過去を恨みは、どれよりも深く

羊丸

第1話 始まりの殺人

 悔しい。殺したい。


 彼女は雨に濡れたままそう心の中でつぶやいた。


 先ほど川に落ちたせいでそれも苛立ってはいるものの、今はむかつくのはあの男だ。あの男のせいで何一つ楽しいことなんてこれっぽっちもなかった。


 この先どうゆうふうにしてやろうかと考えている際にある「大丈夫か」と声が聞こえた。


 顔を上げると、そこには一人の血まみれの男性が立っていた。おまけに側にはさきほど殺したのか血まみれの女性が倒れていた。


「すごい顔だね。何かあったのかい」


 男性は優しく語りかけた。今の自分には怖いというよりも安心の気持ちが高まっていた。


「……私にも、殺しを教えて」


 気づけばそんな言葉が出ていた。男はその言葉にニヤリと微笑むと「どうして」と口にした。自身の経緯を話すと優しく抱きしめてくれた。


「いいよ。君の願い。叶えてあげる。よくここまで頑張ったね」


 男性は、今まで欲しかった言葉を言ってくれたことに涙が浮かんだのだった。







 朝が来たという知らせのベルに男、小林英郎ひでおは目を覚ました。


 11月のせいで肌寒さを短い髪を掻きながら感じつつ起き上がり、冷たい水で顔を洗った。


「ふぅ」


 英郎は息を漏らすと、棚の中からパンを取り出して焼き、それをバターに塗った。


 インスタントコーヒーをコップにそそぎ、それを口にはこぶ。熱く、苦いのが口の中に広がってさらに目が覚めた。身支度を整え、家を出ようとする前に仏壇に手を合わせた。


「行ってくるな。麗美」


 そういうと、家を出た。


 麗美は10年前の11月に死んだ娘。その原因は、自身のせいだ。


 理由は、あらゆる自由を半ば強引に半分奪っていたからだ。小学2年の頃に塾に通わせるようにさせ、点数を高く取るように要求をした。今言えば教育虐待という決して刑事や他の奴らがしてはいけない教育方法だった。


 妻は他の子と遊ばすようにも言ってきたが、それで成績が落ちたらどうすると怒鳴って黙らせた。


 低い点数を取った時は復習するようにもいいつけ、おまけに反省。高い点を取るまで遊ばせないようにしていた。


 高い点をとってもあの時は当然だというので誉めることさえしなかった。だがあの子が中学2年の頃、娘は行方不明になった。


 行方不明になった理由は娘が盗みを行ったと言われる手紙がポストの中に入っていたのだった。おまけに盗みの行動をとったと思われる写真もついていた。


 すぐさま部屋に行くと、その盗んだと思われるものがあった。家に帰ってきた娘にすぐさま怒鳴りつけ、おまけに頬を叩きつけた。


 麗美は何度も何度も否定をしたが証拠を突きつけたりなどをして怒鳴り続けた。


 妻は麗美の味方をしていてそれに関しても平手打ちをさせた。


 麗美は頬を抑えたまま家を出た。妻は探すことにしようと思ったが俺はそんなことはするなと怒鳴りつけ、そのまま盗んだものを全て取って写真に写っている店に向かった。


 店長を呼び、娘が盗んだもの渡しながら謝罪をしたが店長は不思議そうな顔を見せた。


「えっ? あの、何か間違っていませんか? というか普通盗みが働いていたら扉を通った際に警告音が鳴るはずなんですよ。おまけに防犯カメラにも全体がバッチリと写っている状態ですし、ちなみになんですが、娘さんの格好は」


 店長の言葉に英郎は送られた写真を見せた。


「あれ? この子昨日ちゃんとレジに来てお金払いましたよ。なんなら証拠見せますよ」


 店長はそう言って店の奥に案内をすると、防犯カメラを見せた。画面には娘がしっかりと商品をレジの方で買っている姿だった。


 その画面を見た瞬間、自身の顔が血の気が引くのと同時に心臓の鼓動が鳴り響く。


 英郎はその後店長にお礼を言うと雨が降る中懸命に駆け出して麗美を探し出した。探している最中に嫁が探していた。


 嫁はこっそり警察に行ってそれで捜索願いを出し、雨が降っているせいか懸命に探しているのだった。そして、返したと思われる文房具を持っていることに嫁はどうしてと質問をした。


