I love you🌙

 ほぅっと、吐息が漏れ出る。

 長い甘やかな束縛から解かれてなお絡み合う熱に、互いの存在をまだ強く感じる。

「——もう、慣れたか?」

「慣れない、よっ……こんなのっ」

 見つめあったまま問われて咄嗟に視線を躱す。こんな自分に似合わないこと、いつまで経っても慣れるわけがない。恥ずかしすぎて目のやり場に困る。

「まぁそう慣れられても困る」

 朗らかな笑い混じりの言葉と共に、みるみるうちに熱くなった頬が相手の胸に優しく当てられた。

 鼓動はまだ鳴り止まない一方で、抱き寄せられて得た居場所に安心する。

 仕事の際は互いに前と変わらぬ振る舞いではあるが、二人きりの別れ際は変わった。具体的に言葉にしたわけではないけれど、明らかな気遣いが伝わる。

 記憶が戻ってから自分でも無意識のうちに生まれたのは、途方もない孤独感だった。蘇った過去の記憶がそうさせるのか、別れる時に突然恐怖が襲いかかる。

 それを分かってくれているのだろう。帰路に着く前の丁寧な口づけは、膨れ上がりそうになる不安を鎮めてくれる。

 救われるこの気持ちをどう表したらいいのか、いつも悩んでしまう。

 するとふと、思いつく。

 同じだけのことを返せないけれど、せめて。

「……好……き」

 反応が無い。

 自分を包み込む腕が心なしか固まった気がするが、呼吸すらしなくなったのではないか。

 たまにはちゃんと、とフィロに言われたことを思い出してなんとか絞り出してみたものの、小さすぎて聞こえなかったのだろうか。

「好き、だ……っ……んっ」

 最後の一音が無理矢理遮られ、息の行き場を奪われる。触れる手は熱く途端に思考が真っ白になった。

 思考が停止してしばらく、やっと解放されたら、今度は先よりも強く抱きしめられる。

 何事かと大混乱の頭の上に、息も絶え絶えに言葉が降ってくる。

「俺の、心臓を……止めにかからないでくれ……」

 そんなつもりでは、と言おうとしたら、押し当てられた胸から強い鼓動が伝わってきた。

 いまいちこうしたことは不器用にしかできなくて、我ながら不甲斐ない。

 でも伝わったなら、まあいいか——そろ、と見上げてみると、瞼は閉じていても顔には笑みがある。

 それに安心して、温もりを感じながらゆっくり目を閉じた。

 

 ***


 滅多に口にしないセレンの攻撃力。

 「月色の瞳の乙女」シリーズより。

https://kakuyomu.jp/users/Mican-Sakura/collections/16818093075519672455



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