第67話 秋の空は移ろいやすい.1
秋の空に吐息が混じり、その青さに想いを
陽に照らされている桜の木が、校舎の裏手に何本かそっと立っている。それは、春に咲く花が散ってからも、今は真っ赤に染まった葉っぱを揺らしながら、静かに季節の終わりを待っているように映った。
目を落とすと、さながら
ドラマや映画だと、『ここでヒロインの元に、上から葉っぱが、ふわふわといい感じに舞い落ちてくる』なんて思っていると、本当に私の元に降ってきて、心に虹がかかったような気がした。
少しだけ冷たく澄んだ風が吹くたびに、枝を離れる葉っぱたちは、空中でくるくると回りながらゆっくりと落ちていく。時間の流れそのものが風に乗って舞い散っている、そんな感じだった。
揺れる紅葉の隙間から見える青空が眩しくて、思わずそのままじっと立ち尽くしてしまう。
私……今、
人の気持ちを踏みにじるように、落ち葉を踏み荒らす足音が近づいてきて、誰かが突然ぶつかってきた。
「ごめんなさいっ」
と、
なんて悪縁なんだろう……と思ったけど、彼女の顔を見た瞬間、息が止まる。大粒の涙が頬を伝い、肩を震わせながら、声もなく泣き続けている。その涙がまるで、自身の抱える何かが溢れ出したように、止まることなく流れていた。
「……鈴木さん?」
私は思わず名前を口にしていた。
鈴木さんは、声を耳にして初めて私を認識したようだった。顔を上げてから、目が合った瞬間、その表情に、私は息を呑んでしまう。頬を涙で濡らし、強く眉を寄せた瞳が、冷たい怒りを帯びてこちらを睨んでいる。
「——何っ?」
低く鋭い声が返ってきた。
その視線の強さにひるみそうになるけど、震える肩とこぼれる涙に目が離せなくて、私は目をそらせなかった。
「どうしたの? ……何かあったの?」
無意識に口から出た言葉だった。けれど、それを聞いた途端、鈴木さんの表情が
「……あなたのせいよ、全部」
絞り出して言い放った言葉は、まるで胸の奥に溜め込んでいた感情が
「わかる? 私がどれだけ鳴海君を想ってたか、一之瀬さんにはわからないでしょ⁈」
震える声の中に、切実な思いが溶け込んでいた。……鳴海君と何かあったのだ、私はそう思った。
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