第54話 坂田 臣也と如月蓮

陽那と澄歌が戦闘開始と同刻。

狩衣風制服に身を包んだ坂田 臣也さかた しんやは土砂エリアに来ていた。


砂漠に埋まった石造りの都市など土に関する物質が満ちている。


「おー派手にやってるねぇ」


戦闘の余波で遠くの砂が舞う様子を、屋根が無くなった建物の2階から覗く臣也。


「まあ俺はもうちょい潜伏させてもらおうかな」


臣也は戦闘には消極的だ。なぜならバトルロワイヤルにおいて生存が一番大事だからだ。


(そんな陽力量無いからずっと戦闘やってらんねぇしな)


そんなこんなで他の生徒達からのらりくらりと隠れ潜んでいた。


だがそんな臣也もいよいよ戦闘の時が来る。


「やべっ」


突然臣也は立ち上がり、流れるように窓から飛び降りる。


臣也が居なくなった建物は瞬く間に木の根が覆い尽くし、石壁を崩してしまった。


臣也は砂の上を転がるようにして衝撃を殺し着地する。


「外したか」


大きな根上から声をかけたのは、焦げ茶色の髪と瞳をした眉間に皺を寄せた少年。天陽学園の生徒だ。


臣也は制服や明るい茶髪に着いた砂を払いながら少年を見据える。


「いきなり撃ってくるとか酷くね〜?」

「バカか? それじゃ奇襲になんねぇだろうが」


辛辣に返す少年。臣也は一瞬で苦手なタイプだと顔をしかめる。


「あっそ、俺は天陽院2年 坂田 臣也。そっちは?」

「名乗ると思ってんのか? これから倒される奴に」


これまた同じように返される。だが臣也の顔はさっきと打って変わって軽薄になる。


「いや〜? 誰を倒したか分からないと困るじゃん? 後で天陽学園の女の子に自慢したいし……あぁごめん、そんな強くないから自慢にならなかった?」


皮肉たっぷりに少年を煽る。少年は……。


「はぁ!? 誰が弱いって!?」


分かりやすいくらい怒ったのだった。


(えぇ〜? 短気すぎだろぉ……)


これには煽った等の本人も少し引いてしまう。


「天陽学年2年! 如月きさらぎ へん !」


威勢よく名乗りを上げながら腰の赤い剣を抜く蓮。


「てめぇをぶっ飛ばす!」


叫びと共に剣を振る。当然建物の上から下にいる臣也には届く筈がない。


だが……。


「げっ!」


振り抜いた刃から細かな木片が放たれた。臣也はその場から飛び出すように回避する。


着弾した地面から、木片のサイズからは想像できないような質量の木の根が飛び出した。


「質量保存の法則ガン無視かよ!」

「逃げんな!」


蓮は建物の残骸から降り、逃げる臣也の背を追いながら2度、3度剣を振る。


その度に弾丸の如く木片を飛ばし、臣也を襲う。


「よっ! ほっ! っぶね!」


それを臣也は縦横無尽に駆け回り躱す、躱す、躱す。


(さて、あの剣……欠けてるな?)


デタラメに逃げているようで臣也は冷静に術を観察していた。


蓮が赤い剣の一部が欠けてる事に気がつく。


(ありゃ木剣か? その刃を飛ばしてんのか)


「なら、剣が無くなるまで避けてやるよ!」


臣也はそう意気込み回避に注力する。しかし……。


「ふん」


木片の雨が一度止み、赤い木剣は刃が3割程減った所で……刃は再生、元の赤い刃を綺麗に揃えるのだった。


「嘘ぉ!?」


目論見が外れ驚愕する臣也。そこにまた雨のように木片が飛ばされる。


如月家に伝わる咒装じゅそう根生剣こんせいけん

それは刃が成長し根を張る木剣。刃を任意の大きさで分離、弾丸のように飛ばす事も出来る。


当然、木片は着弾時に勢いよく木の根を張る。そして欠けた刃は所持者の陰陽力を吸い取り再生する。


つまり陰陽力が続く限り何度でも木片の弾丸を撃ち出せる剣だ。


「なら、やるしかねぇか」


臣也は腹を括り逃げる足を止めて蓮へと向き直る。


「『岩軍腕がんぐんわん』」


刀印を結び唱えた術名。同時に臣也の足元から幾つも土が盛り上がり、無数の岩の腕となる。


「いけぇ!」


号令と共に腕達は伸び、木片を巻き込みながら蓮へと迫る。


(なんて物量……!)


