極彩の陰陽師〜狐っ娘の陰陽師に出会い、人・鬼・天女・神の力に目覚めた俺は最強の陰陽師を目指す〜
竜田揚げゆたか
第1章 日常流転編
第1話 その日、ギャル狐の陰陽師に出会う
1つの出会いがあった。
訳も分からず逃げ回り、怪物に殺されそうになった。その時……1人の少女と出会った。
揺れる金色の狐耳や髪は月に負けない程美しく輝き、桃色の瞳は宝石のよう。その笑顔は少し前まで激しく波立った心に安息を与える。
その姿に……どうしようもなく目を奪われたのだ。
きっとこの先何があろうと、俺はこの出会いを生涯忘れないと思ったんだ。
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名前︰
年齢︰16歳
身長︰178cm
体重︰65kg
趣味︰人助け
職業︰高校生
特記事項︰前髪だけがオレンジ色の地毛
これはごく普通少年が、いずれ最強の陰陽師になる物語である。
首都東京。
今は日輪歴2100年5月12日。時刻は午後5時15分。
茜色の日差しが郊外に位置する石造りの白い建物……
校庭からは運動部の賑わいで満ちており、学生たちが青春の1ページをまた1つ刻んでいる。しかしその校舎の裏、西日の当たらない暗い場所では爽やかな青春に相応しくない光景が広がっていた。
「ぐはぁっ!」
逆立てた黒髪と同じ色の犬耳を持つ、以下にも不良の男子生徒が倒れる。先程殴られて尻もちを着いた不良は殴った男子生徒……白波響を見つめていた。
「グルル……このイカれ前髪野郎……!」
不良が犬の獣人らしい低い唸り声を発しながら言うのは響の髪の事だ。
日ノ本の民にありふれた黒髪短髪だがただ一点、かきあげた前髪は高校生にしては珍しいオレンジ色に染まっていた。
驚く事にこれは地毛だ。
故に響をよく思わない奴は前髪野郎と呼ぶ。
響は不良達に負けず劣らず鋭い目を細め、今しがた倒した不良を睨む。
「おい、なんかアイツと俺に言う事あんだろ?」
響はしゃがみ込んで伸びた不良にガンを飛ばして問いかける。
指を刺したのは後ろにいる気弱そうな男子生徒。山田という少年は不良達にスマホを取られたりと日常的にイジメを受けていたらしい。
先程も不良3人に暴力を振るわれそうになった所に響が割り込んだのだった。
「ご、ごべんなざい……」
「もうしません、もうこんな事しませんからぁ……!」
「ゆ、許してください……」
不良達は響の目に怯え、口々に絞り出すように謝罪の言葉を口にしたのだった。
「だとよ、お前はどうすんだ?」
「え?ぼ、ぼ、ぼく!?」
「お前しか居ねぇだろ……当事者はそっちだ。こいつらをどうするかはお前が決めろ」
なんならまだ殴ってやってもいいぞ?と響は冗談交じりに山田に提案する。山田は目を忙しなく動かし考え込んだ後、意を決して答えを出した。
「……もう君に散々殴られてるし、二度と僕に関わらないって約束するなら……ゆ、許します……」
「だとさ。命拾いしたなお前ら?もし次またやったら……」
「ひっ!ゆ、許して、くださりあ、ありがとうございますぅ……!」
予想以上に痛みが応えたのか、情けなく言葉を紡ぐ不良達。
先生にチクるって言おうとしたのに……まあいいか
響は反省した不良を見て肩の力を抜く。こうして不良は山田の寛大な心から許しを得たのだった。
「ほれスマホ。お前のだろ?またなんかあったら言えよ」
響は落ちていたスマホに着いた土を払い、山田に渡してやった。山田は響の一転して優しい姿に面食らう。
そしてどもりながらもお礼を述べ、頭を下げてその場を去っていった。
「さて、お前らもこれに懲りたら二度と下らねぇ真似すんなよ〜」
響は不良3人を雑草を見るように興味なさげに見下ろしそう言い残して校門へ向けて歩き出した。
響は暫く歩いた後、ふと足を止め丸く整えられたとある植木を覗き込む。
「おめぇらもこんなとこに居ねぇで帰りな」
そこに居たのは小さな生物達……いや、付喪神だ。
日ノ本には空気中に太陽の霊力が満ちており、それらが物に自然と染み込み、使っていた人の念と混ざって時折小さな神様……付喪神になる。
付喪神達の生態は様々。特定の場所に居座って人の生活を手伝ったり、放浪しながら子供と遊んだり、イタズラしたり……こうして覗き見したりする事もある。
