第43話 セレブ老婆からの依頼
「本当なら直接あってお話するべきなんですけど、少々外せない用事があって通信でごめんなさいね」
「いえいえ、お気になさらず。ところで今回のお仕事は?」
以前贋作師を探す依頼をしたセレブの老婆からまた仕事を頼みたいとフィクサーの九時五時を通して依頼されたルイ達。
話を聞くためにセレブの老婆と
「実はね、遠くから買い寄せた美術品を運んでいたキャラバンが盗賊に襲われてね。それを取り戻して欲しいの」
「そう言うのは保険か警備企業に回す仕事では?」
セレブの老婆はがっかりした様子でため息をついて依頼内容を話してくる。
老婆ほどのハイソなセレブならばそう言った保険などをしているはずだとルイは指摘する。
「それがね、ウェストランドでの事故は対象外だとか、特別保証契約すれば即座に取り戻すとか言ってて」
「あー………」
どうやら老婆は保険をかけていたが、保険会社が小銭稼ぎにあれこれ理由を着けて自前の
「このままだと強奪された美術品は何処かに流されてしまうわ。そこで九時五時さんからまた貴方達を頼ってはと言われてね」
「まあ、報酬にもよりますけど」
「報酬は全体で十万ネオエン、経費はよほどめちゃくちゃなものでもない限りはこちらが見ますわ」
セレブの老婆からの依頼を受けてルイは一緒にいるアステリオスとリコリスに視線を向ければ、二人は報酬額には不満がないのか頷く。
「引き受けましょう」
「そうそう、こちらからも人員と車を回します」
ルイ達が依頼を引き受ける旨を伝えると、老婆から座標データが送られる。
そこに人員と美術品を運搬する車両がまっているのだろう。
「仕事終えたらまたご飯食わせてもらえないかな~?」
「あー、また天然物飲みたくなってきたな」
「それは働き次第だろう。あれが言ってた人員と車か?」
指定された座標に向かうと、そこには黒服達の集団と荒れ地でも可能な限り振動を抑える大型トレーラーが停車していた。
黒服集団の中に、ファンタジーゲームに出てくるような白い鎧を着た女性がいた。
「ウッソだろ! あれコンバットスーツじゃねーか!」
白い鎧を見たアステリオスが驚いた顔で鎧の女性を指差す。
コンバットスーツとは着るサイボーグといわれる戦闘強化服のことで、
「皆様がお婆様の依頼を受けたエクスプローラーですか?」
鎧を着た少女がルイ達の姿に気づくと小走りして近寄り、笑顔で挨拶する。
「ああ、今回の依頼を受けたルイだ。こっちがアステリオス、彼女がリコリスだ」
「私のことは………えーっと、なんだっけ?」
「エーデルワイスです、お嬢様」
ルイが自己紹介すると、鎧を着た少女は事前に決めていた偽名を名乗ろうとしたが、忘れており、近くの黒服が耳打ちするように事前に決めていた偽名を伝える。
「ああ、そうだった! エーデルワイスと呼んでください! それでは詳しい内容は車の中でお話しします!」
エーデルワイスと名乗った少女はそう言うとトレーラーに牽引されているカーゴの一つに搭乗する。
「トレーラーハウスか」
「どうぞお座りください!」
ルイ達が後に続くようにカーゴの中に入ると、カーゴ内は豪華な部屋が整えられていた。
「それでは今回の作戦ですが、盗まれたお婆様の美術品の奪還です。敵は三十人前後のレイダー、装備は殆どが軽銃火器ですが、トラックがすべてテクニカルに改装されています」
エーデルワイスと名乗った少女は、ルイ達が席に座ると依頼内容を改めて話す。
黒服達は黒子に徹したように無言で、お茶菓子などを用意している。
「飛行用ドローンで上空から偵察した限りでは、レイダー達はこのビル廃墟に引きこもっていま………あ、いま追加情報が来ました、奪った美術品を自分達の車に移し代えてるようです。何処かに売りさばく予定でしょうか」
エーデルワイスは会話途中に通信が入ったのか、追加情報と共に
「なにか質問はありますか?」
「ならご無礼を承知の上で一つだけ、貴方は我々の監視役ですか?」
「いいえ、お婆様からはお手伝いと、今後エクスプローラーとの付き合いを学びなさいと言われてるだけです」
ルイが質問すると、エーデルワイスはにっこり笑って手伝いだと答える。
(あのお婆さんの孫で、
ルイはエーデルワイスの答えを聞いて予測をたてる。
「手伝いと言うことは指示系統は?」
「死んでこいとか無茶なことでなければ、可能な限りそちらに従います。そちらも下手な恨みとか困りますでしょう?」
「こちらからは以上ですね」
「では出発しましょう」
質問を終えると、エーデルワイスは黒服に合図してトレーラーを発進させる。
(このトレーラーもいいな)
発進したはずなのに揺れは全くなく、窓から見える風景を見なければ出発したとは思えない快適さだった。
