第5話 SNS

「ねえ、あれから春ちゃんどう?」


 翌日学校につくと、奈々に早速聞かれた。


「あれからすぐに寝たよ。疲れがたまってたみたいだ」

「そう、アニメとかって流した?」

「当たり前だろ! 当然だよ」


 約束したしな。


「へー」

「何だよそれは」

「大輝にしてはやるわねと思って」

「なめてねえか俺のことを」

「なめてまーす」

「おい!」


 相変わらずふざけてるやつだ。



 そして昼休み。


「ハルちゃん今も元気にアニメ見れてるかな?」


 今度は調子が変わって、そんな真面目なことを言った。

 真面目というか、春を心配するようなことだ。


 奈々にとって、春は昨日の一件で妹のようなものになったのだろうか。


「お前心配なのか?」

「心配だよ。私だって拘束されたまま生活するのなんて無理だし」

「お前声が大きい」



 周りに聞こえてたらどうするんだよ。白い目で見られるぞ。


「……ごめん」


 奈々は謝った。そして俺たちはグラウンドに向かった。

 外なら周りに声が漏れるリスクも少ない。

 秘密の話もしやすい。


 しかも、サッカー部が騒いでいるしな。


「それで、春に対してはどう思ってるんだよ」

「私は、いい子だと思うよ。でも、少し我慢しすぎな気がする」

「我慢しすぎ……」


 確かに言われてみればそうだ。

 あの子は涙を流していない。

 彼女が一番つらいはずなのに。


 それに彼女が大人だったらまだしも、まだ中学生だ。


 よく考えれば俺は彼女の過去をあまり知らない気がする。

 そもそも概要しか聞いていない気がする。

 つーか、組織についての話自体あまり知らないしな。


 もっと詳しく聞くべきだな。


「俺たちはあいつについて何も知らない」

「え、うん」


 戸惑いを見せる奈々。


「だから不用意に何か言うべきじゃないお思うが、確かにあいつは無理をしている。だからこそ……昨日奈々が来たのは助かったよ。それで……悪いが今日も来てくれないか?」

「え? 言われなくてもだけど」


 その感じからして、元々今日も行く予定だったらしい。

 しかもノリノリで。


 という事は春の精神的支柱は大丈夫という事だな。



「そうなのか……それで、春がこのままでいいはずはない。彼女にしてあげられることはわずかかもしれないが、それが春の幸せに繋がるなら、俺はしたい。だってあんな健気な少女が苦しんでいる様を見たくないからな」

