いていた。


 浜本にそう言われると、俺も海に入るしかなくなる。もともとそういうつもりで来たのだ。そう俺は自分に言い聞かせ、靴と靴下を脱いで浜本のもとへと向かう。


 波打ち際に立って海に触れると、目が覚めるような冷たさが俺を刺激した。思っていたよりもずっと冷たい。でも、嫌な感じはあまりしなかった。


 そんな俺に浜本は笑って、海水をかけてくる。しょっぱい香りが全身を包んで、俺は「何すんだよ」と海水をかけ返した。俺たちはそれからしばらく、子供みたいにお互いに海水を浴びせ続ける。


 浜本は心からの笑みを浮かべていて、服が海水まみれになっても、俺は本当の意味で腹を立てることはなかった。


「気持ちいいな」


 ふと呟いた浜本に、俺も「ああ」と同意した。海から吹く風は、涼しくて心地がいい。


 波打ち際でひとしきり遊んだ後、俺たちは砂浜に腰を下ろしていた。


「しっかし、お前が昨日いきなり『海行こうぜ』っつったときはびっくりしたぜ。もう夏は終わってるっつうのに」


「それはお前が高校のときに言ってたことを思い出したんだよ。高二のとき夏休みに入る前に『海行きたい』ってお前、言ってたじゃんか」


「えっ、俺そんなこと言ってたっけ?」


「言ってたよ。お前が覚えてなくても俺は覚えてんだよ。お前にとっては大したことないことでも、俺にとっては違うから。お前が来たときに、真っ先にそんときのことを思い出したんだ」


「そっか。まあ、ありがとな。俺にとっては記憶にないことでも、十年越しに思いを叶えてくれて。純粋に感謝してるよ」


「ああ。そう言ってもらえると、俺としても連れてきた甲斐があったわ」


 俺たちは小さく頬を緩める。車通りも少なく波の音しか聞こえない砂浜は、ちょうどいい静けさを保っていた。


「やっぱ、海って果てしねぇよな」


 浜本が感慨深そうにこぼす。目の前に広がる景色の広大さに、圧倒されているのかもしれない。


 俺は「急にどうしたんだよ」と、ツッコむことはしなかった。


「……そうだな」


「この海はさ、世界の知らない国とも確かに繋がってんだよな。俺たちは向こうの国のことなんて知らねぇし、向こうも俺たちのことなんて何一つ意識してない。でも、たとえ計り知れないほど広大でも海で繋がってると思うと、なんか不思議だよな」


「ああ、そうだな」


「俺もどっか行ってみたかったなぁ。俺さ、ほとんど東京から出たことなかったから。旅行とか、それこそ海外旅行とかすげぇ憧れだったんだ」


「そうだな。何なら今からこのまま空港に行って、どっか飛行機でも乗っていっちまおっか?」


「いいよ。つうか俺たちパスポート持ってねぇだろ。不法入国になっちまうよ」


 現実的なことを口にした浜本に、俺も「そうだな」と微笑む。俺たちはもうどこにも行けないのだ。俺たちに翼なんてない。


「そういえば、海と言えば読んだぜ。お前が書いた小説」


「何だよ。いきなり急に。あんなの書き上げるまでに何年もかかったわりには、どの新人賞に送っても箸にも棒にもかからなかった。黒歴史だろ」


「いいや。俺は面白いと思ったぜ。確かに筋道は通ってなかったけど、でも荒唐無稽というか、めちゃくちゃな面白さがあった」


「それ、俺の前だからって無理してねぇか? 無理やりにでも褒めなきゃって思ってんだろ」


「いや、俺は本当に心から面白いと思ったよ。あれが誰にも評価されないなんて、選考委員の目は全員節穴だよ。だから、黒歴史とか言ってなかったことにすんなよな。お前の小説は、俺という読者には確かに届いたんだから」


「そっか。なんか救われたわ。何年もかけて書いた甲斐があったなって、今ようやく初めて思えた」


「ああ、そうだな。俺もお前が書いた小説を読めてよかったと思ってるよ」


 俺たちは目を合わせる。ごてごてと着飾った言葉はもう必要なかった。目を合わせるだけで想いを交換できている気がしているのは、きっと俺だけではないだろう。


 浜本が一つ小さく頷く。その表情は清々しかった。


「じゃあ、俺もうそろそろ行こっかな」


 浜本がそう言って立ち上がる。俺を見ずに歩きだそうとした浜本を、俺は思わず呼びとめていた。


「行くってどこにだよ」


「さあ、どこだろな。でも、俺はここにいちゃいけねぇ存在なんだろ。それくらいは俺にも分かってるから」


「何だよ、いちゃいけねぇ存在って。そんなことねぇよ。なあ、これから一緒に飯でも食いに行こうぜ。ちょっと行った先に、美味いラーメン屋があるみてぇなんだよ」


「いや、いいよ。俺、全部分かってるから。自分自身に何が起きたのかも含めて、全部な」


 落ち着いた口調で言う浜本は本当にすべてを、今の自分の状態も含めて分かっているようだった。きっと俺に引き留めることは許されていない。奇跡はいつまでも続かないのだ。


「本当に行くのかよ」


「ああ、行くよ。お前ともこれで最後だな。じゃあな、陽一。お前は生きろよ。俺の分までとか気張らなくていい。お前はお前のままで生きてればいいんだからな」


「……ああ」


「ああ、じゃあな」


 それだけ俺に言い残して、浜本は海に向かって歩いていく。そして、波打ち際に立つと振り返って、俺に向けて手を振っていた。俺も心の中で手を振り返す。


 そして、俺が一つ瞬きをした次の瞬間、浜本の姿は消えていた。目の前にはただ寄せては返す波と、広大な海の先にある水平線だけが見えている。


 俺はぎゅっと手を握った。海から涼しい風がまた一筋吹いて、頬をそっと撫でていた。





 浜本がいなくなってから、少しの間海を目に焼きつけるように眺めて、俺は自分の青い車に戻った。


 とはいえ、このまま帰るのではない。ここで帰ったところで俺の生活は何一つ変わらない。自分にこの先何かができるなんて、俺にはとても思えない。


 だから、今日で終わりにするのだ。


 俺はトランクを開けた。中には白い筒状のコンロと四角い段ボールが置かれている。


 俺は段ボールの蓋を開けた。中には、黒い円筒状の物体が入っていた。その用途は誰がどう見ても明らかだろう。これは練炭だ。注文したときに見た見本とまったく同じものが入っていて、俺は一つ息を吐く。


