【エッセイ】キロクとハメツ

赤瀬川

第1話 アカ

 僕は様々な物事を新たにして大学2年生を迎えた。

 例えば、1年の春休みを終える前に僕たちは所属する学部学科を決めるように迫られた。そこで大学のWebサイトの暖簾をくぐって何も注文せずに出てみたり、あるいは偉そうに学部選択について語っているユーチューバーの意見を、まるで自分は地獄耳ゆえ聞けてしまっているのだというように、取り入れてみようと思ってみたり、ついにXの検索欄に「学部選択」という文字を、まさに今の世間ではこの語句に関するポストが煮えたぎる湯の泡のように発生していて、それに皆が苦しんでいるのだと思い込みながら検索にかけていた。

 最新のポストは10時間前だった。

 僕は安心した。皆、学部選択に苦しんでいるのだ。そして同時に僕はより一層学部選択の重要性を教え込まれてしまうのである。

 そうして僕の春休みの一ヶ月は過ぎ去っていった。

 僕には友達がいなかった。

 そうして僕の残りの春休みが過ぎていった。

 

 と、書き残してしまうと僕は初めの一文でホラを吹いたことになるので、まだ書くことがあるはずである。しかし、本当に書くことはもうなくなってしまった。というわけで、僕の初めの一文は真っ赤な嘘なのである。その証明に、僕は今日、大学3年の夏休みの前半を何事もなく終えた。


 しかし実を言うと、僕は小説で売れてやろうという野望があり、その野望は自分の書いた物語に読者の人達が浸って、日常生活で付着したアカを上手い具合に固めてしまってくれという思いにまで成長することができた。

 そしてその野望の成長に僕の描写力や構成力が追いついているのかというと、只今周回遅れである。それもそのはずで、今実際に活躍されている小説家の方達のエッセイやら小説制作に対する意見に耳を傾けると、10割が幼い頃に膨大な数の本に触れ(本人は大したことない数と思っておられるだろう)、8割が幼い頃に性格に難を持っていた。幸運なことに、僕にはそのどちらもない。

 そして、そうめんみたいにSNSに流れている怪しい名言みたいなものを一生懸命にすくい取っては腹に入れて、満たす必要の無い大きな空白を満たそうとしている始末である。


 さて偶然にも、僕は今、少し救われた。さっき言ったその大きな空白は、目指すものに向かい合った時間と共に増殖するアカであることに気が付いた。そうだ、それをもっと堅くして、皮膚にしてしまえば良いのだ。鎧にしてしまえば良いのだ。

 僕は自分が描いた小説を今必要としている。この世の誰よりも必要としている。僕が小説を書かなくては、僕が救われることはない。

 しかし救われたいのか、と聞かれてしまえば、よだれを出しながら、そして数十分考えて、別に救われたくはない、そう答える。


 純粋な言葉達が僕の裁量のせいでこのような気持ちのわるい響きになってしまうのは、これで最後にしたい。というか、僕の描写力が伴っていないせいなので今回ばかりは仕方の無いことなのである。

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