楽観的な私と心配性なお姉ちゃん(仮)

ジャガドン

第1話 お姉ちゃんが出来ました!

 「よーし! 終わったー! これで全部……よね! うんうん、ヨシ!」


 私は美鈴澄玲みれい すみれ

 今年から高校一年生!

 田舎から遥々この都会へと上京してきたのである!

 荷物も片付いたし、今日から一人暮らしだぁ!


 引っ越しと言えば、隣人さんにご挨拶しないとだ!

 緊張するなぁ。

 角部屋だし、お隣さんは一件だけど……。

 

 一応実家から高そうな菓子折りを持ってきたけど、受け取って貰えるかなぁ?

 甘い物は苦手だったりする人もいるし……。

 ああ、でもこういうのって気持ちだったりマナーの問題だし、形だけでもちゃんとしていればいい……よね!

 よし、行こう!


 私は菓子折りを持って玄関の扉を開き、広い廊下へ出て歩み始める。

 その瞬間、ハッとして急いで玄関のドアハンドルに手を掛けた。

 しかし、無情にもカチンと音がしてドアがロックされてしまう……。


 「鍵、部屋の中に置いて来ちゃった……」


 やってしまった。

 まあ、フロントへ行けばコンシェルジュの人もいるし何とかなるかな?

 お隣さんに挨拶を済ませたらマンションのフロントへ行こう。


 私は一息つき、お隣さんの玄関の前に立つ。

 やっぱり緊張するなぁ。

 なんの解決にもならないけど、留守であってくれと願いながらインターホンのボタンを押し込んだ。


 「はい、どちら様でしょうか?」


 良かった!

 インターホンから聞こえて来たのは女の人の声!

 男の人が出たらどうしようと思ってたし、少し安心した。


 「あっあの! 今日引っ越しに、ああ! 隣に引っ越して来たのでご挨拶にお伺いしました!」

 「わかりました」


 インターホンがプツッと切れる音がして、すぐに玄関の扉がゆっくりと開いた。

 お隣さんとご対面。

 その瞬間が訪れる事に、緊張で胸の音が大きくなる。


 玄関の扉が大きく開き、お隣さんと目が合ってしまった!

 どうしよう!

 なんか……すっごい美人な人が出て来てしまった!

 長身で黒髪ロングのスタイル抜群なお姉さん!

 モデルさんだったりするのかな!?


 「こんにちは。

 私、背高いし驚かせちゃった?」


 お姉さんの言葉で我に返り、自分が大口を開けて間抜け面をしている事に気が付いた!


 「ごめんなさい! 凄く美人な人だなーって思って……ビックリしちゃいました」

 「そう……時間あるなら少し上がっていく?」


 「ええ!? いいんですか?」

 「ええ、いいわよ」


 お姉さんが私を部屋へ招き入れてくれたので、お言葉に甘えて中へ入り、リビングにある小さなテーブルの席に着いた。

 凄い……どこ見てもモダンで格好いい感じの部屋。

 それに、微かに良い匂いがする……お香かな?


 私が部屋をキョロキョロ見回している間に、お姉さんがお茶を淹れて持って来てくれた。


 「熱いお茶だけど大丈夫? 家だとこれか白湯さゆしか飲まないから」

 「大丈夫です! お茶好きなので!」


 熱々の湯飲みに軽く唇を当て、ズズっとお茶をすする。

 すっきりしていて、凄く美味しい煎茶せんちゃだ!


 「美味しいです! あの、遅れてすみません!

 私、今日引っ越して来た美鈴澄玲みれい すみれと言います!

 これ、つまらないものですが」


 持ってきた菓子折りを渡すとお姉さんは「ご丁寧にどうも」と言って受け取ってくれた。


 「私は、蟒蛇千草やまかがち ちぐさ

 好きに呼んでくれて構わないわよ」

 「はい! やまがっやまかがが、がっちさん」


 「千草でいいわよ? 私も澄玲ちゃんって呼ばせてもらえる?」

 「はい! 千草さん! 是非そう呼んで下さい!

 宜しくお願いします!」


 「ふふっ宜しくね。

 澄玲ちゃんがご挨拶に来たって事は、もしかして一人暮らし?」

 「はい! 一人暮らしです!

 こっちの高校へ通う為に田舎から上京して来ました!」


 「そう……」


 あれ? 千草さんは少し困った様な表情を浮かべた。

 何か変な事でも言ってしまったのかな?

 やっぱり田舎暮らしのよそ者だって思われちゃったとか?