 英郎は震えながら盗んではいなかったということを伝えると、嫁は怒りの顔をあらわにして叫んだ。


「ほら!! 言ったとおりじゃない。あの子がそんなことをするはずなんてないって!!! 貴方は仕事や娘の自由を奪うどころか、信用することすらしないのね」


 嫁はそれだけ言うと、探し始めた。その時のもう一人の娘は急遽友人に頼んでいたそうであり、その後も懸命に叫びながら麗美を探した。寒くても、何度も何度も何度も叫びながら探していた。


 だが探している中、川の方で娘の靴が発見されたと連絡が来た。すぐにその場所に行くと川だった。仲間が電話で言った靴を持っている。いつも履いているものだった。


 それを見た雪美は泣き叫ぶと、ひどく英郎を攻め立てた。


「娘が死んだのは! あんたのせいよぉぉぉぉぉ!」


 その場に、雪美の悲鳴が響き渡った。


 その後、雪美とは離婚。もう一人の娘の水穂が実家が育てることになった。だが、妻はひどく精神に異常をきたしてしまったのか精神病院に入院することになった。


 雪美の両親には入院費は払ってもらうと言われた。もちろんそこは承諾をして現在払い続けている所。


(あれからもぉ、10年か)


 英郎はそう思いながら警察署に向かった。前の警察署で働いてはいたものの実力のおかげなのか事を警察署内では大きくせずにそのまま東京の所に異動という形になった。


 そして現在は捜査一課の強行犯係になっている。


 警察署につき、自分のデスクで荷物を整えていると隣から「おはようございます」と女性の声が聞こえた。見ると、相棒の横澤葵だった。


「あぁ。おはよう。葵さん」

「おはようございます」


 蒼は半分疲れた表情を見せながら自身も荷物を自分のデスクの上に置いた。次には後ろから昴がおはようございますと声をかけながら捜査一課の部屋に入ってきた。


「あぁ。おはよう」

「おはようございます。英郎さん、葵ちゃん」


 昴は笑顔で返すと共に自分のデスクに座った。昴と葵は同い年であり、英郎の下についている刑事であり、お互いに英郎に尊敬の気持ちを持っている人物だった。


「そういえば二人とも。知っています? 今話題の都市伝説」

「都市伝説? なんだそれ」


 英郎は訳がわからないでいると葵はわかったのかすぐに察した。


「あぁ。なんかビルとか飛ぶ男か女かわからない、飛ぶ人間って言われているやつでしょ」

「そうそう!!! よくわかったな」

「なんだその、都市伝説の内容は」


 昴は興奮し切った表情でいうと、どんなものなのか話した。


「近頃、夜になるとマンションの上を軽々と飛び上がるらしいんですよ。それを目撃した人がネットに書き込んでいるらしくて」


 そう話していると、一人の警察が飛び込みながら叫んだ。


「大変です! 残虐死体が出たそうです!」


 その言葉に、その場にいた全員は慌ただしく準備をし始め、その刑事から場所を聞くと駆け足で車に向かった。


 場所は海に近い工場だった。二人の業者が入ったところ、遺体を発見したという。現場に行くとすでについている車と鑑識の車があった。


 ゴム手袋を着用し、目の前の黄色いテープをくぐって仏の所に向かうと血生臭い匂いが鼻を鋭く付いた。


 そして、遺体の目の前にして絶句をさせた。


「これは」


