第9話 狐のクイーン

さて、80万を手に入れた俺だが一度島に帰ってきた。種子を大量に仕入れてきたのでここから島を発展させて行きたいと思っているのだが……




『帰ってきたのね。アムダ!』



 生意気そうな声が耳に響く……いや、頭に直接響いた。



『ふふ、アタシのテレパシーにびびっちゃってる?』




 目の前には一匹のエレモンが佇んでいる。狐のようなシルエット。だが、頭の上には金色の王冠が乗っている。


 ローブがあり襟が立っている、それだけを羽織っており残りは隠れていない。白銀の毛色が輝いており、瞳は青く輝いていた。


 大きさは50センチほど。



「おお! テレパシーでこんなことができるのか!」

『そうよ。だいぶ苦労したけどテレパシーでアンタと会話できるようになったの』




 これは【L】ランクエレモン【クイーンフォックス】。ゲームでは世界に一体しか存在しないエレモンと言う設定だった。


 超能力を扱えるように改造されたエレモンらしく、唯一の成功例だとか。


 メスではあるらしいのだが、オス個体は存在しない。



 特殊なエレモンなのだ。



 まぁ、それは置いておくとしてびっくりした!



 テレパシーが使える設定自体はあったが、実際に言語を理解して会話などゲームではできるはずがなかった。




「いや、凄いな! どうやったんだ!」

『アンタの頭の中を常に観察して言語を理解したのよ! ふふ、アタシはLランクで最高峰のエレモンよ。これくらい当然よ』




 こんな話し方になるとは思わなかった。ツンデレみたいだな。確かに眼がつり目な狐だからな。




『ちなみににだけど、他のエレモンの心も大体読めちゃうわ』

「うわぁ!? ま、まじ?」

『マジよ。苦労したけどね。頭の中の言語みたいなのってそれぞれのエレモンにあるのよ、それを解析して翻訳に成功したの』



 さ、さすがは【L】ランク。




「凄いな! お、俺エレモンと話すのが夢だったんだよ!! クイーンフォックスばんざーい!」

『ちょ、抱っこはやめて! 子供みたいじゃない!』

「ご、ごめん」

『ちょっと! 辞めないでよ!』

「え!? どっち?」



 

 しかし、テレパシーを使ってエレモンと会話ができるようになるとはね。


 うぉぉぉぉ! この世界に転生をしてよかったぁ!