 

 「ええっと、お説教するつもりは無いんだけど、一人暮らしって答えるのはよくないわ。

 私が悪い狼さんだったらこの場で襲って食べちゃうわよ?」

 「千草さんは悪い人じゃ……ないですよね!?」


 「ふふっ分からないわよー?」

 「ええ、なんて答えれば良かったんですか?」


 「そうねー、このマンションって普通に家族で住んでいる人とか多いし、空手やってる弟と、アメフト部の兄に柔道家の父親とジャーナリストの母親がいるとか?」

 「ええ!? 私、一人っ子で兄妹なんていませんよ?

 それに、お母さんは専業主婦だし、お父さんは水泳も駄目で自転車も乗りこなせない運動音痴です」


 「だから嘘をつくのよ」

 「嘘は……苦手です」


 「そのようね。

 でも、ここ都会だし、澄玲ちゃんを騙そうとする人や体目当てに襲って来る人。

 それに、ストーカーとか危ない人はいっぱいいるのよ。

 こんな高級マンションで女子高生が一人で暮らしているなんてバレたらそう言う人達に狙われちゃうから嘘をついて自衛するの」

 「そうなんですか……都会暮らしって難しいですね!」


 「隣人だからと言って、簡単に部屋へ上がり込むのも駄目よ?

 実は私、強盗だったりするかもしれないし?」

 「そんな事あるんですか!?」


 「無いとは言い切れないわね。

 だから、基本的に人を疑う事を覚えておいた方がいい」

 「それってなんだか少し悲しい事ですよね」


 「そうかもしれないわね。

 そうだ、沢山あるからこれ持ってて」

 

 千草さんはそう言って箱を抱えて持って来てくれた。

 何となく見た事がある。


 「防犯ブザーですか?」

 「そうよ、作動するとGPS機能も一緒に作動するの。

 使ったら私か……私の知り合いがすぐに駆け付けると思う」


 「ありがとうございます!」

 「疑って失礼と言う事はないから、ちゃんと疑って?」


 千草さんは優しく頭を撫でてくれて、そう教えてくれた。

 何を疑うのか分からないので聞いてみると「盗聴器かもしれないでしょ?」と答えてくれたので、じっと見ていても分からない防犯ブザーを首を傾げながら眺めていた。


 「それは本当に防犯ブザーの効果があるから大丈夫よ。

 そう言えば、時間は大丈夫?

 引っ越したばかりなんだし、する事があったりするんじゃない?」

 「時間ですか? 今日は何の予定もないので大丈夫です!

 ああ! そう言えば、鍵の事を忘れてました」


 「鍵? ああ、部屋に置いたままオートロック掛けちゃったとか?」

 「はい、その通りです……」


 「身分証とか持ってる?」

 「ええっと……学生書! ポケットの中に入ってました!」


 「ちゃんと管理しないと駄目よ?

 それじゃあ、帰る時になったらコンシェルジュに連絡してあげるわ」

 「はい! ありがとうございます!」


 それから、千草さんと沢山おしゃべりをして、いつの間にか外も暗くなっていた。


 しまったな。

 長居は恐れ……お夕飯の準備どころか買い物もしてない。


 「あら、もうこんな時間ね。

 御飯食べていく?」

 「いいんですか?」


 「いいわよ。 でも、最近の子の口に合うかどうかは自信ないわね」

 「たぶん大丈夫だと思います!

 お料理するんですか? 私にも手伝わせて下さい!」


 「それじゃあ、一緒にお料理しましょう」


 キッチンには凄い数の調理器具。

 どれも使い込まれているし、手入れもすごいしっかりしてる。

 

 千草さんは美人だし、料理も出来て物知り!

 部屋もおしゃれで綺麗。

 それに、優しいし……なんと言うか、完璧なお姉さんって感じ!

 

 私は殆ど見ているだけだけど、千草さんは手際よく色々な料理を私に教えながら作ってくれている。


 「こうして一緒にお料理していると、お姉さんが出来たみたいで嬉しいです」

 「お姉さん? そう言って貰えると……私も嬉しいわ」


 「えっへへ……お姉ちゃん」


 私がそう呼んだ瞬間、千草さんが料理する手を止めて、手を拭いた後、私に抱き着いて来た!


 「あーん、バカバカバカ!

 可愛い可愛い可愛い!

 んもぅ! 不意にお姉ちゃん何て呼ばれたから、受け入れちゃったじゃない!

 でも、これって私悪くないわよね?

 もっとお姉ちゃんって呼んで!」


 急にどうしたんだろう?

 もっとサバサバしてる感じの人だと思ってたけど、急に猫なで声で私をギュって抱きしめて可愛がり始めた。

 私もなんだか嬉しいし「お姉ちゃんお姉ちゃん」って呼びながら抱きしめ返す。


 お姉ちゃんは天涯孤独の身って言ってたし、寂しかったのかな?

 それとも妹が欲しかった?

 もしくは、そっちの気があったりとか……?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る