無自覚にラスボス義弟を闇堕ち回避させてた私、執着溺愛されて二度目の転生をさせられてました
三崎ちさ
第1話・メリル・フォートサイトの記憶
私はメリル。フォートサイト家のひとり娘。
公爵位を持つフォートサイトは希少な闇魔術を継承している家系。だけれど、当代は女の私しか子どもに恵まれなかった。女では家を継げないから、お父様は親戚筋から男の子を引き取ってきた。
「は、はじめまして。メリルお義姉さま。ギルフォードともうします」
お父様に連れられてきた男の子は銀髪の小さな男の子だった。
名前はギルフォードというらしい。
私の二個下だから、五歳か。背は低いけど、この年ながら整った顔立ちをしていた。
「ふうん、なかなかいい名前じゃない」
軽く言っただけなのに、なぜかその子は嬉しそうに顔を綻ばせた。
お父様いわく、ギルフォードは少し訳アリな子らしい。
生家ではまともに名前を呼ばれたことはないとか……なんでも前妻の子で後妻からは邪険にされていた、とか?
私たち本家は闇の魔力を維持するために、代々親戚筋からも強い魔力を持った子どもを積極的に本家に呼び寄せていた。結果として、親戚に残った子は魔力が低い子ばかりになり、今では闇の魔力が発現しない子どもも珍しくないくらいだった。
そして、ギルフォードは分家の生まれとしては信じられないほど強い魔力を持っていた。私の両親が無事に男児を産んでいたとしても、おそらく本家に引き取られていただろうことは予測されていた。それも彼がやっかみを受ける理由の一つだったかもしれない。
優れた能力を持つものが嫉妬されるというのはいつ、どの世でもよくあることだ。
我ながら七歳にしては達観したことを思いながら、ほんのりと彼に同情する。
その後、数か月が過ぎ、私はずっとギルフォードの様子を見ていたが、ギルフォードはオドオドとして控えめで、私が言うのもなんだが、あまり子どもらしさのない子どもだった。
私が子どもっぽくないのは、自身がいわゆる子どもらしいふるまいをするのに違和感を覚えていたからというだけのこと。彼みたいに愛情が与えられていない環境で育ったからではない。
変な話、物心ついたときからずっと、なんだか私は自分が自分じゃないみたいな感覚が強かった。
まあ、私のことはどうでもいい。ギルフォードは、それなりにかわいそうな子どもだったらしい、という話だ。
(それで、名前を褒められてうれしかったのね)
あまりにも顔がよすぎて、あえて顔の良さを褒めなかったというのに、むしろそれが嬉しかったとは。
ギルフォードは名前を呼ぶたびに、嬉しそうに顔をほころばせ、それがまたかわいらしい表情を浮かべるのだった。
仕事で忙しいお父様は、ギルフォードの世話は私に任せていた。
「いいこと、あなたはフォートサイトの名を継ぐために引き取られてきたのですからね。その名に恥じないように過ごしなさい」
「はい、メリル姉さま」
本家の長女にふさわしいよう、あえて偉そうに振る舞う私にギルフォードは素直にうなずいた。
サラサラの銀髪は陽にあたるとうっすら紫色が滲むように光ってとてもきれいだ。
目の色も、透き通った青色。幼くてもはっきりとした目鼻立ち。ギルフォードはとてもきれいな容姿だった。
(美形って小さいときから美形なのねえ)
そんなことを思いながら関心する。
私は黒髪黒目でこの子に比べると地味な外見だけど、目力なら負けていないと思う。メリル・フォートサイトは悪辣な悪役令嬢であるが、美少女のはずだ。
「メリル姉さまの目はつぶらでかわいいですね」
ほら、ギルフォードだってそう言っている。
「まあ、当然ね」
ふふん、とわざと思わせぶりにサラサラの黒髪のふぁさっとかきあげる。それをギルフォードはニコニコと眺めていた。
「おれ、この家に来てよかった。メリル姉さまに会えてよかった……」
「大げさね」
微笑むギルフォードは天使のようだった。
お顔もかわいいし、ふるまいもかわいいし、素直だし、私がギルフォードをかわいがらない理由などなかった。
食事の時も隣に座って手取り足取りマナーを教えてやったし、我が家に来訪者が訪れれば「この方はレイクサイド地方のコロンド侯爵よ」などと教えて挨拶の仕方や立ち振る舞いを丁寧に仕込んでやり、夜眠れないのだと一人で泣いているのを見かければ一緒に眠ってやったりもした。
あっという間にギルフォードは私に懐き、そして私もまたギルフォードをより一層かわいがった。
これでギルフォードを、本家の人間ではないよそものだからとか、自分より美しいからとか、自分よりも優れた力を持つからとかで虐めるだなんて、信じられない。
×××は彼を虐げていたけど――。
(ん? ×××?)
思考にノイズが入って、思わずこめかみを押さえる。
たまにこういうことがある。自分じゃない誰かの視点が、まるで本当に体験したかのような思い出が勝手に頭の中で再生されることが。
「……姉さま? 大丈夫?」
「え、ええ。大丈夫よ、心配いらないわ」
眉を下げて子犬のような顔をしたギルフォードの頭を撫でる。ああ、かわいらしい。小さな子ってなんでこんなにかわいいかな。私も七歳だから似たようなもののはずなのに、そう思う。
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