黄水晶の姉貴 シトリンシスター

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 呪いを祓う巫女は、事故物件の呪いを浄化できる。

 不動産屋をしているうちにとって、こんなに重宝する能力はない。

 お父さんからその巫女の世話を頼まれた。

 ノウ水封儀みふぎ

 本名は羅亜波らあはていうんだけど、お父さんに挨拶に言ったときに名前を変えたからそっちで呼ぶ。

 水封儀のお母さんも巫女だった。

 呪いに呑まれて消えちゃった日から水封儀は巫女になった。

 水封儀の両親が生きてたときからずっとずっと水封儀はひとりぼっちだった。

 だから一緒にいてあげたかった。

 例え呪いが見えなくたって。

 呪いを祓う力はホンモノなんだから。












 タウ・デプス 黄水晶の姉貴 シトリンシスター






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 水封儀は最初、呪いを祓うのを嫌がった。

 呪いが見えないのもずっと隠してたくらいだし。

 私が水封儀の力を利用するために近づいたと思ってなかなか心を許してくれなかった。

 実際そうなんだけどね。

 私は水封儀を死なせないためにここにいる。

 眼を潰そうとするから仕方なく入院になった。

 両腕をベッドに縛り付けて動かなくさせた。

 水封儀はどうでもよさそうに天井の隅を見てた。

 あまりに元気がなくなってきてご飯も食べなくなって来ちゃったので退院になった。

 もう眼を潰さないと約束して。

 潰したって潰さなくたって祓えるんでしょ?

「時寧、もらってよ」

 なんで?

 そんなすごい力。

「持ったらわかる」

 持たざる者はその気持ちがわからないよ。

「最後は呪いに呑まれて消える。無意味に」

 なんでそんなに後ろ向きなの?

 例えそうだとしてもいまその力があるなら役に立とうよ。

 わかった。利用されるのが嫌なんだ。

 給料を出すよ。

「わかってない」

 水封儀は機嫌を損ねると寝たふりをする。

 学校も行ってない。

 勉強したってしなくなって。

 どうせ呪いに呑まれて消える。水封儀はいつもそう言う。

 一緒に勉強しようとしても無駄。

 言葉と読み書きと計算は一応できるぽいけど、誰が教えたの?

 水封儀の両親かな。

 ねえ、今日こそは。

 説得するのに何年もかかった。

 お父さんは無理強いしなくていいと言ったけど、こんなにすごい力があるなら使わないと損だし。

「呪いに呑まれるのは本当だ」

 もしかしてお父さんは私も水封儀も知らないことを知ってるんじゃないかな、て思ったけど。

 水封儀が前向きになってくれることに関係しないんならどうでもよくて聞かなかった。

 水封儀が初めてその気になってくれた日は、

 大雨が降る梅雨の時期だった。












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「ねえ、なんでその気になってくれたの?」

 気になって何度も何度も聞いたけど。

 金魚が言ってたとか。

 雲が白かったとか。

 全然本当のことを教えてくれなかった。

 場所は如何にも出そうなボロアパート。

 車で送った。

「ここで待ってるから」

 雨がひどすぎて、すでに車を降りた水封儀には聞こえてないみたいだった。

 水封儀は意味のない傘を差してアパートに近づいた。

 迷わず2階の一番奥の部屋のブザーを押した。

 住人(若い男)は疑うことなくすぐに中に通した。

 そうゆう下心があったのだとしたらまあそれはあながち間違いじゃない。

 呪いを祓うには触媒が要る。

 水封儀一人でもできなくはないけど呪いが濃ければ濃いほど触媒は必須になる。

「ふうん、現地調達ってことね」

 水封儀が事前にこの場所を調べていた。

 というか、私が用意した事故物件リストから選んだのだ。

 一番ヤバイ場所を。

 30分もかからなかった。

 意味のない傘を差したずぶ濡れの水封儀がアパートから出てきた。

 思わず後部座席にブルーシートを敷いた。

「おかえり。早かったね」

「眠い。寝る」

 水封儀はそれだけ言って眼を瞑った。すぐに寝息が聞こえてきた。

 寝たふりでもどっちでもよかった。

「お疲れ様」

 このあとまさかの妊娠が発覚する。

 ボロアパート(事故物件)に住む何も持ってない男と再会したその日に。












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 染為そまためさんと初めて会ったのは、水封儀が入院しているときだった。