 遺体には沢山の刺し傷の他に、目には大量の釘が打ち込まれていた。英郎はあまりの場面に言葉が出ないまま手を合わせ、仏に手を合わせると近づいた。


「彼は」

「名前は高田夏帆。25歳。OLです。免許書やお財布は盗まれておりませんでした」

「そうか。しっかし、これはまたひでぇな。何度も刺された挙句にしまいには目を」


 英郎はそういうと、刑事の一人が「それだけではないんです」と口にした。


「えっ。他はなんなんだ」

「爪を見てください」


 そう言われ、爪を見てみると綺麗に剥がれてはいたが指先は何故か火傷の後まであった。


「おいおい。死んでから剥いだのか?」

「調べた結果なんですけど、それ、殺す前に剥いだ可能性があるそうです。それも、剥いだ後に鉄の何かを押し付けていた後が」


 話を聞いて英郎はかなり絶句をさせた。もちろん後ろで聞いていた葵も同じだった。ただ剥いだだけじゃあ足りず、追い打ちをかけるように痛みを増加させる方法はイカれている。


「酷すぎますね」

「えぇ。今、他の人か軽く聞き込みをしているのと、今親にもこのことを」


 中の刑事は少しだけ顔を歪ませた。これを聞いている親の泣いている姿は何度も見たことがあるためそれがあると思うととても心が痛んだ。


 尚更、娘を失った英郎には同情できる内容でもあった。自身でも娘を失ったのだからと。


「今、ここの監視カメラを確認しています。何か怪しい人物がいないかを」


 そう話していると、後ろから「怪しい人物が監視カメラに写っていました!」と仲間の叫びに何人かの刑事が駆け寄った。


「本当か!」

 

 英郎の言葉にその刑事は「はい」と返事をした。


「夜中の2時あたりにキャリアケースを持った女らしき人物が工場内に入っていく様子が見えました」

「どんな特徴ですか」


 葵の言葉に男性は白のロングの皮のコートに黒いシャツにズボンにブーツ、そして不気味に笑う仮面を着ていたという。


「そうか。じゃあそれを視野に入れながら操作だな」

「そうですが、ちょっとこの犯人おかしいんです」


 おかしいという言葉にどうゆうことだとその場にいた刑事は疑問に発した。


「後で会議の際でもお見せいたしますが、なんか防犯カメラのことに気がついていて。そこに向かって」


 刑事が言いかけた瞬間、「余裕そうにピースを向けたそうだ。それも血まみれの手で」と後ろから声が聞こえ、振り向くと一斉に姿勢を正しくした。


「お疲れ様です。西村央維おうい係長」


 一人の刑事がそう言った。央維は短い髪を整えつつ、黒のコートを纏い、白の手袋をはめていた。


「先ほど私もその動画を見せてもらった。どうやらその犯人はかなり余裕を持っている持ち主だ。気を抜くなよ。そして、これが終わったらそのあとは会議だ。そこからだ」


 央維の言葉にその場にいた人たちは「はい!」と返事をした。


 


 数時間後、再び会議室にそれぞれの係が集まった。


 央維が来ると全員が真剣な表情を見せた。


「これから会議を始める! 最初に鑑識」


 管理官が叫ぶと鑑識のリーダーが資料を持ちながら説明をし始めた。


「被害者の名前は太田結菜、25歳。東京都にあるIT関連の会社に勤めているOLです。死亡推定時刻は真夜中の一時。被害者の体には複数の刺し傷、そして爪を剥がれた後におそらく焼いた鉄を押し付けられた跡がありました。刺し傷に関してはきっと爪を剥いだ後に殺したんだと思われます」