「申し訳ありませんが、帰りの足の安全の為、拠点から1Km離れた地点で降ろさせていただきます。信号弾を上げていただければ五分でお迎えに上がりますので」
出発してから二時間弱ほど経った頃、運転していた黒服から目的地近くに到着したことを知らされる。
「ここからは歩きです」
トレーラーから降りて更に一時間歩くと、レイダー達が引きこもる廃墟ビルが見えてくる。
「うーん………見事に遮蔽物がないな………」
レイダー達が引きこもる拠点の周囲は平坦な荒野で、遮蔽物になるものはなにもない。
「ルイ~、地雷反応が所々あるよ~」
リコリスが軽く周辺をサーチして地雷を見つけ、地図に表示していく。
「凄いですね………」
エーデルワイスはあっという間に地雷を発見したリコリスを見て驚いた顔になる。
「隠れる場所なし、屋上には見張りが数人と銃機関銃が一門、普通には近づけないな」
「当たらないように避けたり、斬ったりして近づけばいいのでは?」
「………それ出きるの、たぶん貴方だけです」
ルイ達がどうやって近づこうか作戦を考えてると、エーデルワイスがさも当然と言う顔で無茶苦茶なことを言ってくる。
「ちょっと疲れるが、こいつで行くか。
「今魔法を使ったのですか?」
「一時的に外部からは姿が見えなくなる魔法です。維持にかなり精神を使うので、すぐに移動します」
ルイが十字架を握って魔法を唱えると不可視の球体がルイ達を包み、外部からは機械を介してもルイ達の姿が見えなくなった。
「なるほど、魔法は便利ですね。軍部門でもウィザードの確保は早急と言ってた意味も今ならわかります」
リコリスが発見した地雷を避けながら廃墟ビルに近づいていく途中、エーデルワイスは感心したように呟く。
正面入口を避けてビルの裏に回ると、かつては地下駐車場だったと思われる入口が見える。
「シャッターが閉まってますね」
「僕に任せて~!」
リコリスがシャッターを制御するコンピューターをハッキングしてシャッターを開けさせる。
「へ?」
「え?」
シャッターが開くと、地下駐車場にいた見張り達がきょとんとした顔でこちらを見ていた。
「こんにちは、死ね!」
「ハッ!」
アステリオスが強化反射神経装置を起動してレイダー三人をヘビーピストルで撃ち殺す。
同じく強化反射神経装置を起動したエーデルワイスがアステリオスの脇を抜けて剣を抜刀し、残りのレイダーを瞬きする間も与えずに両断する。
(凄いな、返り血一滴も浴びてない)
瞬時に複数のレイダーを両断したと言うのに、エーデルワイスの白い鎧にも顔にも一滴も血はついておらず、剣を振って血を払う。
その姿を見たルイはエーデルワイスに感嘆の賛辞を心の中で送る。
「駐車場にいたのはこれだけみたいだな」
「んじゃ、気づかれる前に荷物回収して帰るか」
「あ、このトラックに荷物が運ばれてるよ」
地下駐車場にいたレイダー達を片付けたルイ達は目当ての盗まれた美術品が積載されたトラックを見つける。
「なんだ今の銃声は!」
「地下のガレージからです!」
上の階が騒がしくなり、大人数が階段をかけ下りてくる音が響いてくる。
「あ、サイレンサーつけとくんだったな」
「ドンマイ! エンジンかかったよー!」
アステリオスがパシッと自分の頭を叩いて失敗に気づく。
リコリスがハッキング能力を使ってトラックのロックを解除してエンジンを起動する。
「ルイ、なにやってんだ?」
「ちょいとご挨拶がわりの置き土産をねっ!」
エーデルワイスとアステリオスがトラックの荷台に飛び乗るが、ルイは残りの車両に
「まちやがれっ! この泥棒がっ!!」
「お前にだけは言われたくない」
地下駐車場に到着したレイダー達が、ルイ達を乗せて走り去るトラックに向かって銃を射ちながら叫ぶ。
ルイ達も応戦しながら叫び返して、レイダーの拠点から去っていく。
「畜生! 追え追えっ! あれを持っていかれると飯の食い上げだぞ!」
レイダー達は追いかけようと残っていたトラックに乗り込んでいく。
「よしっ! おいか───」
追いかけるぞとレイダーが言いきる前にトラックが爆発する。
ルイが仕掛けた
「おいおい、ビルが崩れてくぞ」
「あー………基盤でもやったか?」
荷台から外の様子を見ていたアステリオスがあきれた顔で倒壊していくビルを指差す。
元々経年劣化などで脆かった所に地下駐車場で数台のトラックが同時に爆発したことで、辛うじて建っていた支えすら破壊されてビルは倒壊していった。
「なるほど、これがエクスプローラーのやり方なんですね!」
「「いや、違うから!」」
その様子を見ていたエーデルワイスが納得したように手を叩き、アステリオスとルイが異口同音で違うとつっこんだ。
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