第9話
昼休み、食堂のテーブル席に一人で座って昼ご飯を食べていると京葉が目の前に座ってきた。
「大光さん、こんにちは。おっと……今日の大光さんのラッキーアイテムはトンカツです。うどんのトッピングにトンカツはいかがですか?」
「うどんにトンカツを載せてる人は見たことないな!?」
「人がしないことをするから価値があるんですよ。告白代行と同じです」
「理解はできないけど納得はさせられるな……」
「や、占いなんて結局は本人が納得できるかどうかだけですからね」
「やっぱり占い好きじゃないよな……?」
京葉の占い観は明らかに信じていない人のそれなので妙に気になるところではある。
「大光さん、そう言えばの質問です」
「なんだ?」
「彼女ができても代行は続けるんですか?」
京葉は自分の膝に手をおいて真剣な目で俺の方を見てきた。どう考えても『そういえば』なんてテンションの聞き方ではない。
「うーん……やめるんじゃないか? 相手が嫌がるだろ」
「逆に……嫌がらなければやめない?」
「案外需要があるみたいだしな」
「では提案です。私は嫌がりませんよ?」
「へぇ」
「反応が薄いですね。極薄です」
「そりゃ嫌がらないからって言う話と付き合うのは別だろ!?」
「む……それもそうですね」
京葉とのとりとめのない会話もなんだかんだで楽しいもの。そんな感じで雑談をしていると、俺の隣にもみじが座ってきた。すぐに手招きをして璃初奈が京葉の隣に座った。
「お二人さん、やっほ〜」
もみじは相変わらず陽気。璃初奈は良くも悪くも普通の表情だ。
「伝、瑞帆との恋人代行はどうだったの?」
璃初奈が座るなり尋ねてきた。
「まぁ……普通に終わったよ。何回もやるようなことじゃないから安心だよ」
「あら。そうなの? お祖父様はいたく気に入ったみたいよ? 『大光君をまた連れてきなさい』って毎日メールが来るの」
今度は瑞帆が俺の隣にやって来て会話に割り込んできた。
隣の空いている机を引っ張ってきて六人がけの広さに拡張しながら澄まし顔で「楽しかったわ」と呟くと、璃初奈が「はぁ?」と言った。
「楽しかったわよ。大光との恋人代行」
瑞帆は璃初奈を挑発するようにニヤリと笑う。
「わっ、私も次の週末に依頼しているから!」
「そう……けど残念ね。大光の代行は店じまいよ」
「そうなのか? 俺はそんなつもりはないぞ」
「貴方の意思じゃないわ。ま、私が依頼した百人告白の件もあるし校内で有名になりすぎたみたいね」
瑞帆が見せてきたのは1枚の張り紙の写真。
『今後、生徒間での代行行為を一切禁止する 生徒会長
どうやら俺は生徒会長に目をつけられてしまったらしい。
それにしても、何やら見覚えのある苗字だ。
「西京楓……西京さんの親戚か何か……だったりはしないよな?」
「うん。お姉ちゃんだよ」
「そうなの!?」
璃初奈以外の全員が驚く。
「有名な話なのに誰も知らなかったのね。美少女天才姉妹の楓ともみじ。二人共、学年トップの成績で、なおかつ可愛い」
璃初奈は自慢の友人だと言いたげに笑いながらもみじの頬を突いてそう言った。
「あはは……照れますなぁ。よく似てるって言われるんだよね」
「じゃあお姉さんもケツがデカいんですか?」
「京葉ちゃ〜ん、お姉さん『も』っていうのはどういうことかなぁ?」
もみじが微笑みながらも眉をピクピクとさせる。
「や、これも男子の間では大変有名な噂と聞いたことがありますよ。どうなんですか? 大光さん」
「俺に振らないでくれよ……一応、そんな噂はないからな……」
「よ、良かったぁ……」
「で、そのケツデカ生徒会長がなんで大光さんの代行ビジネスを禁止するんですか?」
京葉が相変わらずのクセ強な発言を繰り出す。
「京葉、それ聞かれたら終わりだぞ……」
「や、大丈夫です。今日の星座占いで1位だったので」
「根拠が弱すぎるな!?」
「伝、今のうちに依頼を消化しなさいよ。私宛の告白代行の依頼は来てないの?」
璃初奈が何故か俺を急かしてくる。
