第21話 コラボ配信、開始!
結衣と共にコラボ相手の家に到着した俺たちを玄関にて迎えてくれたのは、見覚えのある金髪の女の子だった。
「お待たせしましたー……あれっ、結衣ちゃん!?」
そして、その女の子が俺たちの方を見て驚きの声をあげると、それに呼応するように結衣も同じように声を上げる。
「えっ!? なんで美波ちゃんがここにいるの!?」
「なんでって、ここワタシが住んでる家だから……というか、とりあえず家入って!」
そうして俺たちは美波ちゃんに導かれるままに、家の中に入る。
そしてすぐにリビングへと案内されて、誘導されるがままに椅子に座ると早速、美波ちゃんが結衣に語りかけた。
「あの……もしかして結衣ちゃんが『柚木ユイナ』ちゃん?」
「そうだよ。って事は美波ちゃんが『南見波』さんだったんだ……」
そういうと美波ちゃんは目を輝かせながら結衣の手を握って、ぶんぶんと振る。
「すごいすごい、完全に運命だねっ!」
「そ、そうだねっ!」
「はー、でも良かったぁ。コラボ自体は経験あるけど、初めての人だしやっぱりキンチョーしてたから」
「私も一緒だよぉ。緊張しすぎてお兄連れてきちゃった」
「なるほどー……えっと、なんて言うか、そんなに規模が大きくないチャンネルなのにスタッフさんいるの珍しいなって思ってたんだけど、そういう事だったんだね」
「あはは……言葉を濁してくれてありがとう」
そんな会話を聞いて一瞬驚いたが、登録者が少ないと言う事実を腫れ物のようにして一切触れないわけではなく、だからといってズケズケと入り込んでくるわけではない美波ちゃんの様子を見て、俺は一安心した。
そして、チャンネル登録者に格差がある事を気にかけていた結衣からしても、そっちの方がやりやすいだろう。
そうして俺が少しだけ安心していた頃、今度は結衣の方から会話を振った。
「でも、本当に私とコラボしていいの? 改めて考えるとやっぱりチャンネル登録者数すっごい離れてるし……」
「大丈夫! 結衣ちゃん……いや『柚木ユイナ』ちゃんは、一度注目さえされれば絶対に伸びる! ワタシが保証するよ! というか、今日伸ばしちゃえ!」
「み、美波ちゃん……! 私、頑張るよ!」
そんな会話をしたあとで、台本の読み合いが始まった。
そして、結衣が読んでいる用紙を横から見ることで俺もざっと目を通していると、美波ちゃんが声を上げた。
「えっと、配信の機材準備とか念のためにもう一度確認してくるから、その間に台本を確認してもらってていい?」
「わ、わかった」
そうして、結衣の返事を聞き遂げた彼女は、一人で配信部屋へと向かっていった。
そして、俺は結衣に確認する。
「結衣、どうする? 俺が一緒に行かなくても大丈夫か?」
「だ、大丈夫、美波ちゃんと二人だし……でも、念のためにここで待ってて、何かあったらすぐに逃げてくる」
「ん、俺もここで配信見てるから、いつ結衣が逃げてきてもすぐに抱きかかえて走り出せるような体勢で、常に扉の前で構えておくな」
「人のお家で変な事しないでっ! 気持ちは嬉しいけど!」
そんな風に結衣とのやりとりが終わった頃、ちょうど美波ちゃんはこちらに戻ってきて、その足で冷蔵庫を開けると、その中からペットボトルを取り出して俺の前に差し出してきた。
「お兄さん。ペットボトルのやつなんですけどお茶を置いておきますので、良かったら配信を見ながらでも飲んでください」
「あらま、わざわざありがとうございます。早速、一口いただくね」
そう言われて俺は結衣の緊張を和らげるべく、彼女から受け取ったペットボトルの蓋をすぐに開けて、その中身を一口で一気に読み干した。
そして、その様子を見ていた美波ちゃんは驚いたような表情を見せた後で、すぐに笑い始めた。
「……!? ふふ……ふふふっ……おに、お兄さんっ……! あははっ、中身、全部無くなっちゃいましたねっ……!」
