秋の男
夢ノ命
第1話 生が死を越えるうるような生き方を
秋の夜に聞こえてくる草むらの小さな虫たちの鳴き声が、何という安らぎだろうと彼には思えるのだった。
彼は近頃、よく蝉や蜻蛉の亡骸(なきがら)を地べたにちょいちょい目にした。そんな虫たちの生の残骸が、自分の行き着く先が死であることを、秋の夜長のように、彼に深く認識させたりした。
けれどもそういう死の存在が、先の見通せる死が、より生を活かしているのだということを彼は疑わなかった。
彼はいつだって、今を懸命に生きることができるのは、死が関係しているからだと感じていた。そして、やっぱり、本気になって人を愛したり、自然なんぞを美しいと思ったりするのも、死との関係によってだと。
彼は一つの死が、自分に与えられているということは、それは自分の生への贈り物のような気がしてならない。それがなければ、彼は今頃、放蕩(ほうとう)に身を任せきっていただろう。
そうして、闇雲に、死や死に方には嘘がないだけに、それを受け入れるためには、自分の生が死を越えるうるような生き方を、嫌でもしていなければなりますまい……
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