人々はこの小さな神様と共存しているのだ。
神と言えば、先程の不良のような獣人も神が関係している。
先祖が獣神の信奉者であったりした場合、その祝福によって赤子が獣の要素を持って生まれて来る事があったそうな。それが獣人という種の起源。
こうした不思議な存在達が居る事こそ、この国が神の国とも呼ばれる理由だった。
響に見つかった付喪神達は、走ったり浮いたりしながらその場を離れる。それを見届けて響もまたその場を後にしたのだった。
校舎の陰から出ると西日が響の顔を照らす。その眩しさに光を手で遮ると、校舎側から歩いてくる人影が見えた。
「響くん!待ってよ〜!」
そんな響を呼び止める声。それに振り返ると、腰まで伸ばした漆黒の髪を靡かせ駆け寄って来る、同い年の少女の姿があった。
「もう、なんで1人で行っちゃうの?同じクラスなんだから教室から一緒に帰ろうよぉ〜」
息を切らしながら膝に手を着く彼女は
今の家は離れているが、昔は近くの家同士だったのでよく遊んだりした仲だ。
数年前にお互い家の事情で引越してから家は離れたが、それでも小学校から付き合いは変わらずに高校でもこのように共に下校する事が日常になっている。
「楽しそうに話してるとこに水差すのは悪いし……あと女子グループの中に割って入ってけってのは中々キツいぞ……」
「それでも!一言ぐらい言ってもいいんじゃない?」
怒りを見せる空。しかしほんのりプクッと膨らんだ頬は整った顔立ちの空の可愛らしさを増すだけであった。
「……それに、響くんが呼ぶなら絶対駆けつけるのに……」
控えめなトーンで漏らす空。
「いやそこまでしてくれなくても……まあ分かった、次からそうするよ。行こうぜ」
こんなやり取りも2人は慣れたもの。響は向き直り歩き出そうとする。すると……。
「あ、待って!ほっぺ、傷ついてるよ?」
響の横顔を見た空は、頬に付く微かな擦り傷を見つけて引き止める。それは響が不良の拳を躱した時にできたかすり傷だった。
「ほんとだ……まあその内治るだろ」
「ダ〜メ!放置は衛生的に良くない!ほら、絆創膏貼ってあげるから動かないの〜!」
空はスカートのポケットから取り出した絆創膏を背伸びしながら響の顔に貼る。
「はい、できたっと。また喧嘩止めに入ったの?それともイジメられてる子助けた?」
「まあそんなとこだ」
「どうしてそこまで他人の事気にかけるの?」
「別に……ただ、俺の目の届く場所で、理不尽な目に遭ってるやつが放っておけないだけだよ」
空の疑問に響は少し照れくさいのか目を逸らし、何でもない風を装ってそう答える。
正義感に溢れた芯のある答えに空は満足気に頷く。
「まあ、それならしょうがないよね!今に始まった事じゃないし止めないけど、あんまり無茶しちゃダメなんだからね?」
「ん、ありがとな……気ぃつける」
気をつけると言ったものの、響はいついかなる時も同じ事をする気だ。
ああいう手合いは平気で人の大切なもん踏みにじる……んで、それを悪びれもなく何年も続けてく。その癖相手の事はまるで覚えてない。だから、せめて俺が見える所はなんとかしたい。
それが幼少期より続く響の信念だ。
「ほんとに分かってる〜?まあ、そういう優しくて無鉄砲な所が君のいい所なんだけどね?それに……」
「それに?」
「どんな理由があろうと響くんに怪我させる方が悪いよね?……藁人形とかで末代まで呪っちゃおっかなぁ〜?」
「怖ぇよ!?しかも割と陰湿!」
顔は笑っているが、冗談とは思えない凄みのある語気で語る。そんな空を響は慌てて宥める。
「別に大した事無いから落ち着け!ったく、ほっとけばマジでやりそうだ……どっかズレてるお節介な所も相変わらずだな?ほら行くぞ」
「むぅ……響くんがそう言うなら……ま、いっか。行こう♪」
こんな空の一面を知っているのは幼なじみの響だけだ。長年の付き合いらしい仲睦まじさ溢れるやり取りをしながら2人は下校するのだった。
「そう言えば響くん、部活はしないの?もう5月半ばだけど、入部してもまだ追いつけるだろうし。あ、中学まで剣道してたんだっけ?なら剣道部とかいいと思うよ!」
「うーん、爺ちゃんに習ってたのは剣道じゃなくて古流剣術だから色々違うと思うぞ?まあ考えとくよ」
「うん!」
下校中、いつものように空から様々な話題を響に話しかける。色んな他愛も無い話をし、オチが着いたのを機に空が提案する。
