第27話 ブラックドック狩り2


 共同体タウンの裏山に出没するブラックドック退治を受けたルイ達は共同体タウン代表者のタウロの案内で裏山へと向かう。


 裏山も鬱蒼と木々が生い茂り、ネオトウキョウでは映像やバーチャルでしか見たことがない自然に、依頼を受けたエクスプローラー達が色めきざわめく。


「私達も早く行かないと」

「少し落ち着け」


ルイ達以外のエクスプローラーは武器を手に散開していく。

 それを見た京子が焦ったように獲物を取られないように早く動こうと提案するが、ルイ達は動かない。


「初めての場所で闇雲に徘徊したらすぐに迷子になるぞ。それにある程度あいつらとは離れないと誤射や横殴りして、いちゃもんつけてくるぞ」

「えっと、こういう時はまずは地形と現在地の確認ですよね?」


 ルイは自分達がすぐ動かない理由を述べると、真里花が手を上げてやるべき行動を言い、リコリスとはカラーリングの違うパトローラーを起動する。


「その通りだ。ちゃんと勉強しているようだな」

「はいっ!」

「むう………」


 ルイが真里花を誉めると、真里花は嬉しそうにはにかみ、京子がその様子を見て不満そうにほほを膨らます。


「モンスターハンティングのコツの一つは地形の把握と対象モンスターの生態や痕跡の把握だ。京子、ブラックドックの特性は?」

「えっ!? ええっと! 最低でも五匹前後の群れで活動しており、攻撃方法は牙と爪、連携を得意とする?」


 ルイが京子に話を振ると、京子は質問されると思わなかったのか、慌ててARO強化マトリクスを起動してブラックドックのデータを読み上げる。


ARO強化マトリクスがあれば何時てもデータを参照できるが、出来れば頭に入れてくれ。ダンジョンによってはARO強化マトリクスなど機械が作動しない場合もある」

「あ、うん」


 ルイがそう言うと、京子はシュンとなる。


「ちゃんとデータを落としてるのはよかったぞ。今移動した奴らは下手するとデータすら頭に入れてない可能性がある」

「そうなんですか?」


 ルイは京子の態度を見て少し困ったような顔をして誉めようとすると、京子が聞き返す。


「ブラックドックは最低でも五匹前後の群れで活動するが、今山奥に入っていった奴らはソロだったり、少人数だっただろ?」

「あ、そういえばそうですね。それだけ自信があるのでしょうか?」


 アステリオスが先ほどエクスプローラーの集団が山奥に向かった先を指差しながら缶ビールを飲む。

 真里花はアステリオスの指摘を聞いて、エクスプローラー達が移動した方向を見ながらそんなことを言う。


「うーん、僕は逆かな~? 初めての場所なのに地形把握もせずに皆が動くからついていった感じだよ」

「大丈夫なの、それ?」

「最終的には自己責任だ。それよりも、俺達も出発するぞ」


 ルイ達は先行したエクスプローラー達とある程度距離をとり、ドローンから得られる周辺地域情報を確認しながら山奥に進んでいく。


「まずはブラックドックの痕跡を探す。ブラックドックの体高は約六十cm、見た目反して重さは百キロを越える。その高さの位置で枝が折れていたり、その重さの深みがある足跡などを探す」

「ええっと、マトリクスで調べたら糞とか水場も痕跡を探すのにいいって書いてるけど」


 ルイが中腰になってブラックドックの痕跡を探す方法を真里花と京子にレクチャーすると、京子がマトリクスで調べたことを口にする。


「普通の野生動物ならそれもありだが、ブラックドックなどダンジョンモンスターはなぜか糞便をしない。だが水は飲むし食事もするので水場探しは悪くない」

「老廃物とかはどうしてるんでしょうか?」


 京子の提案をルイが誉めると、真里花が疑問に思ったのかモンスターの排泄について聞く。


「そこら辺はモンスター学の偉いさんが言うには体内の魔石に全て吸収されてるらしい」

「だからエネルギー資源として使えるのかな?」


 そんなことを話しているとルイが急に立ち止まり、ARO強化マトリクス上にテキストチャットで【止まれ】【前方二時方向にブラックドック、数五】とテキストを打ち込んでいく。