「そうか。足跡は」

「足跡はやく26センチぐらいです。以上です」


 鑑識は報告をし終えると、その場に座った。次には捜査一課が話し出した。


「調査をしたところ。彼女は特に恨みを持つような人間ではないと言われていました。おまけに、皆から頼りにさせられているほどの人物です」

「なるほど、だとすると」

「はい。家庭問題に関するのが多いですね。話を聞く限りなのですが、なんでも家庭内で差別があり、あまり親にも会っていなかったそうです」


「なんだ? 何かあったのか」


 央維は強めに声を掛けると、鑑識は息を整えて話した。


「実はですね、行きの際の姿はカメラに映し出されていたのですが、帰りの姿がどこにも映っていなかったんです」


 鑑識の言葉に全員がざわざわし始めた。


 英郎はどうせカメラが途中で故障したのだろうと感じた。


「故障じゃないのか。扉の方のやつは」


 央維は同じ考えを質問すると、発言をしている刑事は「出るところは確認できました」と叫んだ。


「ですが、工場を出た後の姿がどこにもなく、他のカメラも確認をいたしましたがその人物がどこにも」


 その言葉に言葉を失った。なんなら犯人はどのように防犯カメラから姿を消したのだ。まさかとは思うが空を飛んだのかと英郎は思ってしまった。


「まさか、途中で故障とかしたんじゃないのか」

「そうだと思ったんですが、そのようなケースはなかったです。そしてなのですが、信じられないことに壁には何か鋭利なもので刺した後が天井にある窓にまで刺さっていた他には、窓ガラスがわられていることです」

 

 以上ですと言うと、椅子に座った。央維は話を聞いてこめかみに指を考えた。そのほかの仲間は話を聞いて信じられないと言う気持ちだった。


 そして央維の行動は彼にとっては深刻に悩んでいることの表している証拠だと英郎は思った。


「ともかく、まだ見ていない仲間もいるだろうからまずは防犯カメラを見よう」。おい」


 央維が声を掛けると、数人の刑事がすぐさま設置準備をし始め、カーテンを全て閉めると捜査官たちの背後から大きなスクリーンが降りてきた。


 そして、先ほど見た防犯カメラの映像が流れ出した。大きなキャリアケースを推している女性の姿が映し出された。口笛を吹きながら工場に入り、再び押し出した。ことを済ませると、再びキャリアケースを押しながら帰ろうとする際、犯人は防犯カメラを見つめると、ゆっくりとピース姿を見せた。


 その次には自身の手の甲に漢字を書き始めた。丁寧に描くとそっぱを向いてキャリアケースを押し出した。


「ここから犯人の姿が見えないんだな」

「はい。そうです。ちなみに今書いた文字はいま鑑識が調べています」


 刑事の発言に央維は「よろしい」と返事をした。


「途中から映像が切れる、そのはずだったら何かしらと残るはずだ。なのに残っていない、か」


 央維は真剣な表情をしながら自身の手を一点に見つめて考えていた。そのうち誰かが小声で先ほどの鑑識の言葉で考えたのか壁でも上ったのではないかということを言い出した。


「壁、か。だが最初に捜査員、この辺りでこのような格好をした犯人を探し出してくれ」


 央維の言葉に全員が返事をすると、ゾロゾロと会議室を出て行った。


「しかし、犯人はどうやって工場の出入り口や避難用の扉から出たんでしょうか」


 英郎と葵も会議室をでながら先ほどのことを話していた。


「……わからない。あの場所には大きな穴さえ確認ができなかった。そのほかは遺体を運んだキャリアケースもだ。きっと、あの海に捨てられたんだと思うな。だが、問題はどこで殺されたかだ。犯人はあんな風に拷問をしたんだ。だったらどこかでしたはず。それがわからなければ意味はない」