 練炭は何のためにあるのか。その答えは一つしかない。


 俺は練炭を入れたコンロを、後部座席に置いた。浜本が座っていた助手席に置くのはなんとなく気が引けた。


 ポケットからマッチを取り出して火をつけて、コンロの中に落とした。真っ黒な練炭がじわじわと赤く灯り始める


 運転席に座る。全ての窓と鍵が閉まっていることを確認して、俺は最後に運転席の鍵を閉めた。


 これで準備は完了だ。あとはただ車の中で待っているだけでいい。


 ただでさえ日の光が射し込んで暑くなり始めた車内は、練炭が燃える熱によってさらにその室温を上げていく。半袖を着ていても暑く、じんわりと汗をかくぐらいだ。


 だけれど、自ら命を絶つには苦しくない死に方なんてあり得ない。


 じっと目を閉じることもできず、俺はフロントガラスの外に広がる砂浜と海を眺め続けた。揺らめく水面が日の光を反射して輝いていた。


 練炭を燃やすことで発生する一酸化炭素は無味無臭だ。燃えている途中の練炭からは煙も出ない。


 だから、車内に訪れる変化はしばらくは温度が上がる以外はなく、俺は本当に一酸化炭素が発生しているのか、少し疑わしい思いを抱いてしまう。


 俺はその思いを払拭するために、窓の外の景色を見続けた。


 すると、俺の頭にはいくつかの思い出が浮かぶ。これが走馬灯というやつなのだろうか。でも、頭に浮かぶ思い出はどれも平凡でありきたりで、良くも悪くもなかった。


 俺は取るに足らない、掃いて捨てるような人間の一人にすぎない。こんなやつ一人いなくなっても、世界は何も変わらない。


 ただじっと窓の外を眺めていると、時間はひどくゆっくりと過ぎる。でも、練炭を焚き始めて二時間ほどが経ったと感じた頃、俺の頭には小さな頭痛が生まれた。


 最初の方は軽い違和感にすぎなかったそれは次第に増していき、頭の中で大きな虫がのたうち回っているかのような痛みとなって俺を襲う。おまけに吐き気もしてきた。いよいよ俺が死に向かっているということだろう。


 俺は頭痛や吐き気に必死に耐える。自分から死のうと言うのだ。これくらいの苦痛は当然だろう。


「お前は生きろよ」


 なぜだかは分からない。でも、俺の脳裏には先ほど浜本が言ったことが浮かんでいた。


 そうだ。生きている俺は、もうそれが叶わない浜本の願いに応えなければならない。


 俺はまだ死ぬわけにはいかないのだ。


 俺は急くような手で運転席の鍵を解除し、ドアを開けて車の外に出た。じりじりと照りつけるような日差しと、潮の匂いを含んだ風が俺に飛びこんでくる。


 俺は思わず咳をした。何度も何度も咳をした。


 咳をする度、頭はガンガンに痛む。でも、それは紛れもなく俺が生きている証拠だった。生きようとしている証拠だった。


 俺は振り向く。そして、衝動的に言葉を吐き出した。


「俺はまだ死ねない! こんなところで死ぬわけにはいかない! 浜本に言われたんだ! 『お前は生きろよ』って! 生きている俺がその頼みを聞かないでどうする! 俺は生きてやる! 誰からも必要とされてなくても! 誰に顧みられることがなくても! 人生に意味がなくても! この先何もできなくても! 取るに足らない存在だって! 掃いて捨てるような人間だって! それがどうしたっつうんだよ! 俺は生きるからな! 生きて生きて生き抜いてやるからな! なぁ、お前らどうだよ!? 俺が死ぬと思ったか!? 俺に死んでほしかったか!? そりゃそうだよな! だって小説の冒頭で、俺が死んだニュースが書かれてたもんな! でも、そのニュースが絶対に正しいって誰が決めたんだよ! ニュースをお伝えします! ニュースをお伝えします! ってふざけんなよ! 死んで初めてニュースになるような人生なんてクソくらえだ! 俺は生きるんだよ! 生きてることが何のニュースにもならなくても! この小説が誰の目に触れなくても! ボツになってくずかごに丸めて捨てられても! でも、俺はここで生きるんだよ! お前らはそこで指くわえて見とけ! 俺はお前らの干渉なんて受けねぇからな! どうだ!? 悔しいかよ!? 悔しかったら、お前も生きてみろよ! いつか息絶えるその日まで生き抜いてみろよ! この小説はもう終わる! お前らとはこれでオサラバだ! でも、これを読んでるお前がもし死んでたら、俺は腹の底から笑ってやるよ! 指差して爆笑してやるよ! だから、俺に笑われないようにお前も生きろよな! 生きて生きて生き抜いて! そして、いつかどこかでまた会おうぜ! じゃあな!! あばよ!!!」



(完)

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青痣 これ @Ritalin203

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