第25話 真里花と京子、二人の決意


「ルイさん、この度は本当にありがとうございます」

「貴方は俺達の仕事に協力して会社の情報を渡してくれた。エクスプローラー界隈は仕事には代価を払うのが不文律みたいなものだ」


 山本からの仕事を終えた数日後、ルイは真里花達の家にやってきていた。

 山本はルイとの約束を守り、真里花の父親やデイルシステムズで働いていた社員のほとんどを自分の系列企業に受け入れてくれた。

 魔力病を患った勇樹も山本の提携病院で治療を受けられる。


「本日はどのようなご用件で?」

「真里花と京子に改めて話をしたいと思ってな」

「私達と?」

「何? デートのお誘いとか?」


 真里花の父親がルイに用件を聞くと、ルイは近くにいた真里花と京子を呼ぶ。

 真里花は何を言われるのか不安そうに、京子は軽い冗談を言って場を和まそうとする。


「改めて二人はエクスプローラーになりたいか聞きたくてな」

「え?」

「それならなりたいって答えたじゃん」


 ルイがもう一度エクスプローラーになりたいかと聞くと、真里花と京子の二人はなると決めたのに何でまた聞くのか疑問に思った。


「それは真里花のお父さんが仕事を失って一家離散の危機からだろう? だが今は無事再就職もできたし、勇樹君も治療を受けられる環境に変わった。もう君達が命を張る理由はない」


 ルイが理由を説明すると、真里花と京子はお互いの顔を見合う。


 真里花の父親は顔には出さないが、なにか言いたいのをぐっと堪えてコーヒカップを握りしめてるのがルイにはわかった。


「いいえ、まだ命を張る理由はあります」

「そうだね、だからエクスプローラーになるために力を貸してください」

「その理由は?」


 真里花と京子はお互いにアイコンタクトで意志疎通でもしたのか、こくりと頷くとルイに向かって頭を下げる。


「確かに家庭環境はよくなりましたが、解決には至っておりません」

「そうだね、勇樹は治療を受けられるけど、完治させるには治療薬が必要だもんね」


 ルイは黙って真里花と京子の話を聞く。


「勇樹はあくまで症状が悪化する心配が無くなっただけ。治療薬は普通に暮らしていたら絶対に届かない」

「私達が勇樹のために治療薬を手に入れる! 駄目だったとしてもいっぱい稼いで市場に出た時に買えるチャンスを増やす!」

「「だからルイさん、改めて私達をエクスプローラーにしてください!」」


 真里花は真剣な表情で、京子はルイに顔を近づけて嘆願してくる。


 ルイはちらりと真里花の父親をみると、親としては反対したいが二人の覚悟、治療薬の希少性、親としての不甲斐なさ、様々な感情がぐちゃぐちゃに混じったような臍を噛む顔をしていた。


「死なない死なせないために厳しくいくぞ」

「はっ、はい!」

「頑張る!」


 ルイはため息を付いて二人を受け入れる。

 真里花の父親はなにも発言すること無く、ただ深々と頭を下げていた。


「それじゃあ、午後から早速訓練を始めようか。二人とも運動しやすい格好に着替えておけ」

「え、もうですか?」

「明日からだと思ってた」


 ルイが早速訓練を始めると言うと、真里花と京子の二人はびっくりする。


「仕事を受ける前から訓練メニューは考えていたからな。そんな警戒するな、簡単な走り込みで二人の体力を図るだけだ」

「わかりました」

「運動部に所属してるから体力には自信があるよ!」


 ルイが訓練メニューを伝えると、体力には自信がない真里花は緊張した面持ちで答え、逆に京子は自信満々に答える。


 昼食を終えてルイ達はネオトウキョウの比較的治安のいいマラソンコースにやってくる。


「いつもと違う服装だとイメージも変わりますね」

「うんうん、自主トレしてるスポーツマンみたい」


 真里花と京子はルイの服装を見てそんなことを言う。

 因みに真里花と京子は自分達が通う学校指定の体操服だ。


「さすがに何時もの服装で走ってたらこのエリアじゃ職質される」


 ルイは何時ものカソックコートではなく、スポーツウェア姿だった。


「うわぁ、ルイさん体柔らかいですね」

「うううー!!」

「お前はもう少し柔らかくしようか。今のままだと余計な怪我を負いそうだ」


 走る前のストレッチとして柔軟運動を始めるルイ達。

 ルイの体は柔らかく、180°開脚して胸を地面に付けることが出きる。

 そんな体の柔らかさに驚いている京子も柔らかい方だが、ルイが苦笑するほど真里花は体が固かった。


「お前らの体力を調べるために徐々にスピードあげていくから、限界近くになったら申告するように。決して無理はするなよ」

「そこは走れない奴は死ぬだけだとか言わないの?」


 ルイが注意事項を知らせると、京子は映画か何かで見たキャラの真似をする。


「そのための基礎体力作りだ。潰れる前提のスパルタで付いてくる奴だけ育てる訳じゃない。始めるぞ」


 ルイはそう言って走り始める。

 まずは体を暖めるため程度の速度で走り、二人のフォームを確認する。


 京子は運動部だけあって走り方も綺麗だ。

 真里花はインドア依りなせいか、走る姿勢に所々気になる箇所があるが、ルイはこれから修正していけばいいかと考え走り続ける。


(そろそろペースあげるか)