 英郎はそう言いながら車に乗り、会社近くに行き、怪しい人物がいなかったか調査をし始めに行くのだった。





 まず二人が最初に向かったところは夏帆が住んでいたマンション近くだった。車を駐車場に停めて二人で外を歩き出し、マンションから出てきた一人の老人の女性に声をかけた。


「あのすいません」

「はい」


 英郎と葵は警察手帳を見せながらお話しできるかと優しい口調で言った。


「ここに住んでいる高田夏帆さんと言う方をご存知でしょうか」


 名前を出すと老人の女性は知っているのかすぐに悲しい表情を見せた。


「えぇ。知っていますわ。ひどい殺され方をしたんだってねぇ、家族での苦しいとこをがあったのに本当にお気の毒だわ」

「はい、それでなんですが、ここら辺に変な不審な人物は見ていないでしょうか。主になんですが、このような格好をした人を」


 英郎は手帳に挟んでいた写真の画像を見せた。老人の女性は「いえ」と首を横に振った。


「こんな人は見ていないけど、そういえばこの前変な女性をお見かけしたのよ」

「変な、女性ですか」


 葵は老人の女性の言葉を繰り返しに言った。


「えぇ。服装はそうね、黒いフードね。黒いフードに黒いズボンを纏った人が夜にマンションを見つめていたのよ。それも丁度夏帆さんが住んでいる所。あまりにも変な人だったから声はかけなかったわ」

「その人の顔は」


 英郎の言葉に女性は「暗くて見えなかったわ」と返事をした。


「あっ。女性だってわかったのはね。建物に入るときにため息が聞こえたのよ。その人のため息が女の人の声だったから、だからその人は女性だってわかったわ」

「なるほど、ありがとうございました」


 英郎は簡単にメモをすると、お礼を言って葵と一緒にマンション内に入った。


 被害者の隣のインターホンを押すとすぐさま「はい」と男性の声が聞こえた。


「すいません。警察者なんですが、お隣に住んでいる方のことでお聞きしてもよろしいでしょうか」

「わかりました。ちょっと待ってください」


 男性はそういうと、インターホンを切った。待っているとすぐに扉が半分開けられ、男性が顔を覗かせた。


「どんなことを」

「そうですね。何かトラブルや、周りに変な人が来ていたりなどは」


 葵の質問に男は考えると、「あっ!」と声を漏らした。


「実はこの前変な奴が窓の外にいたんすよ」

「それはもしかして、黒い服を」


 英郎がそういうと、男は必死に頷いた。


「そうっす! その人です。俺タバコを吸おうと窓に立った時にそいつみたんすけど、なんだろう、遠くからでも感じる変人? 主にヤバいやつを感じたんすよすごく。全身の毛穴がブワってするほど、俺すぐにタバコやめるほどですよ」


 男は思い出したのか自分の上でを摩った。


「ちなみに顔は」


 英郎の質問に男は言いにくそうに「実は」と口にした。


「これ、信じてもらえるかわからないんすけど、そいつ、なんかすごく怖い仮面をかぶっていたんですよ。それをみながら隣の部屋のことを見ていたんすよ」


 怖い仮面という言葉に特徴をいうと、男は再び頷いた。その話を聞いた瞬間にすぐにわかった。犯人は殺す前に被害者の頭上を調べ上げていることに。


 二人は礼を言うと、扉を閉めてその他何人かに聴取をすると、同じ人物が何回かマンションに訪れていることがわかったのだった。



「犯人が被害者のマンションを」


 警察庁に戻った英郎と葵は央維に報告をした。


「はい。それも、何人か目撃を」


 蒼の言葉に央維は「挑発でもしているのか?」と疑問を持った。


「本来ならば、目撃されないようにするものだろ。前までの被害者たちにはどうしてそのような目撃情報がなかったんだ? なぜ犯人は今頃」

「わかりません。ただ言えることは挑発です。ここまで僕たちが被害者を出していることに飽き飽きしているんです」


 英郎の説明に周りが多少のざわめきを見せた。


「そうか。だが、今一番気になるのはどうして家庭内問題を知ったかだ。まさかとは思うが、犯人はどこかでその情報を手に入れて、それでターゲットのことを細かく知ろうとしていた、そして行動だ。その犯人はなんでわざとらしく女性だとわかるようにため息なんか漏らしたことだが」


 央維の次の言葉に二人も来る前から感じていた。普通なら犯罪を起こすとなると犯人は自身の性別を晒さない。晒すということはそれだけの自身があるのか、あるいはそう簡単に捕まらないということを意味するのだろうとさえ考えた。