すると、その景色を見ていた結衣は俺に向かって怒りだした。
「お兄ぃぃっ! 私、変なことしないでって言ったばっかりだよね! なんでそういうことするのっ!」
「喉が渇いたから……」
「もうっ……もうっ! お兄なんて知らないっ! 美波ちゃん、早く行こっ!」
そうして結衣は美波ちゃんの背中を押して、部屋から出ていった。
あの結衣が自分からボディタッチをするだなんて、どうやら俺が期待していた以上に二人の友情は深まったらしい。
めでたしめでたし。
(……それはそうと、お茶ってこんなに一気に飲んで大丈夫なのか? 次におしっこ出す時の勢い凄そうだな。それで便器壊しちゃったらどうしよ……)
なんて、そんな事を考えつつも俺は二人の勇姿をこの目で確認するべく、スマホを起動した。
この間二人はまだ準備をしているようで、俺は配信が始まるのを今か今かと待ち侘びる。
そして、いよいよ本番が始まった。
〜配信画面(晴視点)〜
配信が始まって最初に目に入ってきたのは、青髪のミナミちゃんとピンク髪のユイナが隣同士で並ぶ、なんだか明るい景色だった。
そして、ミナミちゃんは配信が始まってすぐ、Vtuber『ミナミ・ナミ』として挨拶を済ませると、早速本題に入る。
「えーっと、それでは早速、今日のゲストさんをご紹介しまーす! ワタシのヒーロー、柚木ユイナちゃんでーす!」
「ど、どうもぉ……結衣ユイナですぅ……えへへ」
そうして『柚木ユイナ』こと結衣が若干小さな声で返事を返すと、コメント欄が動き出す。
:かわいい
:どちら様?
:ヒーローって何?
:HとEROでヒーローだから、二人はそういう関係なのか
:キマシタカー?
そして、かなりの速度で動いているコメント欄を横に、ミナミちゃんは喋り出した。
「聞いてよみんな! 今日ワタシ下着売り場で試着してたんだけど、気づかないうちにカーテン空いてたの! やばいよねー!」
:あらまぁ
:サービスシーンたすかる
:なんで下着買う時に呼んでくれなかったの!?
「でもね、それを偶然見つけてくれたユイナちゃんがわざわざ走ってきてくれて『カーテン空いてますよ』って教えてくれたの! だから、ワタシのヒーロー! かっこいいでしょ!」
「えへ、えへへへ……」
:ミナミなんか今日テンション高くて草なんだ
:ユイナちゃん、さっきからずっとえへえへ言っててかわいい
:借りてきた猫?
:ちょろそう
……そんな風に始まった配信は順調で、結衣が最初に挨拶をしていた時は緊張で声が上擦っていたけど、時間が経つに連れて徐々に慣れてきたようで、今は楽しそうに喋っている。
そして、今回は初回ということもあり、そもそも予定の段階で短めに時間が設定されていた事もあってか、配信はすぐに終了してしまった。
〜配信終了後〜
(ふぅ……結衣が楽しそうにしてるのを見てたらいつの間に配信が終わってたな。これは次回にも期待。ゆえに俺は、高評価ボタンを押すのだ)
結衣に友達もできたし、今日はいい事ばかりだ。
というか、そのせいで俺の中の喜びの気持ちが満たされて、今にも爆発しそうだ。
(そうだ、二人が戻ってくるまではまだ時間あるだろうし、気持ちを落ち着かせるために小踊りでもして発散させておくか)
そうして俺が、首と両腕をグネグネさせながらムーンウォークをすることによって、結衣へのクソデカ感情を発散させつつ満足感に浸っていると、俺の想像に反してすぐに戻ってきた二人と目が合った。
━━━━━━━━━━━━━━━
読んでいただきありがとうございます!
「面白かった!」
「続きが読みたい!」
「キャラクターが好き!」
と思っていただけたら是非、作品フォローや★レビューを押していただけると嬉しいです!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。