バケモノ

渡邉 峰始

第1話

 俺は人間じゃない。バケモノだ。俺には、人間に本来あるべき脳がほぼ無く、未知の生命体がその代わりを担っている。俺が生きているのは、未知の生命体が寄生し、本来あるべき脳を複製、脳として擬態し生命活動のすべてを支配しているからである。つまり、俺は人間の体を支配している未知の生命体。バケモノだ。現役で国立大学の医学部に合格した彼女が薦めた教授は、言葉を選んでいるようだが、一緒に聴いていた彼女が驚きのあまり固まっている。教授は、はっきりとバケモノという言葉を発しているわけではないが、誰がどう聞いてもバケモノと言っているのと同じだ。自分の知らなかった自分の正体が彼女にばれるとは思ってもいなかったが、自分の口から自分がバケモノだと告白する必要がなくなって良かった。いや、彼女に知られなかったのなら、わざわざ自分の口から言うことは無いだろう。少し後悔したが、まあ良かった。更に教授の説明は続いた。心臓もまた、未知の生命体で構成されている。なるほど。だろうな、と思った。やはりあの時、強盗犯の撃った拳銃の弾は、俺の心臓に命中していたのだ。運良く心臓をよけて体を貫通したという緊急病院の医師の見解は外れていたわけだ。それでも俺の身体の異変に気付いて紹介状を書いてくれたのは優秀な医師だったということか。そのとき俺がバケモノだと気付いていたなら一言あっても良かったのではないか。俺がどうしたところで、彼女の性格を考えたら今の状況は変わらないか。そもそも警備会社の集金なんて強盗に狙ってくれと言っている様なものだ。割の良いバイトで、今回強盗に遭うまで安全な仕事だと思い込んでいた。そう言えば相方の正社員の人どうなったか聞いてないな。犯人は捕まったのか、ニュース見て無かったな。浪人までして入学した一流大学、かなり休んでしまった。彼女の手前、研究に協力した方が良いのか。俺がバケモノだと公表する事は勘弁して貰いたい。予備校で偶然出逢えた彼女。あきらめかけた念願の一流大学に合格できたのは、間違いなく彼女の存在があったからだ。お互いに希望する大学に合格したら付き合おうと約束し、見事合格。俺たちは交際を始めた。別々の大学で学部も違う。それでもうまくやっていた。俺がバケモノだと知って彼女はどうするのだろう。心臓を撃たれても死なない、バケモノの俺はこれからどうすれば良いのだろう。

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バケモノ 渡邉 峰始 @T-Watanabe2021

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