第10話 晩酌
そんな夕食後、
「酒は飲まんのか?」
テレビを見ていたお能登さまからお誘いが。下戸ではないが上戸でもない。風呂上りにビールでもとは思っていたが。
「そうか。ならば、ひと浴みしてから嗜むことにしよう」
お能登さまが先に浴室へ。三十分も経たずに戻ってきた。
「出歯亀をせぬとは、言った通りなのだな。志朗」
浴衣姿で、バスタオルで髪を巻いてそんなことを言うのは卑怯ですよ、お能登さま。カップラーメンが十個作れそうな時間、布団を敷いたり、米を研いだり、依頼主へクレームと愚痴のメールを送ったりして気を紛らわせていたんだから。
烏の行水よりは長めの風呂から上がるとすでにお能登さまは酌の準備をしていた。風呂上りはビールのつもりだったが、徳利が三合並んでいた。頬を主に染めたお能登さまが手招きをする。催眠術でもかかったかのように天女の誘いにふらっと隣に座った。御猪口に注いでくれた。昼とは違った甘美な香りがお能登さまからした。もうそれで酔いそうである。御猪口を軽く掲げて一口。火照った体をさらに熱が広がる。酒ってこんなに美味かったか?
「志朗、礼は何がいい?」
唐突だったが、そういえば昼にそんな話もあったなと思い出した。頭の中には多種多様な妄想が光速で浮かんできたが、
「この酌が礼ですよ」
「そうか。志朗がそう言うならそれでいい」
徳利から酒が注がれた。飲み干した。
テレビをザッピングしたら、時代劇をやっていた。殿様に頭を下げる、えっと侍?のセリフ。現実のこういう感じに当てはまるのかもしれないと思った。美人からお酌をしてもらえるとは、「恐悦至極に存じます」って。
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