 染為さんも医者になりたてでだいぶ若かった。

 つまり私も若かったわけで。

 第一印象は、騙せそうな純朴な男。

 何もわからないうちにこっち側に引きずりこんでしまおうと思った。

 実際、うちの会社の専属の産業医を探してはいたし。

 夜の海に誘った。

「これはデートってことですか?」染為さんは頓珍漢なことを言っていた。

「デートと思いたいならそれでもどっちでも」本題はこっち。「うちの産業医になりませんか?」

「正式なお誘いですか?」

「私は社長の娘です。つまりそういうことです」

「参ったな。眼を付けられちゃったってことですよね」

「私のお眼鏡に叶ったってことで喜んでもらいたいところですが」

 染為さんに全部話した。

 水封儀のこと。

 会社のこと。

 私のこと。

 染為さんは黙って聞いてくれた。その上で承諾してくれた。

「私を選んだのが、岐蘇キソさんであるのなら、それに応えたいです」

 なんて馬鹿な返答。

 でもお陰で気に入っちゃった。

 そのまま事務所に連れて行って、もう患者じゃない水封儀に再会させた。

 そして、染為さんは私のダーリンになった。

 後にも先にも、愛した人はあなた一人。












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 妹のもっちゃんが、婚約者の兄に乱暴されたと聞いた。

 最悪だった。

 もしいま世界で一人殺していいならそいつを殺してた。

 もっちゃんの婚約者はそれを聞いていなくなってしまった。

 いなくなった先で死んだとかいう更に最悪な報せが飛び込んできた。

 なんで。

 なんでなんでなんで?

 なんでこんな最悪なことばっか妹に降りかかるの?

 私はダーリンもいて、息子の翔幸も産まれたってのに。

 わかった。

 私の不幸をぜんぶもっちゃんが肩代わりしてるんだ。

 ワタシハイキテイチャイケナイ?

 呪いだ。

 あの呪いの家だ。

「もっちゃん、あのね、もし声が届いてるなら聞いて? あのクソ野郎の子じゃないかもしれない。調べるの怖いかもしれないけど、調べる価値はあると思う。もし違ったらそのときは私が殺してあげるから安心して産んで? でもそうだよね。もし違った場合、そんな命をお腹に入れていたくないよね。でもね、違うかもしれない。タイミング的にはあり得るでしょ? だから、その子、産んであげて?」

 結局もっちゃんの子は誰の子だったんだろう。

 もっちゃんの子は、もっちゃんの子か。












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 呪いの家もとい水封儀の家に来た。

 わかってる。

 私に溜まってるどす黒いこれは。

 私の周りの人に伝染して不幸にさせてる元凶。

 私に圧し掛かればいいのに。

 私は何ともなくてピンピンしてる。

 それが許せない。

 だから、ここで終わらせる。

 手紙も書いて準備万端。

 水封儀はいまあのときの男と一緒に療養中。

 やるならいましかなかった。

 でもなんで?

 あっくんがいるの?


 ごめんね、あっくん。






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 時寧さんは、水封儀さんの家で亡くなっていた。

 その場所になぜかあっくんがいた。

 あっくんは何も憶えていないみたいだった。

 手紙があったからそれを遺書と捉えるなら時寧さんは死ぬつもりでその家に行ったことになる。

 なんで僕に相談してくれなかった?

 なんで。

 なんでなんでなんで。

 僕はそんなに頼りなかったですか?

 違う。

 僕に迷惑をかけたくなかったんだろう。

 手紙を見れば(見なくても)わかる。

 時寧さんはそうゆう人だ。

 時寧さんの選択を尊重はできないけど、受け入れることならいまからでもできる。

 できるだろうか。

 なんであっくんは止めてくれなかったんだろう。

 違う違う。

 誰も悪くない。

 悪いとするなら僕一人。

 あっくんお願い。

 時寧さんが最後になんて言ってたのか教えてくれる?

 わかんない?

 待つよ。

 思い出してくれるまで。

 ずっと。

 ずっとずっと何年でも。












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「水封儀、また食べてないの?」

「食欲がない」

「ちょっと待ってて。美味しいお店があるの」

「オムライス?」

「食べてみて!」

「不味くはないな」

「でしょー? 私のお気に入り。一緒に食べよ!」














タウ・デプス 黄水晶の姉貴 シトリンシスター


岐蘇 時寧(キソ・ときね)KRE社長の娘


久慈原 染為(クジハラ・そまため)精神科医



納 水封儀(ノウ・みふぎ)呪い祓いの巫女

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