「来てないけど……むしろ良いんじゃないのか? 迷惑なだけだろ?」
「いやっ……ま、まぁ……い、一応楽しみにしてなくもなかったり……」
「直接告白してもらったらいいんじゃないか?」
「それじゃ意味ないじゃない」
「代行を通さないとダメなのか!?」
「うっ……いや……まぁ……」
璃初奈は顔を赤くして俯く。
「ほらほら、大光君。そんなに璃初奈をイジメないよ!」
もみじが俺の前に腕を伸ばしてきて遮る。
「別にイジメてるつもりはないけど……で、生徒会長はなんで代行を禁止にしたんだろうな。何か聞いてないか?」
「うーん……理由は知らないけどお姉ちゃんって真面目だから。私と違って。だから『こうあるべきだ!』って思ってるのかもね。告白一つとっても」
「西京さんも真面目だろ?」
「もみじでいいよ。ややこしいし。私は真面目を装ってるだけ。中身は不真面目だからね」
「不真面目で学年トップの成績を取られちゃたまんないよ……」
「あはは……まぁそれはそれとして。代行は辞めるの?」
「けど、理由も書かれてないからなぁ……こんな紙切れ1枚で納得はできないよな。もみじ、お姉さんと話したいんだけど紹介してくれるか?」
「あー……私、お姉ちゃんとあんまり仲が良くなくて……」
「じゃ、正面玄関から行くしかないか。代行業者の大光ですってさ」
俺が腹をくくってそう言うと、何故かもみじ以外の全員が手を挙げた。
「な……何?」
「や、代行がなくなると困るので」
京葉は真顔で箸を噛んだままそう言う。
「あっ……あたしもよ! 告白代行をまだまだしてもわらないと困る上にデート代行も頼んでるんだから」
璃初奈も顔を赤くしてそう言った。
「同じくね。恋人代行がなくなると困るの」
瑞帆はサラダに入っているミニトマトを箸で器用につまみながらそう言った。
「じゃ、皆の代行って立場で行ってくるわ」
「私は……特に伝えたいことはないから」
俺が冗談めかして言ったところに、やけにシリアスな表情でそんなことを呟いたのはもみじ。『あんまり仲良くない』どころか『仲が悪い』と言うほうが正しいんじゃないか、とすら思ってしまった。
◆
もみじの姉の楓さんと話すため、3年生の教室に向かうも吹奏楽部の部室にいると言われた。
吹奏楽部の部室に行くと体育館にいると言われ、体育館に行くと生徒会室にいると言われた。そんな感じで多忙を極める生徒会長を追いかけて生徒会室までたらい回しにされてやってきた生徒会室前。
ノックをするともみじに似た声で「あ、ちょちょ! 助けてぇ!」と聞こえた。
慌てて扉を開けると、目の前でソファの背もたれに身体が引っかかっている女子の下半身があった。
校則をきちんと守って一度も折り曲げていないであろう長めのスカートの絶対的防御力のおかげでパンツまでは見えずに済んでいるが、角度的には危うい。そして、色々とデカい。
どうにかして自力で起き上がろうと脚をバタバタさせているので下半身のどっしり具合がより目立っている。
「だ、誰かわからないけど助けてくださぁい!」
「た、助けるから動かないでくれますか!?」
俺の声を聞いたその人はピタッと動きを止めた。
ソファに近づき、落ちないように床で突っ張って支えていた腕と上半身を支えて起き上がらせ、ソファの上に戻す。
「ふぅ……どなたか知りませんが、ありがとうございます」
ソファの上で女の子座りをして上目遣いでお礼を述べたその人は、もみじの血縁とすぐに分かるくらいに顔が似ていた。違いはもみじよりも全体的に身体つきがふっくらしていることと、髪の毛をおろしていることくらい。
「えぇと……もみじさんのお姉さん……ですか?」
「はい。西京楓です。妹が何か?」
告白代行をやっている者です、と一発目から入ると警戒されそうなのでもみじの名前を出してみた。
俺はすぐにもみじの名前を出したことで失敗した、と気づく。
それくらいに楓さんの顔は険しくなった。
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