「根生剣! 出力最大!」


赤き木剣は陽力を吸い、その刃からまるで大樹のような根を生み出す。


それは無数の岩の腕を遮り、1つの漏れもなく蓮を守る。


「切り離さなくても使えんのかよ……!」


止まった岩の手は時間が訪れ、元の土に還るのだった。


「なるほど……操るタイプか」


蓮が根の隙間から解けた術を一瞥し呟く。


(まあ流石に分かるか)


蓮の読み通り、臣也の術は陽力そのものを土に変えて具現化するのではなく、その場にある土元素に属する物質に働きかけ操るタイプだ。


陽力の消費が具現化タイプより少ない上、地面などの操れる物がありふれている為、五行が土の陰陽師はこれに行き着く人が多い。


実際に陽力内包量が比較的少ない臣也はこのスタイルの恩恵を存分に受けていた。


(土砂エリアは土の元素が特に濃い。術の完成度にもプラスになってるな)


術の具合を確認して頷く臣也。対して蓮は大樹のような根を解除して姿を現す。


「……ムカつくな」

「なんで!?」


出てくるや否や、怒りを吐露されて思わず驚愕する臣也。


全く心当たりが無いので臣也は首を傾げる。


「聞くけど、俺なんかやった? 初対面だよな俺ら」

「そうだな……けど噂は聞く。おちゃらけた奴が『陰流陰陽師』の癖に『陽流陰陽師』の格好してるってな」


それは臣也の制服の事だ。


基本的に政や占いなどで表の仕事をする『陽流』の陰陽師は伝統的な狩衣を着用する事が多い。


対して、『影』を狩る事が多い『陰流』の陰陽師は狩衣では無く、各々の改造制服が基本。


そうであるのに、制服を狩衣に寄せている臣也は周りから見ると浮いて見えるだろう。


「服ってのは着ている人の所属を示す機能がある。これはまあ最低限ボタンや校章を付けてるからいいだろう。だが着こなしでそいつの内面が読み取れる部分を忘れてるぜ? 『陰流陰陽師』なのに狩衣着てるって……自分から半端者ですって言ってるようなもんだと思うぜ」


対『影』戦闘のエキスパート。それが『陰流陰陽師』。


対して『陽流陰陽師』は結界や占術によるサポートより。


蓮のような『陰流陰陽師』である事に誇りに思っている者には良くない印象なのだろう。


「いやぁ……これには深い訳あってだなぁ」

「……一応聞いてやろう」


渋々と言った感じで蓮は真意を問う。


「俺さ? 『陽流』の家系の実家と仲悪いんよ。だから当てつけ的な?」

「は?」


臣也の答えに蓮は絶句する。臣也は至って真面目なのだが……それが伝わる事は無い。


「……チッ! お前のような奴が居るから『陰流』の品位が落ちるんだ!」


怒りに任せ、蓮はまた根生剣から木片を放つ。


臣也は飛び跳ねるようにそれらを躱す。そんな中でも蓮の悪態は続く。


「3年の白山 獅郎も、お前も!『陰流陰陽師』を舐めているのか! 俺たちは『陽流』とは違い、命を賭して『影』と直接戦う誇り高き陰陽師だというのに!」


木剣の損耗が蓮の陽力を吸い上げた事で回復する。そしてその怒りを表すように刃全体が成長、大規模な根の奔流が放たれる。


「守れ!」


臣也は『岩軍腕』を折り重ねて防御する。しかし根は五行の木。臣也の土を討ち滅ぼす相剋の関係。


それを表すように岩の腕を次々砕いてしまう。


「やべ……!」


やがて臣也はその根の奔流に呑み込まれてしまうのだった。

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