第11話
楓さんの依頼の『よしよし代行』を終えた直後、もみじがカバンを持って寄ってきた。
「ね、大光君。ちょっと付き合ってよ」
「なんだ?」
「お父さん代行」
もみじは「ふふーん」と言いニッコリと笑って新しい代行サービスを作り出した。
「何だよそれ……」
「璃初奈がお父さんの誕生日プレゼントを買いたいらしくて。折角なら男の人目線で一緒に選んで貰いたいなって」
「あれ? もみじ、今日行けるの? 塾があるって言ってなかった?」
璃初奈の質問にもみじは明るく笑いながら首を横に振る。
「良いよ良いよ。ずっと行ってないから行く方が珍しいくらいだし。それに、大光君の予定が空いてるなんてチャンスじゃない?」
「別にそんな多忙じゃないけどな……」
塾をサボるもみじ。それも楓さんの言っていたことと通ずる部分があるんだろうか。
まぁ俺が心配するようなことじゃないか。
「じゃ、行くか? 璃初奈」
璃初奈に尋ねる。
「う……うん。よろしく」
璃初奈は俺と目を合わせると顔を赤くしながらサッと目を逸らしてしまった。
何か嫌われることしたかな……
◆
学校から少し離れたところにある大型商業施設にやってきた。平日の放課後はデートを楽しむ学生カップルや友達グループをよく見かける。
手を繋いでデートを楽しむカップルとすれ違うたびに俺の両脇からため息が漏れる。
「二人してなんでため息ついてるんだよ……」
「そろそろ夏休みでしょ? その前に期末テストもあるし。高校生にもなって彼氏もいない寂しい夏休みなのか……って思うとね」
璃初奈がそう言って「はぁ……」とまたため息をつく。
「大光君がいるじゃん!」
「えっ……なななっ……そ、そういうんじゃないから!」
「え? 代行だよぉ、代行」
もみじはニヤリと笑って腕を伸ばし、璃初奈の頬を突いた。
「だ、代行……」
「その方がよっぽど寂しくないか!? ただ男友達ならまだしも俺に恋人代行させてるってことだろ?」
「逆に……伝は代行じゃないと、お金を払わないと会ってくれないの?」
璃初奈が横から上目遣いで見上げながら尋ねてくる。普段は強気な大きな目が不安そうにパチパチと瞬く。
「そんなことないぞ!? 今日だって実質ただの放課後――」
「デートぉ?」
もみじがニヤニヤしながら差し込んでくる。
「であっ……だ、代行!」
俺が誤魔化すと両脇から「あー!」と指をさされる。
「大体、伝はもっと喜ぶべきなのよ。両手に花なんだから」
璃初奈が頬を膨らませてそう言う。
「ソウダヨナ。ウレシイゾ」
「棒読みぃ!」
もみじがケラケラと笑いながら指摘をしてくる。
「りっ、璃初奈のお父さんはどういう人なんだ!?」
「無理矢理話を逸らしたわね……」
璃初奈はジト目で俺を見ながら「えぇとね」と話を続ける。
「うちのぱっ……ちっ、父は普通の人!」
「今絶対に普段の呼び方が出かけてたよな」
「璃初奈って誤魔化すのが下手だよねぇ」
「う、う……うるさい! い、いい……いいでしょ!? パパって呼んでるってバレるのは案外恥ずかしいのよ!?」
言い切りおった。もみじと顔を見合わせてニヤリと笑う。
雑談をしながら広い通路を歩いていると、通路脇でカメラを構えた集団から何やらADらしき女性が出てきて俺達の行く手を塞いだ。
「な……何か?」
「テレビの取材をしていまして、高校生の恋人へのプレゼントランキングを作るために調査しているんです!」
ニュース番組か昼時のしょうもないバラエティ枠かなんかで使われるんだろうな、なんて毒づくには京葉か瑞帆がいなければ。
璃初奈ともみじは笑顔で「はいはい!」とインタビューに答える素振りを見せた。
「あ……一応男女ペアでお願いしているんですけど……どうされますか?」
スタッフの人の言葉を受けて璃初奈ともみじが目を合わせる。もみじはその瞬間にさっと物理的に一歩引いて下がる。
「璃初奈、受けなよ。私はいいから」
「えっ……もみじ……これって2人じゃないとダメなんですか?」
「い、一応男女ペアの映像を撮りたくて……」
