第8.5話 ミラー戦【裏】

 ワタクシは負けた。決勝戦で……ライオンフィッシュ竹中、別名【ライオン仮面】に完膚なきまでに……



【大会】の優勝者は大会運営側が読んだ【ゲストテイマー】と戦う事ができる。当然、ライオン仮面はそれに乗った。




『さぁ! 【森羅の導きの大会】エキシビションマッチが間もなく行われます! 実況は【フルーツ系エレモンアイドル】の【レモン】と──』

『【リンゴ】で行うよぉー』




 試合がもう無いので、観客席に座りながらポップコーンを片手に解説を聞き流す。



 ワタクシは試合に集中し過ぎて分からなかったのですが、解説役がいたらしいですわね。


 確か動画投稿とかもしている【フルーツ系アイドル】だとか……




『ここまでの戦いを見て【リンゴ】はどうですか?』

『そうだねぇー、あのライオンフィッシュ竹中って言うテイマーがすごく強いのが分かったかなぁー』

『今大会の出場テイマーの情報は事前に仕入れていたのですが、優勝をしたライオンフィッシュ竹中選手の情報だけは仕入れることができませんでした』

『あのグレンさんの娘さんにも、勝っちゃうんだからー。凄いよねー』



 【リンゴ】って人が言ってる娘はワタクシのこと……。確かに彼女の言う通り、ボロ負けでしたけども。




『【リンゴ】はグレンさんと戦った時あるんですよね?』

『あるよー。1分で3体倒されて、負けちゃったー』

『おお、グレンさん流石だね』

『【レモン】はグレンさんのお嫁さんと戦った時あるよねー』

『ホムラさんね! うん! 一撃も与えられず負けちゃったね!!』




 あの方達、お父様やお母様の戦ったことがあるようだ。ワタクシはその解説を聞き流しながら、観客席の下にあるリングを眺める。



 観客席は二階から、闘技場を見下ろせるような形になっている。



 闘技場のように円形の作り、そこに四角になるように大理石が敷き詰められている。そのリングに【コード・バトラー】クサウチとライオン仮面が上がった。




『さぁ、エキシビョンマッチスタート!!』




 ──戦う両者が繰り出すのは【ヴェルディオン】





『な、なんと互いに同じエレモンを使っております!! ヴェルディオン、植物系のSランクエレモンですね。非常に珍しく、強力なエレモンです』

『透明で綺麗な宝石みたいなエレモンだよねー、肌は透き通るガラス細工みたいでフォルムもトカゲみたいに特徴的ー』

『一度見たら忘れないエレモンですね! しかし、Sランクエレモンは中々捕まえられないから強いのであって、ミラー戦は非常に珍しいでしょう』

『みーんな、注目ぅー』





 確かにSランクは強力だ、強力であるからこそ中々捕まえられない。言うことだって素直に聞いてくれないだろう。




 だけど、それをここで、大会で両者出してきてる。使役して倒せる自信が互いにあるんだろう。




──最初に動いたのはクサウチ







「全力で行くぜ。【ウィザーウィップ】」

「──左、右、後ろ。そのまま




 草の鞭にて、ライオン仮面のヴェルディオンを攻撃する。しかし、それは難なく躱わされることになる。




『速い!! 両者共に!!』

『クサウチさんーの、ヴェルディオンが使ったのって、相手の攻撃力を下げる効果もあるよねー』

『命中した場合ですね。ただ、それを避けたライオンフィッシュ竹中選手のヴェルディオン、見事な身のこなしでした。あそこまでの速度ができるって相当ですよね!』

『ステータス相当高いだろうねぇー。どこまでかは分からないけど、残像見えたレベルだよー』



 




 一見、両者互角に見えるけど……ワタクシには分かる。ライオン仮面の方が速い。まだ互いに様子見って可能性もあるけど。




『ライオンフィッシュ竹中選手は、回避をする際の指示独特ですね。【リンゴ】はどう思う?』

『私や【レモン】、その他のテイマーとは根本的にやってることは違うよねぇー。しかも、それにランク高いエレモンがちゃんと言うこと聞いてるしねー。相当な猛者だよねぇー』

『コード・バトラーのクサウチ選手はまだ分かるのですが、対戦相手のライオンフィッシュ竹中選手も有名どころのテイマーなのでしょうか?』






 確かに、ランクが高いほど言うことを聞きにくくなるとはお父様も言っていた。ただ同時に優れたテイマーであれば、【そんなことは気にしなくて良い】とも言ったのを覚えている。





 会場も盛り上がっている。Sランク同士のミラー戦、しかも互いにちゃんと指示通りに動くと言う点を加味すれば、凄腕のテイマー同士の対決であることは間違いない。




「クサウチはゴッドリーグはずっと行けなかったけど、ヴェルディオン持ってるなら行けるかもな」

「今までSランクは持ってなかったからな。いつもの【スタメン】にこれが入れば、十分リーグ上がれる実力はあるだろうさ」

「相手も相当だな。ゴッドリーグ並みの試合になってるかも……リーグはチケット中々取れないし、高いしな」

「稀にあるよな。リーグじゃなくても、リーグに近い熱い戦いする大会」





 周りの観客もこの試合には特に力を入れて観覧しているようだ。ワタクシも眼に力を込めて、瞬きなんて勿体無いことをしないように努めている。






『おっとー! ライオンフィッシュ竹中選手のヴェルティオンが発光! しかし、それだけで特に何も無い!! 【リンゴ】、どう言うアクティブスキルか分かる?』

『うーん、あの発光の仕方は見たことないスキルかなー? でも、あのテイマーが意味ないことをするとは考えづらいから、バフじゃないー?』






 ライオン仮面のヴェルティオンは発光をするが、それ以上は何もしない。一体全体何をしたのだろうか?



