第17話 帰らずのダンジョン
「未帰還が多数出てるダンジョンの調査?」
いつものようにエクスプローラーギルドで仕事を探しにきたルイ達は、珍しくAIではないギルド職員から仕事を持ちかけられていた。
「ええ、Dランクのロックタイプのダンジョンなんだけど、四組ほど死亡判定が出ているのよ」
ギルドの女性職員はそう言ってルイ達の
「ロックダンジョンって、ダンジョンにエクスプローラーが潜ると、ダンジョンをクリアするか、エクスプローラーが全滅するまで出ることも入ることもできないダンジョンだよね?」
アーニャはマトリクスでロックダンジョンについて検索したのか、
「はい、それであっています」
「それでどうするんだ、ルイ?」
ギルドの女性職員はアーニャに微笑みながら肯定し、アステリオスはいつものように缶ビールを飲みながら仕事を受けるかルイに聞く。
「最近いい車が販売されてな、金が必要だ。受けるよ」
ルイはそう言ってロックダンジョンの調査に向かう。
「ギルド側から死亡判定を受けてるエクスプローラーチームの情報貰ったが、一番最初のEランクは別として、残りの三組はクリアできそうな水準だな」
バギーの後部座席で缶ビール片手に
「ロックダンジョンだとダンジョン内の情報がわからないからねー」
アーニャが言うように、一般的なダンジョンならドローンや斥候にダンジョンを探索させて内部情報を手に入れることが出来る。
だがロックダンジョンはクリアするか、全滅するかのどちらかで事前にダンジョン内部の情報を得ることができない。
「その為にアステリオスのとっておき持ってきて貰ったのだろ」
ルイはバックミラー越しにバギーの荷台に視線を向ける。
バックミラー越しに見える荷台にはこれでもかと様々な銃火器や弾薬箱などが載せられている。
「しかしまあ、こいつがばれなくてよかったな」
ルイはそう言って座席下の床を叩く。
そこはシークレットトランクが仕掛けられており、トランクの中にはルイ達の現段階のランクでは購入所持許可が許されてない
「あれだな、車ごと突っ込むぞ」
「あいよっ!」
「いえーい、ジェットコースター!!」
ルイがアクセルを踏むと、アステリオスとアーニャは車内に取り付けられた取っ手を握りしめて衝撃に備える。
バギーがダンジョンに突っ込み、ゲートを潜り抜けると、そこは地平線の彼方まで西洋風の墓標が広がる黄昏時の墓場だった。
「墓場タイプのダンジョンか………こりゃアンデッド系が多そうだな」
「あ、あれみて! クエストウィンドが表記されてるよ」
「うへ、ロックのうえにクエストタイプかよ………」
無数の墓石を破壊しながらバギーが止まり、車内から外の様子を伺うルイ達。
アーニゃが指差す方向には
「ダンジョン名は嘆きの墓場、クリア条件はウェーブを朝まで生き延びろか………」
ダンジョンは基本ダンジョンボスか、ダンジョンコアを破壊するとクリアできる。
が、今回のようにダンジョン側からクエストと言うお題が提示され、そのクエストを解決しないとダンジョンクリアにならないタイプもある。
「日が暮れるまでの時間が準備時間と言ったところか。各自バギーを中心に展開」
「おう!」
「御意ー!」
ルイはバギーを中心に四方に支柱を建てて結界の準備を始める。
「へへ、やっとこさこいつを使う時がきたな」
アステリオスはシークレットトランクルームから軍用重アサルトライフルを取り出し、銃身にキスをする。
「パトローラー、ドーベルマン、起動!」
アーニャはいつものようにドローンを起動させ、迎撃体制をとる。
「結界を張った、これで少しは楽になるはずだ」
「あとはクエストのウェーブを生き延びるだけだな」
「どんとこーい!!」
ルイ達が準備を負える頃には日が暮れて夜の帳が降りてくる。
同時に霧が立ち込めて、気温が下がってきたのか寒気を感じた。
「ウェーブの始まりだ! ルイ、明かりをくれ!!」
「
辺りが暗くなると地面を割るように次々とゾンビと呼ばれるアンデッドモンスターが現れる。
ルイが十字架を握って呪文を唱えると、闇夜を照らす無数の光の玉が現れて周囲を照らす。
「うひゃあ! 無双ゲームみたい!!」
ルイが魔法で産み出した光の玉に周囲が照らされると、墓地の殆どはゾンビで埋め尽くされていた。
「開戦の花火だ!」
アステリオスがそう叫ぶと、軍用重アサルトライフルに装着させていたグレネードランチャーから榴弾が発射されて、弧を描いて着弾した場所で爆発が起きる。
「たーまやー!!」
「汚い花火だな」
榴弾の爆発に巻き込まれたゾンビ達が四肢を撒き散らして吹き飛ぶ。
「うひょう! ここのゾンビは走る系かっ!」
アステリオスのグレネードランチャー攻撃が合図となったのか、ゾンビ達は唸り声を上げて走り出す。
「奴らは痛みを感じない。頭かコアを狙え!!」
「御意ー!」
