砂かけババ様

天川裕司

砂かけババ様

タイトル:砂かけババ様


俺は鬼太郎が大好きで、よく竹やぶに行って

妖怪を呼んだりしていた。何も来なかったけど。


でもめげずに青年になってもそんな事をしていて、

いつか必ず憧れの妖怪に会えるんじゃないかな?

そんな夢を追い駆けていた。


自分で作った妖怪ポストに、手紙を入れたこともある。

鬼太郎が会いに来てくれた夢を見たこともある。

そんな日々を過ごしている時。


「え?!あ、あれってまさか、砂かけ…ババ様…?」

本当にそっくりな老女が、

俺から少し離れた向こうをゆっくり歩いて行ったんだ。


俺はすぐに追い駆けて、

何とか少しでもしゃべれないかなあ?!

なんて気持ちで夢中になった。


すると彼女は少し向こうで薪か何かを拾ってる。

そして彼女の横には、小さな家のようなものがあったのだ。

土蔵造りの、昔ふうの家。

「あれはきっと、彼女の家だ…!」


そして俺は彼女のもとに駆け寄り、

これまでずっと追い続けてきたこの夢、

その夢に見てきたいろんなことを話した。

打ち明ける感じで、全部正直に言ったんだ。


すると彼女は微笑んでくれ、

ババ様「ほうか。お前も鬼太郎に魅せられたクチか」

と言ってニヤァっと笑い、

それから俺をもてなしてくれた。


鬼太郎を知っていて、

こんな言い方をするって事は、

彼女は間違いなく砂かけババ…

俺はそう確信した。


普通なら、相手が妖怪とわかれば

その場ですぐ逃げ出すのが人情だ。

でも俺は違う。

これまでの、あれほどの夢を追い駆けた自分、

そのぬくもりがあり、恐怖どころか

嬉しさで充満していたこの心。


「あ、ありがとうございます!」

ババ様「お前、煮物は好きか?」

「え?…にも、煮物?…あ、はい、煮物は好きです!」


彼女は俺に得意中の得意の煮物を振る舞ってくれた。

ババ様「どうじゃ?うまいか?」


「…あ、はい!とても…!」

精一杯答えた。


ジャリジャリジャリと言う音が耳の中から

口の中からずっと聞こえ続け、砂の味がしたんだ。

でもこんなこと彼女には言えない。

砂の味がしたなどと。

まぁ砂の味も結構おいしいと思えばおいしかった。


とても素晴らしい経験をした俺。

これはもう数年前の話だが、

いまだにこの思い出は俺の貴重な宝物だ。

だから今、妖怪と聞いてまず思い出すのは

あの砂の味。

俺の思い出のテイストは砂の味になっている。


動画はこちら(^^♪

https://www.youtube.com/watch?v=k0yddidUgnY

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砂かけババ様 天川裕司 @tenkawayuji

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