第13話 ヴァイオリニスト (同級生)水沢陽子①

久我マンション群の中にある小ホールで、ヴァイオリンコンサートが行われた。

演奏者は現在トッププロの一人、水沢陽子(28歳:太郎の小学生から高校生までの同級生)。


全ての演奏プログラムが終わり、太郎は、水沢陽子の控室をノックした。

「素晴らしい演奏でした、ありがとうございます」

水沢陽子は満面の笑み。

「いえ、太郎君のホール好きなの」

「すごく響きが良くて」


太郎は、水沢陽子に目で合図。

二人は、そのまま隣接するパブに入った。


水沢陽子は、演奏直後もあって、ハイテンションだ。

「太郎君に逢いたくてね」

太郎は、軽く応じた。

「うん、気兼ねないから?」

水沢陽子は太郎に肩を寄せた。

「だって、幼なじみ」

「気が合うよね」


太郎は、スコッチを口に含む。

「演奏家の業界も大変だろ?」

水沢陽子は、涙目になった。

「足の引っ張り合い、嫌になる」

「裏では陰口だらけ」

「若くて、きれいな子もどんどん出てくるし」


太郎は、陽子にハンカチを渡した。

「俺は陽子の演奏が好きだよ」

「陽子もきれいだ、心配するな」

「いつでも、ここで弾いていい」

水沢陽子は、ポロポロと泣く。

「そんなこと言ってくれるのは、太郎君だけ」


太郎は話題を変えた。

「少し前に、美由紀が古本屋に来たよ」

水沢陽子は、涙を拭いた。

「え・・・懐かしい・・・元気だった?」

太郎は、やさしい声。

「ぽっちゃりだ」

(水沢陽子は太郎の頭をコツンとした)

「同窓会したいって」


水沢陽子は笑顔に戻った。

「いいね、やろう」

「元気出るかな」

太郎は頷いた。

「美由紀に言っておく」

「幹事やらせる、クラス委員長だったから」


水沢陽子の顏に生気が戻った。

「うん、私からも美由紀に連絡するよ」

「話したいし」

太郎

「昔話?」

「二人は仲良しだったよね」


水沢陽子は、花のような笑顔。

「うん、何でも話し合えた」

「クラスの中で、最初浮いていた私だったけど、美由紀に救われた」

太郎

「陽子は美女でヴァイオリン弾き、お高いイメージがあった」

「確かに声をかけ辛かった」


水沢陽子

「あれは辛かった、そんな気なかったのに」

太郎はクスッと笑った。

「俺は、ヴァイオリンではなくて、美女陽子に気後れした」

「だって、アイドル並みの美少女だった」


水沢陽子は、太郎に寄りかかった。

「でも、独身だよ」

「相手いないかなあ・・・」

太郎は、水沢陽子を横抱きにする。

「そうだね、いい人できるといいな」


水沢陽子は、甘い声に変わった。

「今晩・・・泊めて」

「誰もいない家に帰りたくない」


太郎は、静かに頷いている。

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