 300メートル走った所でルイは速度をあげる。

 京子は楽々と付いてくるが、真里花は少しぎょっとした顔になる。


 1キロ過ぎた時点でルイは更にペースアップ。

 京子も少し息が上がってきたがまだ付いてきている。

 真里花はかなりしんどそうだったがまだ目は諦めていないように見えてルイはなにも言わず走り続ける。


 2キロを越えた時点で真里花は息も絶え絶えになり、走ったり歩いたりを繰り返す。

 ルイはARO強化マトリクスで真里花に無理をするなとメッセージを送ると更にペースをあげる。

 京子はまだ速度が上がるの!?と言いたげな顔をして驚いていたが、意地でもついていこうとするが………2キロ半の時点でリタイアとなった。


「はぁ………はぁ………な、何であれだけ走って………息が切れてないの?」


 フラフラになりながらルイに追い付いた京子が息も絶え絶えに喋る。


「エクスプローラーは体力が資本だからな。ほれ」

「わぷっ!?」


 ルイはスポーツドリンクのペットボトルを京子に投げると、京子は喉を鳴らす勢いで飲み始める。


「真里花と合流したらマーケットにいくぞ」

「んぐっ………ん、うん」


 息も絶え絶えにへたりこんでた真里花を回収し、一度シャワーを浴びて着替えた一行はエクスプローラーが利用するノーマルマーケットへと向かう。


 ルイ達が向かったノーマルマーケットはセクター11/10にあり、広い店内にはARO強化マトリクスで展示された銃器や防具が所狭しと並べられている。


「よう友達チューマー、可愛い女の子達を連れてデートするには場違いじゃねえか?」


 マーケット内を歩いていると、以前ルイに仕事を回したフィクサーのトニー竹山が声をかけてくる。


「そんなんじゃない。俺が面倒をみることになった新米エクスプローラーだ」

「初めまして、真里花と申します」

「こんにちわ! 京子です!!」

「お、おう………このマーケットのオーナーやってるトニー竹山だ。と言うかエクスプローラーするより娼婦の方が安全で儲かるぞ?」


 ルイが二人を紹介すると、トニーはサングラスをずらして真里花と京子を確認すると心配そうな顔で話しかける。


「彼女達からすると体を売るよりはエクスプローラーの方がマシだそうだ」

「何か事情があるんだろうがやめといた方がいいぞ。有象無象の糞虫どもに犯されてモンスターのエサにされるのが関の山だ」


 トニーが二人にエクスプローラーをやめるように苦言を漏らすと、二人は苦笑する。


「俺らがわって入らなければ実際そうなりかけたな。それでもエクスプローラーとしてやり遂げたいことがあるそうだ」

「エクスプローラーは自己責任とは言うが………まあ友達チューマーが面倒みるなら大丈夫か」


 ルイが二人と出会った状況をぼかして説明するとトニーは自分の頭を撫でながらルイと真里花と京子の二人を見てため息をつく。


「取りあえず買い物に来たのだろ? ご注文は?」

「22口径、グリップが痩せててリコイルがマイルドな奴」

「ならこれだな。22口径でシングルカラム コンペンセイター内蔵で超小型コンシールドキャリー向けでアンダーレイルも標準装備のスモールピストル、一丁百ネオエンだ」


 ルイが注文すると、トニーはARO強化マトリクスを操作して三人の目の前にホログラムの銃を一丁表示させる。


「二人とも握ってみろ。片手で握って人差し指と親指がつくか?」

「あ、はいちょっとしんどいかも?」

「私は大丈夫!」


 ルイに促されて真里花と京子はホログラムの銃を握る。

 ARO強化マトリクス上の銃はホログラム映像でありながら質感や重量を感じさせることが出来る。


 京子はグリップを問題なく握れるが、真里花は手が小さいのか握るのに苦労している。


「なら嬢ちゃんのはラバーグリップに換装しておくか」

「ついでに射撃補正装置スマートリンクを銃に、それ用のサイバーゴーグルを」

「おん? どうせならサイバーアイに換装させねえのか?」


 真里花のグリップの握りを見ていたトニーはARO強化マトリクスを操作してラバーグリップに換装させる。

 ルイがアタッチメントの話をするとトニーはサイバーアイの話をする。


「二人はまだ十五だ。二十歳までは機械はいれたくない」

「あー、ミスティックに覚醒する可能性があるな」


 ルイはトニーに真里花と京子の年齢を伝えると、トニーはスキンヘッドの頭を叩きながら納得する。


 ルイとトニーが言っていたように、ミスティックは十五歳から二十歳までの間に覚醒することが多く、サイバーパーツをいれていると覚醒を妨げると信じられてる。


 実際ミスティックに覚醒後にサイバーパーツをインストールすると能力が低下した実例もあり、ミスティックに覚醒することを望む人達は二十歳までいれなかったりする。


「ルイさん、どうしてこの銃を持たせたんです?」

「どうせならあのアサルトライフルとかがよくない?」


 22口径のスモールピストルを持ってた真里花と京子が話しかける。

 京子に至っては近くに展示してあったアサルトライフルを指差す。


「リコイルを押さえるだけの体ができてないから却下だ。あとちゃんとした知識を持たずに射てば自分だけじゃなく他人も巻き添えにするぞ」

「ルイの言う通りだぜ、子猫キティちゃん。昔素人がアサルトライフルぶっぱなして、反動で倒れた時に引き金を引いた手を離さなかった為に銃を乱射することになって、ブラッドバスを作ったなんて事故もあるんだ」

「………これにしておきます」


 ルイがスモールピストルを選んだ理由を、トニーがARO強化マトリクスに過去に起きた事故のニュースを表示させると、京子は顔を青くさせる。


「あとはタクティカルベストを頼む」

「プレートレベルは低めにしておくか? 重たいのはしんどいだろ?」


 ルイはトニーの店で真里花と京子の装備を購入すると、訓練メニューを伝えてその日は解散した。




 


 


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