「あ、ねぇねぇ?今日もお家行っていい?」
「今週もう3回目だろ?飯作ってくれるのは嬉しいけど、店の方手伝うのはいいのかよ?」
「あっ……それも、そうだね……」
空は両親が亡くなってから叔父の家にお世話になっている。昼は定食屋で夜は居酒屋をしているので、お世話になっているお礼に空はその手伝いをしているのだ。
その甲斐あって料理の腕は中々のもの。そして結構な頻度で響に晩御飯を作りに来ている。これは半ば1人暮らしである響の家庭事情を心配しての事であったりする。
少し残念そうな顔で俯く空。
「別に今日だけが機会って訳でもないし、何時でも空の料理は美味いから安心しろ。だから、んな顔すんな」
「……うん!ありがとう」
見かねた響がそう言うと、いつもの明るい笑顔に戻る空。それを見て安心し、同じように響は顔を綻ばせる。そうしていると、いつの間にかいつも別れる十字路に来る。
「それじゃ、また明日ね?」
「あぁ、また明日な」
別れの挨拶をし、響は軽く手を振って遠のいてく空を見送った。
やがて響は自宅に着く。一軒家でそれなりに立派な家だ。鍵を開けるといつも通り暗い家が響を迎え入れる。慣れた手つきで玄関の電気を付ける。
「ただいま。お袋」
響は下駄箱の上に飾られた写真……そこに写る母に一声駆ける。そして靴を脱ぎ、丁寧に揃えて上がるのだった。
「親父は……どうせ今日も帰らねぇだろ。ラーメン食いに行くか」
いつも通り居ない父親の姿に少しばかりの寂しさを感じる響。それを振り払うようにそそくさと服を着替え、今日の晩御飯を決めてまた出かける準備をする。
夜の街を行く響。仕事終わりの人々で賑わう往来を横切って進む。そして目の前の交差点を右に曲がると行きつけのラーメン屋だ。
「は?」
角を曲がった瞬間、空気が変わった。
ジメッとした湿気を感じさせるのに、背筋を撫でる悪寒が極めて不快な空気である。そこは明らかに異質であった。
見慣れたラーメン屋。いつもこの時間なら、少し扉が開けば外まで響く店長の元気な挨拶。しかし今はベルの音が響くだけだ。灯りは点いているにも関わらず。
店を出て曲がって来た道を戻るも、街を行く人々も、付喪神の姿すら無かった。
「ど、どうなってんだよ……!?」
静寂が包む街に響の動揺した声だけが木霊するのだった。
「ここも誰も居ない……」
響は暫く周辺のゲームセンターやスーパーなどを探索した。だが建物の中も見回り、大声も出してみたが反応は無く人は1人も見当たらない。どうしたものかと途方に暮れる響。
「スマホは圏外、夜だから太陽無くて充電も減る……ラチがあかねぇ。空んとこ行ってみるか?」
人が居そうな場所、尚且つ空を心配する気持ちから響は行先を決めた。そうして進路を変えようした瞬間、視界の端には信じられないものを目にする。
──影。
そうとしか言えないような、真っ黒な人型のナニカ。風景写真のその場所だけ切り抜いたような、異常な存在がそこに居た。そして、その影が不思議とこちらをジッと見つめているのと感じる響。そこに目など存在しないというのに。
「あ、アアアアアッッッ!」
目が合った……正確には響が目が合ったと感じた瞬間、突然奇声を発しながら形を変える影。ボコボコ、グチャグチャとスライムが握った手の中で形を変えるように蠢く。
やがて真っ黒な人の胴体に、骨に皮が張り付いただけのような細腕を6本生やし、魚のような大きな頭が着いた異様な姿に変貌する。大きく開けた口からは唾液とびっしり生え揃った牙を覗かせている。
そのギョロギョロと蠢く眼に映つるのは明確な敵意だという事は、響は嫌でも感じ取った。響の背にジワリと油汗が滲む。
底冷えするような冷たい空気。どうしようもなくうるさい鼓動と荒い呼吸。
不良や暴漢とはまるで違う。戦ってはいけない相手と本能で認識する。
その緊張に耐えきれないように響は怪物から背を向け一目散に走り出す。
「アアアアアア!」
怪物も同じように走り出す。響が肩越しに背後を覗くと、6本の骨の腕をブラブラと忙しなく動かし追いかける異様な姿が見える。
「はぁっ!はぁっ!なんなんだよあれは……!?」
吐き捨てるように息を切らしながら呟く。
幸いにも走る速度は響より遅く、どんどん距離は離れていっている。
(いける!)