「いや、凄いな! 本当に! えぇ!? すごいなぁ!」

『……あのね、褒めてくれるのは嬉しいけど。アンタはこの島の王みたいなもんじゃない』

「王?」

『そうよ。アタシ達のテイマー、王様みたいなもんよ。王がそんな腰低くてどうするの!』



 お、俺って王様だったのか!? コミュ障でハンバーグとカレーが何よりも好きなだけの少年な気もするけど……



「王様か! で、でも、俺は普通のテイマーだし、オタクのコミュ障だし! よくわからない気も……」

『何言ってるの、全員のエレモンの頭の中覗いてきたわ。全員テイマーとしてアンタを認めてるわ』

「マジで! おお! 嬉しい!」

『呑気ねぇ。まぁ、可愛らしいけど』

「なら、王は大袈裟かもしれんけど……恥じのないようにテイマーとしても成長するわ!」

『あら、それなら期待しているわ。アムダ』




 テイマーとしての実力ってゲームの時とは別の力が求められる。回避指示とかが良い例だ。この間の大会でもそれは学べた。



 もっと成長をしないとね



「俺が王なら、お前はクイーンだな。クイーンフォックスって名前だし」

『……良いわね! クイーンと呼びなさい!』

「クイーン!」

『もっとクイーンと呼びなさい!』

「気に入ったのか! クイーン!」

『もっともっとクイーンクイーンと呼びなさい!』



 あ、本当に気に入ったんだろうな。顔はニヤニヤしてるし頭の上に乗っかって嬉しそうに尻尾を振っている。




「あ、俺種子を埋めてくるからファームモンとかの所行ってくる」

『だから、王がやるべきなの? そういうの?』

「だな! 王だからやるよ! クイーンはどうする?」

『アタシはクイーンだからパスよ。アンタの頭の上で観察させてもらうわ』




 クイーンは相変わらず頭の上で佇んでいる。最初は俺の前に現れなかったのはやはり、他のエレモンの言語理解をしていたからだろう。




『そういえば、アンタに言いたいことがあったの』

「なに?」

『一部のエレモンがレベルダウンしてる』

「……どういうこと?」

『そのまんまの意味よ。アタシはレベル120あったでしょ? でも今は108しかないわ。アタシ以外にもレベルが下がっているエレモンが沢山いる』




 マジか、せっかく育てたエレモンがレベルダウンしていただなんて……



『まぁでも、無事なのも居るわよ。ざっと計算したけど、2000体ぐらいは無事でレベルも限界突破のままよ』

「そうなのか、知らなかった」

『テレパシーによるとこっちの世界に引っ張られた時に、力が抜ける感じがあったらしいわ。アタシもあったけどね』

「くっ、折角俺達で積み上げてきたレベルが……限界突破のレベル120も苦労するのに」

『まぁ、アンタならすぐに戻せるでしょ。それにいくらレベルダウンしてもアタシとかの力はこの世界じゃ破格でしょ』

「負ける要素ないな。正直、ゲームなら70でも一匹いればストーリーはクリアできる」

『余裕じゃない』




 装備とか道具とか使えば、本当に一匹で余裕なんだよな。そう考えると確かに問題がない……だが、それはそれとしても悲しい!!!


 すぐさまエレモンのレベル回復にも努めないといけないな!



「レベルダウンはどの程度なんだ?」

『個体によりけりね。アタシみたいに108で止まったのも入れば、50とか90とか、数体だけ【卵】に戻っちゃったのもいたけど。でも、意識はちゃんと持ってたわ』

「卵ともテレパシーできるのか」

『アンタと早く顔合わせたいって言ってたから、孵化させてあげなさい』

「はい!」

『良い返事ね、流石はアタシのキングね』



 あ、俺ってクイーンのキングなのか。知らなかった。



「うーん、レベルダウンは個体差あるのか」

『あんまり悲観的な考えはよくないわ。ヴェルディオンと大会優勝したんでしょ? 力の総力なら間違い無く世界一よ。それにアンタもテイマーとして優秀だしね』

「俺はまだまだだよ!」

『ヴェルディオンが言ってたわ。あの大会でダントツにテイマーとして優れてたのはアムダだってね』



 うわぁぁあ!! 嬉しいーーー!! そんなふうに思ってくれていただなんて!!!


「ふぇぇぇぇ、嬉しぃぃぃ!」

『こら! 王がそんな間抜けな返事をしない!!』

「はい!」

『流石はアタシの王ね。良い返事だわ』



 あ、俺クイーンの王だったのか、さっき知ったな。



『何度も言うけど、レベルダウンは全体の二分の一よ。殆どはレベルを保ってる。アタシと同じランクでこの島を作った【テラゴラム】もレベルは120の限界突破を保ってるしね』

「なるほど」

『この世界で【Lランク】を持ってる時点でヤバいやつなんじゃない? 戦力的には問題ないわ』

「確かに!」

『なら、あとはアタシ達のレベルを戻す! それとこの島を発展させてちょうだい。アタシ温泉とか欲しいの。クイーンだし』



 へぇ、クイーンだと温泉が欲しくなるのか知らなかった。


『あとあんたも、いつまでも寝袋で寝るのもあれでしょ。私達を優先してくれるのはありがたいけど、あんた自身の家とかもいい加減作りなさいよ』


 確かにな。俺も家があったら嬉しいけども……今はエレモンを優先したいな。


『自分も優先しなさい! 王なんだから!』

「お、おう……。でも寝袋でも俺平気だし」

「あのね、エレモンたちだってあんたが病気とか怪我しないか心配になるんだからね」


くっ。そういわれると弱いな。無駄に心配はかけれない。




『王なんだから! ちゃんと良い家を作りなさい! なんだったら城でも控えめなくらいよ!』


 そ、そうなのか? 普通に一軒家の方が嬉しいんだけど……まぁ、前世だとずっと病院の病室だったから自分の家も欲しいなぁ


 しかし、クイーンのおかげでやるべきことが明確になってきた。



 島の発展だけでは終われない。それに加えてレベルダウンしているエレモンの回復だな。戦力的には問題ないかもしれない。


 ただ、俺達の思い出が無くなってしまったみたいで悲しいぜ!!


 早急に取り掛からなくてはならない!!




 レベルダウンで進化から退化してしまった個体もいるんだ。進化に特別な道具が必要なエレモンも居るし。


 道具集めが必要だ。それもお金が必要だ。やはり大会には定期的に出ないといけないな。




『アムダ、アンタは王でキングなんだから自覚しなさいよ』

「はい!」

『さて……』




 クイーンは何やら【俺の影】をジッと見ている。一体、どうしたのだろうか?




『なんでもないわ。ただ、ちょっとアムダの影を見ていたの』




 俺の影って見るほど面白いか!? うーん、分からないな。まぁ、いいか。でも、エレモンの気持ちも分かるようにならないとな!!



 ──その時、少しだけ俺の影が動いた気がした









  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る