「あ? 何だ? もっかい【ウィザーウィップ】」

「左、下2」




 再び、攻めに転じるクサウチ。草鞭二手の攻撃が放たれるが、迅速な指示と刹那の行動によってあっさりと避けられてしまう。




『またしても回避!! 回避されてしまってますが、今までの試合はほぼ不動で相手の攻撃をものともせず状態であった、ライオンフィッシュ竹中選手。やはり同じSランクは攻撃を受けるのはまずいと判断してるのでしょうか?』

『うーん、ダメージどうこうよりも、単純に攻撃力下がっちゃうからかもねー。パッと見だけどステータスはライオンさんの方が高いから、ダメージの心配ってより、試合を決着させる手札を保っておきたいからじゃないかなー? リング外に弾き飛ばすには攻撃力必要だしねー』

『【リンゴ】の見事な解説でした! やっぱり私より、上手いですね!! これ見ていて素朴な疑問なのですが、ライオフィッシュ竹中選手のヴェルディオンはステータスがパッと見でそんなに高いって分かるくらいなら、回避を【テイマー】が支持する必要あるかなと思っちゃいます? ある程度自由に動かしておけばよくない? 逆に混乱しちゃうんじゃないかなと』




 確かにワタクシもそう思った。あのヴェルディオン自体が相当に強いだろう。それなら、もう全部自由でも良いんじゃないかって……




『うーん、確かにねぇ。でも、上から見るわたし達と下で戦っているエレモンは見え方が全然違うと思うけどねぇー。視野とかだって狭くなるしぃー。戦況だってめまぐるしく変わるからぁ、その度に選択肢も増えたり、変化するしー。そんな時、【迷い】を産ませないテイマーを優れたテイマーっていうんじゃないかなぁ? ライオンさんはそれが分かってるテイマーなんだよ』

『おおー! なるほど! 【リンゴ】の解説は世界一わかりやすいです!!』

『まぁ、【レモン】の言うことも一理あるけどね。下手な指示なら自由にさせた方がいいし。今回みたいに大きくステータスがあるようなら意味ないって言うのもわかりかなぁー。でも、そう言う足し引きの考えじゃなくて、単純に自身のテイマーとしての指示精度を上げるってのが狙いのような気もするかなぁ』






 なるほど……優れたテイマーは迷いを産ませない。確かにあのライオン仮面は指示に迷いがないから、彼の指示に従うエレモンにも迷いがない。







「もっかい【一番】。そのまま【四番】」






 連続、アクティブスキル使用……そして、発動までが速い!!




『速い! 先ほどよりもアクティブスキル発動が速いです! 発光がさっきより収まりも素早い気がしました!』

『最初は、探りながら使ってたねぇー。発動途中でも避けられる余白を残してたからあの発動スピードだったのかなぁ。寧ろ、今回のが本来の発動感覚なんだねぇ。だとしても速いねー。それに加えて相手がどの程度の速さを持ってるかが分かったから、連続で使っても問題ないと判断したんだねぇー』

『これが本当のスピードなんですね! だとしたら速い!! 早撃ちガンマンを見ているかのようだ!!』

『速いねぇー。ここまでの見たことないかもー。こっちから見て速いってことは、対面して見てるテイマーとエレモンからしたらもっと速いし、相当プレッシャーかかってるよぉー』






 ──そこから先は、ただただ毒によってクサウチが負かされる展開だった。ワタクシの時はきっと本気など全く出していないと分かった。



 クサウチですら、本気など出す必要がないほどに、ライオン仮面とヴェルティオンは極まっていた。






『さて、優勝及び、エキシビションの勝利もライオンフィッシュ竹中選手でしたがいかがでしたか? 【リンゴ】』

『率直に言うとびっくりしたー。あれはゴッドリーグでも余裕で通用するよ、新人ではな無さそうだけど。どこの誰なのか気になるから特定班よろしくー』

『特定班に期待するのやめてください! 気になるのは分かりますけど』

『正直、ファンになったー、今度動画に出てくれないー?』

『あ、私達【フルーツ系アイドル】は動画投稿をしておりまして、現在チャンネル登録70万を突破しています! ゲテモノ食べたり、体張ってバンジー、エレモンと相撲したりしてまーす! ぜひお願いします!』







──ライオン仮面は勝利すると、すぐさま消えてしまった。




 結局、一体全体何者だったのか。





「さぁ、キリキリ吐いてくださいまし。ライオン仮面」

「ら、ライオンフィッシュ竹中……」

「どっちでもいいですわ! ライオン仮面」





 まさか、彼だったんなんて……









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