ルイは荷台に積み上げられている武器の山からSMGを手に取ると弾幕を張る。
アーニャはドローン達を操作して搭載させたアサルトやSMGでゾンビ達を蜂の巣にする。
「夜のエリアにゾンビのウェーブとか、そりゃ未帰還にもなるわな!!」
アステリオスはまたグレネードを発射してゾンビ達を吹き飛ばしながら、四組も未帰還になったのか理解する。
エクスプローラーの中ではゾンビは初心者殺しと言われている。
その理由は幾つかあり、一つはルイが叫んだように頭部など明確な弱点を突かないと倒せない。
もう一つ、アンデッド系モンスターはタフで痛みも恐怖も感じず獲物に群がる。
四肢を切り落とされようが這いずり、どんなに傷つけようと弱点を突かれない限りは痛みや恐怖で動きが鈍ることもなく、元々死んでるので失血死も狙えない。
今も弾幕によって四肢を破壊されるゾンビがいるが残った手足で這ったり飛んだりして近づこうとする。
弱点を突いて倒しても補充されるようにまた次々と地面から新たなゾンビが這い出て戦列に加わる。
「うわぁ………ゾンビ映画でゾンビに四方を追い詰められた人の気分わかりそう」
ゾンビ達はルイ達に襲いかかろうとするが、ルイが事前に準備した結界によって阻まれ、牙をむき出しにして唸り、爪で結界を引っ掻く。
ルイ達の弾幕によってゾンビ達は倒されていくが、その数は逆に増えてるように結界に群がり、ゾンビが押し合ったり、その体を這い上がって結界の壁を上ろうとする。
「だーっ! 鬱陶しい!!」
アステリオスはアサルトライフルを2丁拳銃のように持ち、銃弾をばらまく。
「ルイの結界がなかったら僕達も未帰還者名に追加されてたかもねー!」
アーニャは呑気にそんなことを言いながら、ドローンを操作しながら仲間に弾薬を渡していく。
「やっとこさ夜明けか………」
「銃声とグレネードの爆発音で耳がいたーい!」
「ウェーブも終わったようだな」
気がつけば夜が明け始め、ルイが最後の一体に止めを刺すとウェーブが終了したのかゾンビが出てこなくなった。
「だ、誰か………」
「っ!?」
ルイ達がウェーブが終わったか警戒していると、人の声が聞こえてくる。
「誰かそこにいますか? 助けてください!!」
「女性の声?」
「生存者かな?」
最初は気のせいかと思っていた三人だが、はっきりと女性の声が聞こえて、声の主を探す。
「私はここです! 助けてください!!」
「棺桶?」
ルイ達が声の主を探して周囲を捜索していると、埋葬前の棺桶の中から声が聞こえてくるのを見つけた。
「なんでまたこんなところに?」
「なっ、仲間とダンジョンに挑んで私だけが生き残って………ここに逃げ込んだら開かなくなって………早く開けて助けてください!」
ルイが煙草に火をつけながら話しかけると、声の主は棺桶を叩きながら事情を説明する。
「なるほど、壊滅の理由はこれか」」
「は? なんの───」
事情を聞いたルイは拳銃を取り出すと、棺桶に向かって全弾撃ち込む。
「なっ………なぜわかったあああああ!!」
ルイが棺桶に銃弾を撃ち込むと、棺桶の中にいた女性は割れた鐘のような不愉快な声で叫び、棺桶を破壊しながら姿を表す。
「ホーカーか………なるほど犠牲者の声を真似て棺桶を開けさせて襲ってたってところか」
棺桶を破壊して現れたのはミイラ化したボロボロの女性のアンデッドモンスター。
それをみてルイは紫煙を吐きながら正体を見破る。
名前をホーカーと言い、殺した対象の声を真似て犠牲者をおびき寄せて襲うモンスターだ。
「なぜ解ったと聞いている!!」
「考えれば解るだろ、ここはロックダンジョンだ。クリアするか全滅しない限り入場できないんだよ」
「あ、そっかー!」
「頭では解っていても、つい反応しちまったな」
ルイがホーカーが潜んでいたことに気づいた理由を告げると、アーニャとアステリオスはぽんと手を叩いて納得する。
「正体が解っても、わしに食われる運命に代わりはないぞっ!」
「お前には無理だな。
ホーカーはルイに飛びかかろうとするが、ルイはホーカーに向かって煙草を投げつけ、十字架を握って呪文を唱える。
「うぎゃあああああああ!!!!」
すると煙草が火種となったのか、それを起点に炎の嵐が発生してホーカーを焼き尽くす。
「ダンジョンクリアだな」
ホーカーが討伐されると同時にダンジョンの崩壊が始まり、周囲の景色が墓場からウェストランドの廃墟と砂漠の荒野に変わっていく。
「しかし、経費かなりかかったな………」
「ゾンビの数だけは多かったからねえ」
「俺はこれからこの無数に散らばる魔石を
拾い集める作業の方がゾンビウェーブより苦戦しそうだよ」
倒したゾンビ達は全て魔石に代わり、四方八方に散らばっていた。
それをみたアステリオスがうんざりしたように天をあおいでいた。
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