第13話 安息
部屋に戻った
「あー疲れたー。昨日から色々あり過ぎた」
もう1つの空のベッドが寂しさを誘う部屋で、
昨日からトイレ以外はずっと一緒だったカンナは、向かいの
「まずい……」
20代前半の男である
「
部屋の扉を叩くノックの音と共に、カンナの声が聞こえてきたので、
「そうだった! 入る。2人はもう入ったの?」
「うん、私たちはもう入っちゃったから入るならどーぞって、
「分かった。今行く」
「行こ」
迎えに来てくれたカンナは青いオシャレなバスローブを着て、下ろした髪がまだ濡れており、身体からは湯気が出ている。
「この島、バスローブなんてあるの? しかもそんなオシャレなやつ」
「うん、なんか、浜辺で見付けた箱に入ってたんだって。
「なるほどな。案外使える物が揃ってたんだ、フォーミュラのクルーザー」
「私たちがこの島ですぐに野垂れ死なないように、敢えて使えそうな物とかをたくさん積んでたんじゃない? もしかしたら、私たちが乗って来たクルーザーの荷物も、あの浜辺に流れ着いてるかも」
「そうだね。今度探しに行ってみようか」
「うん、
カンナはそう言ってニコッと微笑んだ。
色っぽい姿のカンナに息を呑みながら、
♢
カンナに案内されてやって来たのは、寮の裏手のちょっとしたスペースだった。ボロボロの石畳の横に広がる枯れて茶色になった芝生。長年放置された為、雑草が混じってしまっているが、ある程度手入れされているので荒れ放題というわけではない。その芝生の上に、湯気を立たせた青いドラム缶風呂が1つ、存在感を放ちながら鎮座していた。そのドラム缶の足もとには、コンクリートブロックで組まれた
「へぇ〜、風呂ってドラム缶風呂なんだ! 俺初めて入るよ」
「私もここに来るまでは入った事ありませんでした。是非入ってみてください! 星空の下のドラム缶風呂は最高に気持ちいいですよ〜! ……本当は電気があれば寮の広い浴場を使えるんですけどね……」
普段の明るいブロンドの髪のサイドに作られたお団子ヘアーを解き、カンナ同様に髪を下ろした
「2人は一緒に入ったの?」
「別々だよ。私は一緒に入っても良かったけど、
「そ、そんなに大きくないですよ、澄川さん!
恥ずかしそうに頬を染めて、
「ごめんごめん、変なこと聞いて。じゃあ俺は入るけど……」
「あ、タオルとバスローブは
「ありがとう……でも、洗濯は自分でやるよ、男のパンツとか触りたくないっしょ?」
一笑に付して
「そんな事ないですよ。私はそういうの気にしませんから。まあ、
「
「いやいや、カンナに洗濯させるのも俺としては申し訳ないから、洗濯は自分でやるよ。ありがとう。で、2人はずっとここにいるの? 俺、服脱ぎたいんだけど」
服の襟元を引っ張りながら質問する
「え、いますよ。ここでのルールはドラム缶風呂に入る時は安全性を考慮して必ず2人以上で交互に入浴する事! 火加減も見ないとぬるくなっちゃいますし。それに、澄川さんに火の調整の仕方とか教えておけば、いつでも好きな時に入れますからね」
その話からすると、そもそもカンナは
ドラム缶風呂利用時のルールまでしっかりと制定されているという事は、パイドパイパーの社会的基盤はだいぶしっかりしているようだ。
「あー、なるほどね。じゃあ、カンナもここにいるってことか。なら、服脱ぐ時は2人とも向こう向いててくれよ」
「もちろん! 見ないから安心してください!」
カンナも同様に
2人が背中を向けたのを確認すると、
「脱いだ服は一旦そこのカゴに入れていいですよ」
言われた通り、
「……一緒に入れていいの?」
「問題ありません! 洗濯をご自分でするなら、帰りに持って帰ってもらえれば! あ、あと、ちゃんとお風呂に浮いてる簀子を踏んでくださいね。ドラム缶の底は熱いから火傷しちゃうので〜」
背を向けたままの
「了解」
「え!!?? 裸の男!!??」
「何だ!? 女の子?? うわっ!!??」
突然、カンナでも
「痛ってぇ……け、ケツが……」
「
真っ先に駆け寄って来たのはカンナだ。裸の男にもお構いなしに駆け寄り手を差し出し起こしてくれた。それはありがたい事だが、カンナの視線はしっかりと
「大丈夫、ありがとうカンナ。でも、平然と見るなよ」
「私は見られるのも、見るのも平気だから」
カンナはそう言ったが、クールな顔は頬が赤く、視線は
「平気とか言いつつ、興味津々みたいだけど?」
「興味がないとは言ってないよ。ネフィスの女の子なら普通の反応。
「平然と正論を並べやがって……」
カンナの堂々とした態度と返しに、
「ごめんなさい、
心配してくれる
「大丈夫だよ。それより、その子は?」
怯えたように
「この子は私のペアの
「うん、だから
「そっか。大丈夫? ……その、あの男の人の……見えてない? ミモザちゃん」
「うん……暗くて見えなかった……」
「
「ねぇ、
「ミモザちゃんにはまだ9年早いからねー」
「
カンナにも急かされたので、
「おおー! いい湯だー!」
ようやく湯に浸かれた
「ああ〜もう!
「見てないよ!! 何言ってるのよ!! 仮に見たとしても、私は大人だからいいの!」
顔を真っ赤にして
「ミモザちゃんはご飯食べてきた?」
「食べてきたよ。お風呂とベッドだけ貸してもらえれば大丈夫!」
「あー、お風呂はこのお兄さんの後に入ればいいけど、私の部屋のベッドは今日空いてないんだよね……」
「え? 何で?
「今日から新しく澄川さんと
「なら私が
「え? いいの? カンナ」
「問題ないよ。別に私はどこでも。
「全然問題ない!」
カンナの提案と
「澄川さんがいいならそれでお願いできますか? ミモザちゃんと
確かに10歳にも満たない少女と見ず知らずの男が一緒の部屋で寝るのは、紳士な
「俺もそれがいいと思う」
「じゃあ、すみませんがお2人とも、それでよろしくお願いします」
「なんか、私のせいですみません」
ミモザは礼儀正しく、カンナと風呂の中の
「いいよいいよ、後から来たのは俺たちの方だしね。それにしても、この風呂気持ちいいね」
「そうでしょ〜、私も初めて入った時は感動しました〜」
ミモザは初対面の
「ミモザちゃんは弓を使うんだね。今度俺にも教えてよ」
「私も教わる身だから、弓を教わりたいなら
「へー、それは楽しみだな」
新たな仲間との触れ合い。
過酷なサバイバル生活を覚悟していたが、本当に過酷だったのは今のところ、島に来た初日だけだ。パイドパイパーに来て心強い仲間たちに出会い、まともな生活を送れている。
だが、
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます