第3話 誘惑銀杏

 大学の校門を入ってすぐの銀杏並木。秋の黄色に染まった視覚的には美しい道が大嫌いだった。

 嗅覚的には最悪で、たわわに実った銀杏は重力で落下してグチョリと潰れ、あたり一面に悪臭を振りまく。鼻を塞いで急いで駆け抜けても服に臭いが纏わりつき、一日嫌な臭いに苛まれる。この臭いが好きと言う奴が信じられない。

 けれど今年は様子が違った。たくさんの汚臭の中で一筋の香しさが感じられた。魅了されそうな良い匂いといっても記憶と照らせばそれは銀杏の臭いに間違いない。あまりに嫌いが高じて頭が馬鹿になったのか混乱しつつも匂いのもとを探せば、それは落下したが割れていない銀杏で、唐突に可憐な声が頭に聞こえた。

「いい場所に埋めていただければ、より銀杏の匂いを良く感じられるようにしましょう」

 迷わず銀杏を踏み潰せば、ピギャ、という声が上がり、世界は再び悪臭に満たされた。

 悪臭を感じなきゃリスク管理できん。俺はいつも通り足早に立ち去った。


noteのたらはかにさんのSSのイベントに参加させていただきました~。

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