 京子と真里花の二人は緊張し唾を飲んでホルスターの銃に手を添える。

 ルイが言った方向には確かに漆黒のような毛並みに血のような瞳のピットブルのような大型犬が五匹ほどの群れで徘徊していた。


【真里花、ドローンで指示した方向に釣ってくれ。残りは合図があるまで武器を構えて待機】

【了解です】

【わかった】

【あいよ】

【御意ー!】


 ルイの指示に従って真里花が飛行ドローンのパトローラーを操作する。


 ブラックドックはあまり頭が良くなく、音を出して動くものに過剰に反応する特性がある。


 今回のブラックドック達も真里花が操作するパトローラーに反応して吠えて追いかけていく。



「射てっ!」


 ルイの号令と共にブラックドックの横から不意打ちを行い、山に銃声が響き渡る。


 ブラックドックは正面から一対一で戦えば危険だが、防御力が低く対モンスター用の魔石弾を使えば、真里花や京子の22口径のスモールピストルでも致命傷を与えることが出来る。


 耐久と防御力の低さ、しっかりとチームを組んで防具を固めれば致命傷を受けないことから討伐難易度がFランク認定を受けている。

 

「ギャン!?」

「キャイン!?」


 無防備に横腹に銃撃を受けたブラックドック達は断末魔を上げて倒れていく。


「やった! 私初めてモンスターを倒した!」

「わっ………私本当に倒せたんですか!?」


 真里花と京子は初めてモンスターを倒せたことに興奮しており、二人で抱き合って喜び会う。


「おめでとう、これで立派なエクスプローラーだな」

「ちゃんと訓練を続けていた成果だ」

「いえーい!」


 ルイ達は抱き合って喜ぶ真里花と京子を祝福する。


「喜ぶのはいいが、まだ仕事は終わってないぞ。まずは周囲警戒と残弾管理、それから魔石回収」

「あ、はい」

「そうだったね」


 ルイが注意を促して真里花と京子は慌ててドローンで周囲を警戒したり、自分が射った銃の残弾を確認する。


「あれ、ルイさん魔石以外が落ちてますけど………」

「そいつはマテリアルドロップだな。Fランクでは珍しいな」


 荷物運び用のカーゴドローンを連れてブラックドックの魔石を回収していた真里花が、動物の牙を拾いルイに見せる。


「マテリアルドロップと言うと、確かモンスターから手に入る物的素材だっけ?」


 京子がエクスプローラーの勉強で得た知識を思い出しながらマテリアルドロップについてルイに確認をとる。


「ああ、低確率で討伐したモンスターの生体部位や持っていた武器防具など色々な物が手に入る。臨時収入になるぞ」

「えっ? じゃあこれで私もお金持ちにっ!?」

「えーっと京子ちゃん、今相場調べたらそれ五十ネオエンだって」


 ルイが答えると、京子は目を銭マークにして皮算用を始めようとするが、真里花が申し訳なさそうに京子を突っついて牙の相場を伝える。


「えっ………そんな安いの?」

「まあFランクのモンスターだからな。D以上ならモンスターにもよるけど千ネオエン単位もある」

「えー、百万ネオエンとかでっかいのないのー?」

「そう言うのは最低でもB以上だぞ。ふてくされてないで仕事続けるぞ」


 値段を聞いた京子はがっかりしたようにその場にしゃがみこんで、ぶつぶついいながら草を抜く。

 ルイは苦笑しながら京子の肩を叩いて出発を促す。


 探索を再開し、ブラックドックの痕跡を探して山を進んでいくルイ達。


「ふう………ふう……」

「そろそろ休憩するぞ」

「んっ……ふういえ、まだ大丈夫です」


 体力に問題のある真里花がしんどそうに荒い息を繰り返して必死についてくるのに気づいたルイは休憩をとろうとするが、水筒で喉を潤した真里花はまだ行けると主張する。


「まだ行けるは危険のサインだ。休めるうちに休むのもエクスプローラーの仕事だ」

「………はい」


 だがルイは首を横に振って真里花に休むように言い聞かせると、真里花は少し悩んで返事をする。

 

「一人で全部こなす必要はないんだ。最悪騎乗用のドローンとか用意するとか方法はあるぞ」

「最初から全部出来る人なんていないよ~、僕だっていっぱい稼いで今みたいに装備整えてチームに貢献してるんだから~」

「ありがとうございます」


 アステリオスやリコリスの言葉を聞いて、真里花は少し嬉しそうな顔をする。


「ちっ………呼びもしてないお客さんだ」


 さあ、これから休もうとルイ達が休憩の準備を始めようとすると、がさがさと草木を掻き分ける音が聞こえてきて、ルイはイライラしたように舌打ちをした。

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