スタッフの人は困り顔でそう答える。そりゃそうか。恋人へのプレゼント調査なんて名目なのに、男一人に対して美少女2人の絵面なんて使えないか。
美少女の映像は欲しいのか単に受けてくれる人が少ないのかは知らないが、スタッフの女性は「どうですか?」と食い下がってくる。
「じゃ、じゃあ……伝、いい?」
「あぁ。いいぞ」
「はい。私と彼でお願いします」
「あ、ありがとうございます! こちらへどうぞ!」
俺と璃初奈はインタビュー映像の撮影のため壁際に連れて行かれる。
スタッフやカメラのさらに後ろから、もみじはニコニコしながら俺達を眺めていた。
◆
プレゼントを選び終わりフードコートで休憩。もみじは椅子から立ち上がって鞄から財布を取り出した。
「私、買いたいモノがあるんだった! 2人で話してて! 10分くらいで戻るからー! ごゆっくりぃ」
もみじはそう言うとスタスタと歩いて一人でどこかへ行ってしまった。
残された璃初奈はスマートフォンを見ると顔を赤くして「あう……」とか「その……」とか言ってモジモジし始めた。
「体調悪いのか? 水でも持ってこようか?」
「いや……だ、大丈夫!」
「なんでそんなもじもじしてるんだよ……」
「べっ、別にしてないから!」
そういいながらも璃初奈は「もみじのやつ……」と呟く。
「何かあったのか?」
「今よ、今。もみじ、変に気を使っちゃってさ……」
そう言って璃初奈はスマートフォンの画面を俺の方に向けてもみじとのやり取りを見せてきた。
『二人っきりで話すチャーンス! しばらく戻らないから頑張れ〜! 目標はテスト週間に勉強会開催!』
「いやもうこれを見せられたら全部バレバレだぞ……」
「はっ……た、確かに!?」
璃初奈はそこでやっと気づいたらしく、慌ててスマートフォンを片付けた。
2人で話すチャンスがどうだとか勉強会だとかも気にはなるけれど、もみじの立ち回りも妙に気になるところだ。
「もみじっていつもあんな感じなのか?」
「あんな感じ?」
「いや……インタビューの時もさっさと引いてたし、普段もみんなが集まってるときに輪を外から見てる感じがしてさ」
楓さんの言っていた「本気で向き合うことをやめた」マインドがどこまで影響しているのかは知らないけれど、関連はある気がした。
璃初奈も心当たりがあったのか、何かを思い出したように「あー」と言った。
「気づかってるのかどうかは知らないけど……たしかに他の人とぶつかりそうになったら避けちゃってるかも。グループワークの話し合いとかでね。言ってることが正しいのはもみじの方でも、譲ってるイメージはあるかな」
「なるほどなぁ……」
「何よ。生徒会長に何か言われたの?」
「いや……まぁ……そんなとこ」
「ふぅん……そういえば何を話してたの? 生徒会長と」
思い出されるのは、入室した瞬間に出迎えてくれたケツと、圧倒的質量の胸で窒息しかけたことの2つくらい。
「あー……ま、まぁ普通に雑談だな!」
「顔、赤いわよ」
「雑談してると顔が赤くなるんだよ。緊張しいだからさ」
「よくそれで告白代行なんてしてるわね……」
「壁を越えることの連続だよ」
適当に誤魔化すと璃初奈も顔を赤くして自分のフライドポテトを手にした。
「じゃ、じゃあこれ……食べなさいよ。口開けて」
「なんで!?」
「かっ、壁を越えるのよ! 私に食べさせてもらっても顔を赤くしなかったらそれも成長でしょ!?」
「無茶苦茶な論理だな……」
「あ……あ、ああ後! 学期末テストも勉強会をするから! 一緒に勉強する準備をしておいて! 後……二人で話せるのは……まだ20分くらいあるから……い、色々話しましょ……」
ポテトを俺の顔の前まで持ってきた璃初奈が一気にまくし立てる。最後まで言い切ったところでポテトもへにょん、と垂れ下がった。
それを受け取って俺はポテトを自分で食べる。
「諸々了解」
笑顔でそう言うも、内心は「え? これはまさかそういうことなのか?」と心臓がバクバクし始めたのだった。
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