「それぐらいだな。でもありがとう、有利な情報だ。少しだけ休め。他のものはこの情報をもとに防犯カメラや聞き込みなどをするように指示を」


 央維は二人に声を掛け、英郎と葵はそれぞれ一旦休憩をすることにした。

 

「英郎さん。犯人のことなんですが」

「もしかして、街中を平然と歩いている中ターゲットを探している、と考えているのかな」


 英郎の言葉に葵は頷いた。


「全く同じだ。自分もそんなことを考えていた」

「やはり、じゃあ犯人は家庭内に問題がある人がいればそれで殺しのターゲットとして」

「あぁ、相手が子供であろうが大人であろうが家庭内に問題があればいいだけの話。たったそれだけの一つのことがあればなんだっていいんだ犯人は」

「そんな、でもなぜ家庭問題の加害者の人を」


 葵は自身が疑問に思っていることを口にした。英郎はそこで「後悔、解放」と口にした。


「えっ? 後悔と解放? どうゆう意味なんですか」

「言っての通り、家庭内での問題の他にはその加害者を他の人にわからない愛情がある。その子のため、私は過去と同じようになってほしくないからという気持ちを持っている。だが、とうの本人は辛い気持ちを知らない。犯人はそれを殺しでわからせるための後悔と共に、その加害者を苦しみから解放としてしている可能性がある」


 英郎は憶測での考えを説明し終えると、葵は納得の表情を見せた。


「確かに、なんだかそう説明されるとそう感じられます」


 葵はそう言ってメモをした。英郎は自分で発言はしたものの、この言葉に自身の胸がちくりと傷み、それは死んだ娘の顔が蘇った。


 自分の娘がもし生きていたら、自身がもしもまだ愚か者だったら。その犯人に狙われて残酷に殺されるかもしれないと考えるとゾッとすることさえ感じた。


「ともかく、こんな話をしても係長は信じてはくれないと思う。何よりも俺の憶測だからな」

「ですが、なんだか英郎さんの説明だとしっかりくる内容ですけど」

「そう思ってくれることは嬉しい。だが、上はその内容に納得はしないはずだ」


 英郎はそう言いながら購入した缶コーヒーを口にした。


 その後、時間になってそれぞれの捜査一課たちが会議室に戻り、それぞれ調査した結果報告をした。


「防犯カメラを確認したところですが、朝や昼には見れず、夜にその格好をした人物を発見できたのはあの近くのマンションで発見されていません」

「こちらの調査結果では、そのような人物を見かけている人なんていませんでした」


 調査の結果を伝え、央維は「本当か」と口にした。


「流石に仮面は無理だが、格好までは変えないだろう。調査結果を聞いた感じ、何も持っていないと聞いたからな」

「ですが、色々と防犯カメラを探しましたがどこにもその姿は映っていませんでした、ですが」

「なんだ」

「聞き込み調査では天井近くに住んでいる住民では大きい足音のようなのを聞いたという情報が」


 その話を聞いた瞬間、捜査員たちは再びざわめきを見せた。英郎の脳内には、まさかとは思うが建物を飛び乗っているのかという思考が浮かび上がった。


「おいおいおい。まさかとは思うが、犯人は建物の屋根を飛んで歩いたとでも言うのか」


 央維は信じられない気持ちで発言をした。


「わ、わかりませんが、聞いた情報はこれだけです」


 発表をした仲間はその場に座り込んだ。


「まさか、犯人は」

「そんなはずはないだろ」


 葵が発言しかけた瞬間、英郎はすぐさま別の何かだと察した。そもそも建物を自由に飛び移る時点に人間の域を超えているとさえ感じた。


 相手が怪物だなんて冗談じゃないと誰もが思った。


「……念の為、その音がしたものの鑑定しますか?」


 鑑識の中の一人がそう提案をした。


「そうだな。明日、科捜研と共に行ってくれ」


 央維は深いため息を漏らした。


「ともかく今日は解散だ。みんな、ゆっくり休んでくれ」


 央維はそういうと、皆それぞれバラバラになりながら会議室を出た。


 英郎も帰ろうと思った時、昴が葵と一緒にちょっときてくださいと呼んだ。なんだろうと二人は最初は思ったが、どうせ事件の調査に関することだろうと思い、二人はそのまま後に続いた。


