第4話
京葉とジェラートを食べに来たはずなのに、璃初奈と二人でテーブルに座っている。
チラッと京葉の方を見るともみじと二人でにこやかに手を振ってきたので、この状況を楽しんでいることは明らか。
当の璃初奈はジェラートを食べてはチラチラと俺の方を見てくるだけで何も話しかけてこない。
ちょうどそのタイミングで告白代行の依頼が入った。相手は璃初奈なので丁度いい。
「あのー……告白していい?」
「まっ、また!?」
璃初奈が驚いた様子で尋ねてくる。
「ま、こうなるのはモテてるの璃初奈も理由の一部ではあるんだけどな……」
「あら? 誰かが気楽に告白できる環境を作ってるからじゃないの?」
「気楽なもんか。三千円だぞ? 大金だろ」
「ま……そうね。聞くわ」
璃初奈は頬杖をついて気だるそうにしながらそう言った。
「『好きです。僕と付き合ってください』」
文面は依頼人からの指定。ただ、スマートフォンを片手に言うだけだと依頼人にも失礼になるため、璃初奈の目を見て伝える。
璃初奈は頬杖をついたままポカンとして前歯が見えるくらいに口を半開きにして固まった。
「は……はい……」
相手も伝えていないのに璃初奈は顔を赤くして頷いた。
「――と、3年2組の
「あっ……ううん! それはお断りね」
「じゃあ何に対する『はい』だったんだよ……」
「そっ、それは……さっ、錯覚と言うか……なんでもない!」
璃初奈は自分のジェラートを一気に口に運んだ。冷たいものを一気に食べたからなのか、直後に顔を歪めて手のひらで頭を何度か叩いている。
「うぅ〜……頭痛い……」
「何してんだか……」
「そ、そうやって毎回アンタに告白される私の身にもなってみなさいよ!」
「そこはなぁ……申し訳ないとは思ってるよ。迷惑かけちゃってるし」
「めっ、迷惑っていうか……ドキドキさせられ損っていうか……」
「ドキドキ?」
「なんでもないっ!」
璃初奈は顔を真っ赤にすると俺のジェラートまで奪い、一気に食べてしまった。
「あぁ! 俺のが……」
「顔が火照ってるの! 冷たいものを……うぅ……あだまいだい……」
璃初奈はまた頭を抑えて俯く。
「何してんだか……」
「大光、頭撫でなさいよ」
「なんで!?」
「あっ、頭撫でる代行!」
「自分でやればいいだろ……」
「いいから!」
璃初奈はそう言うと身を乗り出して俺の手を掴んで自分の頭に載せた。細い髪の毛の触り心地は絹のようで気持ちいい。
問題は、テーブル越しに身を乗り出しているので制服のシャツの胸元から谷間が見えていること。
必死に視線を上げてそっちを見ないようにする。
「りっ、璃初奈ってそりゃモテるよなって感じだな」
「そうかしら?」
「こんな距離の詰め方されたら男子はすぐ落ちそうだけどな」
璃初奈の頭に載せた手を動かしながらそう言う。
「こっ、これは誰にでもしてるわけじゃないわ」
「じゃ、俺と正反対だな」
「誰にでも告白してるビッチ君だものね」
俺に頭を撫でられながら璃初奈が笑ってそう言う。
「口が悪いぞ」
「親しい人にはこうなるのよ」
「じゃ、親には放送禁止用語の嵐だな」
冗談めかしてそう言ってにやりと笑う。
「何それ」
璃初奈も笑い、そこでやっと璃初奈は自分の席に戻っていったので彼女の頭から手が離れる。
その手をじっと見ていると璃初奈が「まだ撫でる代行したい?」と尋ねてきた。
「や、遠慮しておきます」
俺はボケのつもりで京葉の口調を真似る。
「あら? いつから私は京葉と話していたのかしら?」
璃初奈も乗ってくれる。こういうところはノリが良くて好きなところだと思えた。
そんなことを考えているとまたスマートフォンが連続して鳴動した。
新しい依頼人からのメッセージだ。差出人は三井瑞帆。同じクラスのお嬢様だ。
『男子100人に告白代行をお願いします。相手は誰でも構いません。告白文は全員一律で『付き合ってください』で構いません。前金の10万円です』
メッセージの直後、アプリの送金機能で本当に10万円が送られてきた。
一回3000円で受けているため、本当に百人に告白したらトータルで30万円。しかも、誰でもいいと来た。
理由のわからない依頼に首を傾げる。
「どうしたの? 依頼の告白文に読めない漢字でも混ざってた?」
通知が告白代行の依頼だと察した璃初奈が冗談めかして尋ねてくる。
「これでも漢字は得意なんだ。なぁ北洋さん。男子100人に手当たり次第告白する人ってどういう目的なんだと思う?」
「うーん……とりあえず彼氏が欲しい?」
「けどそれなら一人ずつでよくないか? 一気に百人って……」
「それだけその人にとっては彼氏を作ることが難しいと思ってるんじゃないの? よっぽどコンプレックスがあるとか」
「けど多分、そんなに難しくない人のはずなんだよな」
「知り合い?」
「ほとんど話したことはないけど」
「へぇ。誰なの?」
「守秘義務だからそれは言えないな」
「真面目なのね」
璃初奈は穏やかに微笑みながらそう言うと、何かを思いついたように悪戯っぽい笑みを浮かべた。
「ねぇ、大光。アンタ、もしかしてこれから百人の男子に告白するの?」
「そうなりかねないからなぁ……金を稼ぎすぎても親に怒られるしなぁ……先にちょっと話を聞いてみてもいいのかもな」
「そういえば代行っていくらなんだっけ?」
「一回三千円」
「じゃあ百人だと……えっ!? 30万円!?」
「そういうこと」
「そんな金額をポンと出せるなんて……じゃあ依頼人ってもしかして……」
璃初奈は何かを察したように小声になる。
「ま……俺からは何も言わないよ」
告白代行を初めてすぐに大口顧客が入ったのはいいものの、何やら面倒なことに巻き込まれてしまった気がしてならないのだった。
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