そっと紡ぐ彼女への想い
朝月 さくら
第1話
私には、生まれた瞬間から隣にいた幼馴染の女の子がいる。家も隣同士で、ずっと一緒の時間を過ごしてきたし、お互い唯一無二の親友同士。それは今後も変わらないものだと思っていた。
あの日までは――。
高校に入学して2か月が経ったある日の放課後、私はいつものように奈々と一緒に帰ろうと彼女がいるはずの教室へ向かった。
別々のクラスになったけれど、放課後には必ず顔を合わせ、一緒に帰るのが私たちの日常だった。だがその日、奈々の姿は教室になかった。
「どこ行ったんだろう…?」
奈々がいないことに、胸の奥に小さな違和感が生まれた。いつもなら教室で私を待っているはずなのに今日は見当たらない。
私は教室から足早に廊下へ出て学校内を探し始めた。
何となく落ち着かない気持ちが胸を締めつける。奈々がいないというだけでこんなにも不安になるなんて。
校舎内を歩いているとふと空き教室の方から人の気配を感じた。静まり返った放課後の校舎に、微かな声が響いていた。
誰もいないはずの空き教室から聞こえてくるその声に私は引き寄せられるように足を止めた。
「奈々…?」
胸のざわめきを感じながら、そっと教室の扉を開けた。
そこには、奈々と一人の男子が立っていた。
二人は向かい合い、男子が何かを真剣な表情で話している。よく見ると男子は奈々に告白しているようにも見えた。
私の足がその場で止まった。盗み見するものではないのはわかっているが目が離せない。そんな気持ちが入り混じり、私はその光景に釘付けになった。
奈々はいつも私の隣にいた。小さな頃からずっと一緒にいてどんなときも私のそばにいた。それが当たり前でこれからもずっと変わらないと思っていた。
でも、今目の前で繰り広げられている光景が、その"当たり前"を脅かされている。そんなような感覚に陥っていた。
奈々はとても可愛い。栗色の柔らかな髪が肩にかかり、ぱっちりとした二重の瞳はまるで小動物のように愛らしい。その華奢な体型と明るい性格は、同性の私でさえ可愛いと思ってしまうのだから、男子が奈々に惹かれるのも無理はないと思う。
男子が何かを言い終えると奈々の表情がふと変わった。驚きと微笑みが入り混じったその顔は、何かを受け入れたようにも見えた。彼女がその瞬間何を思ったのかはわからない。
これ以上は野暮だと思い私はその場を離れ校舎を出た。奈々に彼氏ができることは、親友として喜ぶべきことだ。それはわかっている。でも、私たちが過ごす時間が減るのは寂しい。そんな自分勝手な感情が私の心を支配していた。
奈々は私にとってかけがえのない親友だ。それに変わりはない。でも、奈々に彼氏ができたら、私たちの関係も少しは変わってしまうのだろうか。
私は奈々のことを心から大切に思っている。だからこそ、彼氏ができたことを喜んであげたい。でも、その気持ちに素直になれない自分がいることがもどかしかった。
家に着いても、奈々のことが頭から離れなかった。もし本当に奈々に彼氏ができたら、私はどうすればいいのだろう? その男子が奈々を大切にしてくれることを願うべきだ。
それでも私は、奈々が他の誰かと過ごす時間を奪われるような気がして、どうしようもなく不安だった。
奈々が彼氏と過ごす時間が増えることで、私との時間が減ることがこんなにも寂しいとは思わなかった。私と奈々はずっと一緒だったし、これからもそうであるはずだ。だからこそ、その変化に対して不安と寂しさを感じずにはいられない。
「なんでこんなに胸が苦しいんだろう……」
ベッドに横たわり、天井を見つめながら、私は静かにそうつぶやいた。奈々が他の誰かと過ごすことがそんなに辛いことなのか。奈々が誰かと付き合うことは、私にとっても喜ばしいことのはずだ。なのに、どうしてこんなにも心がざわつくのか、自分でもわからなかった。
もしかしたら、私は奈々が誰かと付き合うことで、自分の居場所がなくなるのではないかと感じているのかもしれない。奈々と過ごす時間が、私にとってどれだけ大切だったのか、それが今になって初めてわかった。
でも、その気持ちが何を意味するのか、私はまだ理解できていなかった。
それがただの寂しさなのか、それとももっと深い感情なのか、自分の中で整理がつかないまま私は静かに目を閉じた。
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