そう思ったのも束の間。
「い、イアアアアァァァァ!」
怪物が叫ぶと同時に2本の腕が伸びる。
「嘘だろ!?」
その腕はグングン伸び、響が離した距離をものともしない。瞬く間に魔の手は響の背に迫る。
(クソ……!)
迫る死の予感。前を向くも、もうダメかと思い反射的に目を閉じる。
その瞬間。
「グギャアアア!」
耳にしたのは怪物の悲鳴にも似た声だった。
「え?」
目を開けてゆっくりと足を止める響。
振り返ると、目の前に金髪の毛先を桃色に染めて緩く巻き、左肩に足らされたサイドテールが靡く姿が目に入った。
どこかの制服の白シャツ、黒チェックのスカートの上から茶色のカーディガンを腰に巻き、足元はルーズソックスで着飾るその風貌はギャルという概念を固めたような印象を与える。
そしてなにより……金色の狐耳と尾が可愛らしく揺れる。
だがその印象とは裏腹に、手にしてるものはやや物騒なものだ。
右手には黒い鞭を握っており、それには青い血のようなものが滴っている。足元には怪物の細腕。そして視線の先には2本の腕が無い怪物が悶え苦しんでる。
「賑やかな『影』だね〜」
「あ、あんたは……?」
動揺する響の口からやっと出た言葉に振り返る金髪の少女。桃色の瞳が響をジッと見つめる。
「危ないから下がって〜?陰陽師として、そこの『影』を倒しに来たからさ!」
そう短く述べてまた怪物に向き直る。
「お、陰陽師!?」
陰陽師には全く見えないギャル狐の少女に響は余計に混乱する。聞き返そうとするがそれは『影』と呼ばれる怪物の咆哮に遮られた。
『影』は四本の腕全てを伸ばし、少女を捕らえようとする。
「フフンっ♪」
それを小さく笑い、右手に持つ鞭を2回程振るう狐の少女。すると、瞬く間に伸ばされた腕達は鋭い刃に触れたように切り飛ばされ、虚しく地面に落ちた。
「グウゥ!ガアアアァァァ!」
為す術の無くなった『影』は特攻とばかりに大口を開けて襲いかかる。金髪の少女はそれに物怖じすることなく鞭を構える。
「あ、あぶねぇ!」
喰われる…!
そう思い叫ぶ響。
しかしそうはならず、『影』は鞭の横薙ぎにより真っ二つになった。
地面にドサリと落ちる2つの肉塊。それはやがて炭の如く黒く染まり、灰が風に吹かれるように消え去った。辺りには何も残らない。血も、ちぎれた腕も、何1つ。
その光景にただただ響は唖然としているだけだ。鞭を巻き取り腰に納める狐の少女。振り返り、響に歩み寄って告げる。
「やっほ♪私は
さっき迄と変わらず明るく名乗りを上げる少女。ピースまで決めるその様子に思わず響は目を丸くする。
いや、そうではない。
揺れる金色の耳や髪は月に負けない程美しく輝き、桃色の瞳は宝石のよう。その笑顔は少し前まで激しく波立った心に安息を与える。
その姿に……どうしようもなく目を奪われたのだ。
この日、響のなんて事ない日常は崩れ去るのだった。
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