第46話
週末、いつものように彼女のお見舞いに行くと、自然と学校での話題になった。
「この前の現国で習った夏目漱石の”こころ”途中からだったから夏目漱石の伝記と一緒に
病院の図書室で借りて読んでみたの」
「途中からだと話は繋がらないし気になるよね」
「でしょ。色々と話は繋がらないし、ついでに伝記も読んでみたの。それにしても一世紀も近く前の人なのに、未だに物語や手紙を通じて沢山の人の記憶に残り続けるって凄い事だし羨ましいな」
そう言葉にする彼女に少し不安になる。
「そういえばね、病院の図書室に他にも面白そうな本を見つけたよ。臓器移植を受けた人の話で、ドナーになった人の記憶や嗜好が臓器移植を受けた人に引き継がれる事があるんだって」
彼女が言った臓器移植を受けた人に関する本の話は割と有名で、僕も以前にテレビ番組で特集を見た事があった。
「それなら、僕も前にテレビで特集されているのを見た事があるよ。嫌いだった食べ物を好きになったとか性格がドナーになった人に似たりするって話だったと思うけど」
僕が以前に見たテレビ番組の内容を思い出しながら話すとそれで正解だったようで彼女は嬉しそうに相槌を打つ。
「そうそれ! アメリカに住んでいたユダヤ人の話が有名だから篁君が見た番組もその人の体験談を基にした番組じゃないかな」
言われてみればそんな感じの人の話だった気もするけれど、僕が見たのは随分と昔で彼女が見た本の人と同一人物かと言われると微妙なところだ。確かに、そんな奇跡みたいな事例が複数あるかと言われれば何も言えないのだけれど。
「多分そんな奇跡みたいな事は滅多にないと思うから同じかもしれないね」
「それなら、私もドナー登録をしておいたら誰かの命を繋げていけるし、もっと未来の世界でみんなに会えたりするのかな」
自分の中の冷静な部分が無理だとその言葉を否定するけれど、そんな風に言われたらとても否定なんて出来なかった。
「そうかもしれないね。それこそ本当に奇跡みたいな話だけど、そうなったら良いなと思うよ」
だから僕もそんな奇跡でもなんでもまた会えるのなら彼女の願いに縋ってみたかった。
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