第18話 響の初任務 同行者:陽那-参-

「そっちも倒したみたいだね!良かった!」

「お、おう……『影』が術持ちなのに無傷って、凄いな陽那……」

「ふふんっ♪ そうでしょ? まあ響くんの方に比べたら柔らかかったかな〜? けどまだ終わりじゃないよ」


そう言って天井を指を差す陽那。響は『影』の気配が近付いて来るのを感じて再度臨戦態勢に入る。部屋全体が小さく振動したと思えば天井にヒビが入り、砕けると共に瓦礫と3体の『影』と陽那の式神が降ってくる。


「ぶち抜いて降ってきた!?」

「式神達で誘導したんだよ〜! 上に行くより早いでしょ? さ、一気に叩いちゃおう! そっちの緑の方頼んだ!」

「お、おう!」


響は指示されるや否や先手必勝とばかりに緑のツギハギの『影』に向かう。そのまま走りながら準備した『紅拳』を食らわせた。


しかし手応えが無かった。直撃の瞬間、『影』がツギハギ部分に沿って三体に分裂したのだ。


(分裂!?……能力持ちか!)


3体に分かれた『影』が響に襲いかかる。多角的な同時攻撃。避けずらい上にさっきの『影』ぐらい小さく、それも並の男性以上のパワーを持つ攻撃だ。響は陽力を全身に広げて防御する。


(最初のより動き自体は単調だけどパワーが違う……!陽力でちゃんと守らないとやばいな。んでなにより数が厄介だ……!)


そのまま受け続ければ危険と考え、気配からタイミングを読んで躱し、当たっても受け流すような身のこなしでなんとか対処する。


(やるなら1体ずつ、確実に……!)


「まずは……!」


響は大きく後方に飛び、ベッド脇に置いてあったランプを掴み投擲する。それは分裂した内の1体に命中。だがダメージは無い。陰陽力を体に纏った『影』には陰陽力を帯びていない攻撃は効かないのだ。


それを既に教わっている響がその攻撃をしたのは別の狙いがある。それは実体がある以上『影』は壁にもぶつかるという事。そこから物が当たれば怯むという事に勘づきそれを利用したのだ。


ツギハギ達の連携に乱れが生じた隙を響は見逃さない。一気に接近し、今度こそ『紅拳』を『影』に命中させる。


(残り2体……)


拳を振り抜き、術も解けた響に『影』が迫る。それを身を捩って大きく蹴り上げ、3階にできた吹き抜けを超えて4階の天井に激突させた。そして背後から襲いかかる3体目には術を再発動し、赤の軌跡を描く裏拳を食らわせる。


(残り1体……!)


蹴り上げられていた『影』が重力に引かれて落ちてくる。それを左手にも灯した『紅拳』のアッパーカットで迎え入れた。


(終わり!)


瞬く間に3体に分裂した『影』は倒されたのだった。


そして陽那の方も間もなく決着が着く。迫り来る『影』を獅子の牙が噛み切り、山羊の蹄が踏み砕く。もう一体は熊の爪が切り裂き、陽那の鞭が打ち倒した。


「よし、そっちも終わった? もう『影』の反応無い?」

「ちょっと待ってくれ」


建物全体を意識し耳をすます響。もう嫌な音は1つもしなかった。


「……無いと思う」

「一応この子達に見回って貰って、戻ってきたら完了にしよっか。一先ずお疲れ様!」


式神を各階へ分担させて向かわせる陽那。


エントランスに戻った2人は、式神が帰還したのを合図に任務を終えたのだった。


「いや〜! 響くん筋がいいね! ちゃんと相手の動き読んでたし、陰陽師の戦い方が分かってきたね! それはそうと、何か格闘技とかやってたの?」

「あ〜いや……アクション映画とかの見様見真似で、あと偶に喧嘩してただけですごいもんじゃねぇよ」

「ふぅ〜ん、そうなんだ? でもそれ逆にセンスいいと思うけどね♪」

「そ、そうか? でも陽那が今の俺の実力にあった『影』を相手するようにしてくれたお陰だ。ありがとな」

「新人ちゃんの能力に合った仕事を割り振るのも先輩の務めよ! ま、お礼言われるのは嬉しいよ〜♪ どういたしまして♪」


響の謙遜した言葉に陽那は眩しい笑顔で返す。そして何やら暫く間を開けてからまた口を開く。


「それに……ね? この業界にいる人とは何時が最期の会話になるか分からないから……」


憂いを帯びた表情で何処か遠くを見て言う陽那。先輩であり、陰陽師の家系である陽那は幼い頃から活動していて……きっと仲間の死とも向き合ってきたのだろうと響は考えを巡らせる。


「だからあたしは後悔しないように、仕事の事も私の想いも……伝えたい事はちゃんと伝えられるようにしたいんだ」

「……そっか、陽那は立派だな。俺も陽那みたいな陰陽師になりたいと思う」

「えへへ、そう言われるとちょっと恥ずかしいなぁ……でもありがとね♪ 響くんなら絶対なれるよ!」


互いの仕事っぷりを労い合い、心の内を伝えた響と陽那。どちらも任務を通して絆が深まったと感じていたのだった。

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