Disappear・Escape ─全世界を救う為の最小規模の作戦─

丫uhta


 真っ白な部屋の壁に飛び散った血や肉片、その下、コンクリートに倒れる胸像の様な姿をした老人男性。


 滴る赤い液体から骨の様な機械を覗かし、弱弱しく首を動かす老人は、琥珀色の目で、目の前で立つ若い女性を見上げていた。


 老人の千切れた腕を持つ女性もまた、同じ琥珀色の目をしていた。


「──何か、言いたい事はあるか…?」


 静寂の中に広がる女性の震えを押し殺した声は、男性に対してではなく、自分に言い聞かせてる様だった。


「…この地球は、君の知っている昔とは違う。最早、我々が生きる事の出来る環境では無い。君も私も…限界まで衰弱すいじゃくし切っている。仕方が無かったんだ。人間はが一番、手を出したくない種族。勿論もちろんそれは大きな賭けだった。…これが一番の方法だったんだ!」


「へぇー…それで、結果は…っ!」


 男性の言葉に歯を食い縛り、必死に声を押し出す女性は、零れ落ちそうな涙に視界が歪む中、持っていた腕を投げ飛ばし。両手で男の首を締め、持ち上げた。


 途端、男性の天地が逆転し、ドォン!!と頭の芯にまで響く衝撃が走った。


 コンクリートにヒビが入る程の勢いで頭から叩きつけられ、顔の左半分が潰れた男性。


 掴まれた首は指の形に抉れ、血管の様な配線が女性の指に引っ掛かり、床に叩き付けた男性を持ち上げていた。


「なん、で…何でだよ!! は…! もう…嫌だ…!」


 顔の潰れた男性の額に女性の涙が零れ落ち、重たそうに眉を上げ、悲哀に満ちた視線を向けた。


 これほどまでの事をされてるにも関わらず、怒るどころか、反論する事も無く、ただ、自分に向けられる暴力を当然の物として受け入れていたのだ。


「…既に、我々の事は、政府に知れ渡っているだろう……アレを一般人に託したのは、政府や彼らからの注目ヘイトを我々に集めて…アレから注意をらし…て、回収するためだ…もうすぐ、政府が来る。怒るのは結構だが。どうか、おかしな動きはしない事を約束してくれ。最悪、そのまま回収出来ずに|連れて行かれ──」


 ドゴォォン!!


 鼻の奥のスピーカーでノイズ混じりの声を出す男性の鼻先を掠めて女性は、拳を叩き付けた。


 言葉を遮られた男性の目に映る女性の拳からは、折れた金属の骨が鮮血と共に飛び出していた。


「アレアレうるっせぇんだよ!! 何が…何が!回収だ!!お前はあの子を何だと思ってるんだあ!! …政府が消えて、あの子を助けれたら。その時は覚えてろよ…っ!!」


 女性は、飛び出した金属の骨を庇う様に、もう片手で押さえてフラ付きながら、部屋を出ようとドアに足を運び始めた。


 ボヤける視界の中、離れる女性に遠退く意識を保たせようと男性は、小さく呟く。


「……あぁ、好きにしてくれ。君にまだ、諦めの気持ちが無い事が確認出来て良かった。ありがとう。しかし、あの一般人……既に死んでいる人物だったのが気掛かりだな……」


「…! ぉぃ……今、なんつった?」


 だが、その一言に足を止めて振り返る女性は、顔を青褪めさせながら声を震わせた。

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