第47話 小休止。人生ゲームでもやろう。
まるで、ホテルのスイートルームのような客室の中、部長の手から二つの四方形が放たれた。
俺を含めた六人。部長、先輩、晶、砂橋はその行く末を見守っていた。……歌方さんは先程、自分の部屋に帰って寝てしまった。
「運命のっ!!! ダイスロォォォル!!」
机の上に置かれたお椀の中をを二つのサイコロが跳ね回わる。そして、導き出された結果は。
「卯花礼っ! 借金五十億っ!!!」
「なっ、なにぃ!!!???」
そ、そんな借金ど、どうやって返せば……。
俺は積もりに積もった約束手形を握り締め、歯噛みをした。
既に、ゲームは三分の一が終わったと言える。
「……人一人、三分の二くらいの人生でどうやって、五十億返せって言うんですかね」
俺たちがプレイしていたのは、『深き人生の闇と光』。そんな大袈裟な名前を付けられた人生ゲーム。砂橋が何処からともなく持ってきたゲームだ。
さて、このゲームが普通の人生ゲームに比べて何が違うのか、それは。
「一位の晶は合計収支プラス200億、先輩が続いて150億、部長が120億……って、こんなん勝てるわけなくないですか?」
桁がおかしすぎる。しかも、一度、大金を手にするとその金額は倍々に増え、一度借金を背負うと、それも倍々に増えていくという鬼畜仕様。……この世界には闇金しかないのか?
「くっくく。いいざまだな、卯花」
3位とは差が大きい代わりに俺とも大きな差がある、四位の砂橋が煽ってくる。
「くそぉ、こいつに煽られるなんて……」
借金五十億はあまりにも重すぎる。
「さーて、あたしの番だな! ルーレット! 回れぇ!」
ボードの中心についた回転式のルーレットを部長が勢いよく回転させた。
出た目は、六。
「えーと、このマスか。なになに? 事業が成功する十億円を手に入れる……うーん、微妙だなぁ」
「十億の何が不満なんだ!」
百億円を持っている人間にとっては、十億などほぼ無いようなものとでもいうのか!
「次は私の番ね。回すわ」
続いて、ルーレットを回したのは、先輩だ。
出た目は、八。
「……大手企業の買収に成功。以降1ターン毎に五億円を手に入れる」
「くっ! なんだそれはぁぁ!」
ルーレット回してるだけで、毎ターン五億円? こちとら3ターンごとに利息として、借金が膨れ上がっていくというのに。
このゲーム格差が酷すぎるだろ!
「ほら、次は礼。お前だぞ」
「おう、一発逆転ルーレットっ!!!」
そろそろ大分はまずい。借金だけでも返さなければ……。
出た目は。
「七! つまりはラッキーセブン!」
俺は小さな赤色のコマを進めて、辿り着いたマスには。
「来たぁぁぁぁ!! 令和の徳政令だぁ!!」
借金チャラ! 合法的踏み倒し!
これで、やっと俺の人生は始まりそうだ。
だが。
「おい、礼。間違ってるぞ、そっちは手持ちに十億以上持ってる奴だけがいけるルートだ、だからお前はこっち」
晶にぴっと指を差された。
「は?」
嘘、だろ? 俺は顔をボードへと近づけて確認を始める。
四マス前の分岐点。確かにそこには。
「大富豪への道or闇社会への裏道……だと?」
そう書かれていた。
「あー、残念だったな。卯花」
「礼君……」
部長と先輩は俺のぬか喜びを本気で不憫に感じたようで、それぞれ右肩と左肩を慰めるように撫でてきた。
「ぷーくすくす。何やってんだよ、卯花」
砂橋め、こいつだけには絶対負けたくない。
「それじゃ、こっちのルートですね」
俺は再び駒を持ち上げて、道を変える。
「……えーと、これは」
──美人局に引っ掛かる。三億の借金を追加。
「終わりや、このゲーム」
どうやって、勝てって、言うんだろうか。というか、美人局強すぎだろ。何処の世界に三億円巻き上げる美人局がいるんだ。
「礼……なんか、凄い納得だわ。お前らしいな」
「それはどうもありがとう。俺の借金を返してくれてもいいんだぞ?」
「いやだね」
「けっ、友達甲斐のないやつめ」
ゲームは続く。順位は変わらず、皆一様に手持ちを増やす。俺は逆に借金がぐんぐんと伸びてきた。
そして、事件が起こったのは、ゲームも終盤にさしかかった辺りだった。
俺のルーレットは4。だから、そのマスへと駒を進めていくと。
「結婚マス、ですね」
「「っ!?」」
声にならない驚愕に左右から挟み込まれた。
「う、卯花……だ、だ、だ、誰と結婚する、んだ? あたしか? あたしとしとくか? 借金返してやるぞ?」
「礼君。心の準備はいつでも出来ているわ。さあ、私と共に余生を歩みましょう?」
期待に満ち満ちた視線。いや、気まずい。どちらを選んでも地獄。そんな気がした。
「選べはしないみたいですよ? ここに書いてます」
晶がマスの注釈部分へと指をやる。
「えーと、結婚相手は自分より一つ上の順位のやつ、ですね」
つまりは。
「は、はぁ!? いやだぁ! 卯花と結婚なんて嫌だぁ!!」
絶叫する砂橋。
「……終わった。結局、お金をどれだけ持っていても、本物の愛は手に入らないって、ことか。はっはは。あたしの半生は、なんだったんだろうな」
え? 部長の瞳からハイライトが消えている。しかも、なんだがこの世の真実に気づいてしまったような果てしなく遠い目をしていた。
「え、ちょ」
そんなに? そんなになのか? ゲームだぞ? だが、正直、ちょっと嬉しい自分がいる。
「……」
「し、紫苑先輩? ど、どうしました? さっきからずっと押し黙ってますけど……」
その目は虚というか、なんというか。
「──死ぬわ」
「え!? ちょっと! 先輩っ!!」
もはやゲームどころではない状況になって、途中で中止となった。
まあ、そのおかげで負けずに済んだとは言えるが、動揺した先輩と部長の機嫌を取り戻すのには、その後三時間ほどかかったのだった。
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