 後に続くと、自動販売機のところまで行った。


「すみません、ちょっとお呼びだしてしまって」

「いや、構わない」

「大丈夫です。昴さん、でもどうしたんですか急にお呼び出して」


 葵は昴が質問をした。


 昴は頭を掻くと、「実は」と言葉を出した。


「あの調査結果で話していないことがあるんすよ。というか、これ話して頭おかしく思われるのも嫌で」

「はぁ。ダメだろ。調査したのは」

「いや、事前に央維係長にも話しました。だけど、話さなくていいって」


 昴はすぐに事前に報告したことを伝えた。


「何? なんで止められたんだ」


 調査結果の半分を伝えないでいいという央維の姿に不思議に思った。


「あの、調査をする中で聞いたことなんですけど。ある一人の人が見かけたって言うんすよ。その、高いビルから飛び乗っている姿を見たっていう」


 昴の言葉に二人は絶句を見せた。


「はぁ?? あの場所、足元だって暗すぎて見えないはずだ。」

「そうですよ! なんかすごく、都市伝説にいるようなやつじゃあないの」


 英郎と葵は思いつく限りの言葉を出した。暗闇の中を平然と飛ぶことができるのは、アニメ、映画、物語内でしかそのような行動はできないはずだ。ましてやなぜそのような目立つ行為をしたのだろうかと、その疑問も浮かび上がった。


「俺も見間違いではと質問したんすけど、本当に見たって言うのをいただいて」

「格好は」


 英郎が質問をすると、昴は英郎たちが入手した情報の格好を言った。英郎たちは犯人の行動に今私たちが相手をしているのは人間だろうかと疑問を浮かばせた。


「だけど、疑問に思わないんですかね。なぜ犯人はそう目立つ行為をしているのか」


 葵は首を傾げてつぶやいた。


「そこなんだよ葵ちゃん。俺もそこが気になったんだけど、係長は相手の見間違いだと発言してさ、なんだか、疑問に感じてしょうがないんだよ。二人の情報も同じくですよ。わかりやすく自分の性別をわかりやすく伝える行動なんて捕まえてくださいって言っているようなもんですもん」

「うーん」


 英郎は考え込んだ。犯人は警察をおちょくっているようにしかどうにも思い浮かばない。もう一つの、選ぶ相手はほとんど身内や他の人間関係についての悩みを抱えた被害者だけ。


 元凶を狙わずに被害者だけを襲う本当の理由さえもわからない。おまけに人に恨まれることやトラブルなどは一切なかった。


「はぁ、これはどうにもならんな」

「はい。何よりもかなり困難ですよ。だって、犯人の特徴はこれだけなんですから」


 昴はがっかりした表情でつぶやいた。


 


「や、やめで、やめでください」


 目の前で先ほど攫った小学生ぐらいの男の子は泣きながら懇願した。だが今やる行為は彼を解放するためでもある。


 彼は親に差別を受けている。原因は弟。弟がやること全て許され、彼は制限をさせている。それを時はなさそうとしている。そして、あの二人に永遠の後悔を押し付けるためでもあるのだ。


 もちろん普通ではなんも面白味を感じない。ただのつまらない映画に過ぎない。


「大丈夫。君の両親にはそれなりの罪を注ぐわなせるつもりなんだ。だから、安心して良いんだよ」


 私はにこりと微笑んでいうと、彼のことをノコギリで切り始めた。悲痛な叫びをし続けながら血が流れ続け、自身の手と体を汚した。


 息を絶え、予定通りの姿にできた。息を整えてふと横にある写真に目を向けた。


 憎く、自信をこんな風にしたあいつに復讐する瞬間ができると思うと全身がとても興奮していた。


 思わずそばにあったナイフを投げて写真に刺した。そして再び作業を続けた。


 

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