豺狼は奪いかつ散らす
ぶざますぎる
上
[1]
「地獄やの」
用務員は虫籠を受け取った。
世では似たような男と女がひっついては交り合い、陰裂から両親と似たようなガキがひり出される。而して
ときたまカマキリに喰い殺されるアンフォーチュネイトなヒトも存するが、これ
併し、運の良し悪しに差があろうと、どいつもこいつも、どうで籠中のバッタ。籠の外では焼却炉が口を開けて待っている。てめえの方寸に関係無く、ハテはみんなで仲良く籠から掻き出され、炎で灼かれる。而して思い出も肉体も精神も、万事
それにしても暑い。
警察署の軒天の影から外に踏み出すと、
日影に身を戻す。溜息。この灼熱の裡を往かなきゃならねえのか。舌打ちを放つ。横に居た立番のおまわりが、訝しげな目を向けてきやがった。業沸く。なに見てんだよ、馬鹿が。クソおまわりめ、ぶっ殺すぞ。
而して職無し中年が独り、娑婆へと押っ放り出されたワケで。
而して煉獄めいた暑さの裡、現実からの
[2]
愛想の欠片も無え受付のブルドッグ・ババアへ風呂銭を叩きつける。脱衣場には
浴場の奥にあるサウナへ向かう。不図、サウナ扉の直ぐ横にある水風呂が目に入った。照明を反射して、水面は銀鏡めいた光輝を放つ。そこにガキの水死体が浮いていた。俯せの姿勢で
ピクリと水死体が動いたかと思うと、矢庭にガバと頭を起こした。
「いつ死ぬの」
極度に損壊してはいるものの、かろうじて顔の輪郭を保ったソレが、眼球の失われた
ガキめ、
何がやってるねだ、馬鹿が。ぶっ殺すぞ。思わず
昇の
「おれの親父はよ、おれが15の時分によ、御袋のこと
閨事の最中に絞め殺し、己も後追って自殺した由。
「今もよ、夜中によ、二人揃って出てきてよ、おれの横でよ、同じことしてんだよ」
イカれジジイめ、首を絞めるジェスチャアまでしやがった。
とあれ、無視。返辞なぞしてやらねえ。テレビでは、イスラエルのパレスチナ人虐殺に抗議するプロテスト・キャンプの様子を映している。場所はアメリカの大学らしい。先般、該キャンプをシオニストが襲撃し、負傷者が出た由。政府はシオニスト側に与し、抗議者たちは保護されず、糅てて加えて官憲からの弾圧を喰らっていた。抗議者の裡のひとりが武装警官から暴力的な制圧を受けている映像が流れる。苦痛に顔を歪めた、痩せぎすの黒人青年。そのラツを見て昇は
「狼は羊を奪って散らす、だな。まったくよ。なあ、そう思わねえか」
「おいおい、仲良くしようぜ」似非ワシリイ、急と嘲るような声色を使った「お互い人殺しの息子だろ」
と胸を突かれて見遣ると、似非ワシリイ、獰猛な悪光りを目に走らせては、
業沸く。悪態を吐きながらサウナを出た。浴場には相変わらず他の客の姿は無かったが、まだ水死体ガキが居た。水風呂の縁に
風呂をあがって休憩室へ移る。誰も居ない。電設が旧いのか部屋全体が薄暗い。幽鬼の巣の如し。自販機で菓子と瓶牛乳を購めた。椅子に座って食べる。テレビではドラマの再放送をやっていた。疾っくの昔に自殺した俳優が
<中に続く>
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