「えーロリコン?」

「じゃあ、お前もロリコンになるぞ。ロリコンになるか、春のことを何とも思ってないかの二択だ」

「じゃあ、後者で」

「おい!」


「ふふふ」と笑い、「冗談だよ、真に受けないでよー」と俺の背中をぱんぱんと叩いた。

 軽く殺意が沸いた。



 そして、軽く話し合った結果、春にもっと詳しいこと。つまり春の過去について聞けるところは聞くという事になった。


 家に帰ると、


「やろうみんなで! この因縁に決着をつけるんだ!」


 そう、テレビの中で主人公らしき人物が叫んでいる。それに対して仲間が「おお!」といった。

 これは春が見たいと思ったアニメだ。

 全二四話アニメで、週刊誌の人気漫画だ。

 主人公は過去に親を殺されてるから、その復習シーンかな。



「おーう元気でアニメ見れてんなー」


 春を見ると、笑顔だった。

 とりあえず暇にはなってないという事だな。


「うん、良かった」


 そうにかッと笑う春。笑顔がいいな。


「どうだった?」

「面白かったです。途中ちょっと疲れたので頑張って一時停止ボタンを押しましたけど」


 まあ、そりゃそうだ。二四話アニメを一気見する人はなかなかいない。少なくとも俺は無理だ。


「それは良かった」

「ねえ、提案があるんだけど」


 奈々が春の髪の毛を触りながら言う。


「何だ?」

「今日は私が料理を作ってあげる」

「おい、急になんだ?」

「私が作ってあげるの。春ちゃんのために、ついでに大輝のためにね」


 それは聞いてねえ。

 つーか

 おい、それじゃあ……家族みたいじゃんと言いかけたがそう思ってしまうのは失礼だと思ってやめた。こいつの場合天然だからそんな意図はないだろう。


「じゃあありがたくいただくわ」

「別に大輝のためじゃないから感謝しないでよ。大輝はついでよ」


 ついでか……まあついででもいいか。そして、俺のもとに行き、耳打ちする。


「私が料理作ってる間、聞き出しといて」


 そっちが本題か。


 ちなみに俺は奈々の手料理を食べたことがない。まあ当たり前だろう。俺たちはお弁当の食べさせ合いなんてほぼしたことはないし、そもそも友達の手料理を食べる機会があるか? という話なのだ。


「さてと、作り始めようかな」

「大体の食材はあるから好きなだけ使ってもいいぞ」

「やったー! なに作ろうかな」


 奈々は元気だなと、思った。


「お姉ちゃん、楽しそうですね」

「そうだな」


 ハルも同じことを考えていたようだ。


「ハル、待ってる間に何かするか」


 本題に入る前に少し場を整えたい。


「何かって何ですか? それは私にもできることですか?」

「ああ、SNSを見ることだ」

「現代人ですね大輝さん」

「いいだろ別に」俺たち現代人なんだし。「ならお前ができることを言ってくれ」

「アニメはいったん飽きましたですしね」

「あるか?」

「すごろくとかはどうでしょうか」

「すごろくはなあ、奈々がいたほうが楽しくないか?」


 二人での双六は詰まらなさそうだ。


「そうですね……ほかに何があるでしょうか」

「おまえそんなにSNS見るの嫌なのかよ」

「別に嫌なわけではないですけどね」

「ならそれでいいじゃねえか」

「いえ、それはなんか癪なので」


 もう、場を和ませるとかは知るか。SNS見せてやる。


「でも代案無いんだろ」

「大輝、春が嫌がることしたらだめだよ」

「してねえよ!」

「春はどうなの?」

「別に嫌なわけありませんよ。会話だけで楽しいんですから」

「ならOKだな。見るか」

「好きにしてください」


 もう、諦めたようだ。


 そこには多種多様な投稿があった。誹謗中傷や、有名人の炎上に関する投稿、野球に関する投稿、動物のかわいい仕草に関する投稿、その他様々な投稿だ。


「なんか良い投稿あんまり無いですね」


 ハルはそう呟く。


「まあな」


 政治批判の投稿に関してはSNSが投稿を規制しているみたいで、あんまりない。これもハルが言っていた世通党の影響か……。ん?


「一つだけあるな。消されなかったのか?」

「世通党に関するですか?」

「ああ、これ、陰謀論だ」


 陰謀論……普通あり得ないことをあると信じる人たちの言う原理だ。それは軽いものなら重いものまである。それに大体のものは信ぴょう性に欠けるものである。だが、これは信用に値するものだ。


 その内容というのは、政府が秘密裏にすすめている実験、それは少女を拘束して、その少女を使って実験しているという物だ。


「なるほどな」

「ねえ、たぶんこの人もう死んでる」

「なんでだ?」

「こんな秘密の情報を知ったものを逃がさないと思うからです」


 なるほど。


「この画面、ブックマークはしないで写真だけ取って、その写真をすぐにプリントアウトして、すぐにその写真を消して」


 そう、的確に指示を出す。重要写真をスマホに残したくはないが、写真自体は欲しいという事だろう。


「わかった。てかこれ住所書いてるぞ」

「そうです。これは証拠です。でもこれだけでは、なんの役にも立ちません」

「だったら俺がそこに行ったら……」

「ダメです。危険すぎます」

「だよなあ」

「あれ、行かないんですか?」

「俺をなんだと思ってるんだよ」


 漫画の主人公じゃねえよ。


「てか、教えてくれ。組織についてよく知らないんだ。お前は何者なんだ?」

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