《UNDERCARD MATCH 2》ラーメンと功夫と青龍

 ――次も同じくゲームワールドオンラインから、とあるエリアの樹海に配置された五重塔。

 高みを目指す者は、誰しもこの五重塔のように頂点を目指したがる者。この塔に挑みしプレイヤーは幾多のジャンルを問わず、己の技巧の限界を超える為に精進する者のみ入塔を許可された玄人の道。


 人はこの五重塔を――【極界塔きょくかいとう】と呼びます。


「……汝、己の技巧を極める意志ありや?」

「――――御意はい


 極界塔の挑戦者と思わせる一人の男。深青の武道着を纏、靡かせるは青と黒を交えさせた長髪。ノースリーブに覗かせる両腕は剛と柔を交えた筋肉美。


 そんな挑戦者を囲う……もとい、坊主頭の修行僧。

 この塔の門下生がこの挑戦を見守る中、唯一人強者の覇気を纏いし僧の長が、この塔の番人にして挑戦者の組手闘士である。


「では汝に問う。己が鍛えし技巧、それを我が極界塔にぶつけるものは何か!?」


「――――功夫カンフー、一筋!!」


 ――【功夫】、即ち世界に名高き中国拳法の事。

 少林拳、詠春拳、太極拳といった功夫体系は数多く、世界中で実践されている。本来は『練習・鍛錬・訓練の蓄積』を意味するこの功夫。


 その名の由来通り、積み重ねこそが功夫の髄を深めるこの拳法。日々是精進の信念が良く似合う技巧を、二十代の若者が極めんとしているのだ。


「それでは……一堂、礼ッッ!」


 僧長と挑戦者、審判の指揮をする僧の掛け声と共に右手を拳に、左手を掌(パーのような形)にして胸の前で合わせる。このようなお辞儀を『抱拳礼ほうけんれい』と言います。

 そして両者、功夫の独特な構えを取って戦闘態勢へ。


 挑戦者は、体をやや正面に向けて足はレの字立ちの構え。


(む、白蓮八陣の八相構え。……少林寺の体系か)


 少林寺拳法には白蓮八陣・義和九陣といった構えも数多く存在する。中段の攻撃を誘う『八相構え』に出た挑戦者。

 対して僧長は、足は結足立ち、指先は目線の高さ、肘は張る。少林寺の礼式である『合掌構え』に出る。これなら繰り出す攻撃を悟られないと見たか。



「――――始めぃッッッ!!」


 号砲と共に駆け、手腕を繰り出す闘士二人!

 中段対策に右手貫手を繰り出す挑戦者、対して僧長はその攻撃を合掌した両手で白刃取りのように掴み、カウンターで挑戦者の胸元に正拳突き!


 鈍い音を立てて胸筋にファーストヒット。これが刺激となったか、タグが外れたかの如く挑戦者の猛進撃が始まる!!


振雄雄雄雄雄ふぉぉぉぉぉッッッ!!!」


 ブルース・リーを思わす怪鳥音が発進の合図か! 主に上段を軸に繰り出す拳・手刀・貫手の組手連鎖! それをいとも容易く、拳で弾いては交わす僧長の防御力。対して反撃力は強く挑戦者を圧倒させていく!!


「熟練度が足りぬな、若僧。たかが二十そこらの年月で功夫の技巧を極め、この極界塔に歯向かうなど片腹痛いわ! 少林寺の拳など、我は既に熟知している!!」


 僧長の猛打に体勢を崩しそうになる挑戦者。だが闘いの中に“起死回生”の言葉があるように、劣勢は転じて優勢の好機を生む!


「……功夫は何も、少林拳が全てでは無いでしょう?」


 その刹那、鉤手の手先から一転してのような鎌の手の形に変えた!!


(!? ……これは、螳螂拳とうろうけんの――)


 ――ドシュッッッ


 僧長の腕を絡めとり、不自由になった片腕を通して、もう片方の鎌手で眼を突いた!!

 不意を突かれた僧長の大ダメージに、圧されていた挑戦者は体勢を立て直し、再び間合いを取って中腰の姿勢の螳螂拳の構えを取る。


「お、のれ……ッ、貴様、少林拳の使いでは無かったのか!?」

「そんな事、一言も言ってません。わたしは純粋に功夫の神髄を極める為に挑んでいるのです」


 功夫、及び中国拳法には北派・南派武術といった門家があり、そこから派生して様々な拳法が生まれている。少林拳は北派武術の外家拳だが、挑戦者はそれ一筋に極めてはいない。


 功夫を、中国拳法全てを会得し、拳士の頂点に立つことこそ、挑戦者の願いなのだ!


「馬鹿め、中国四千年の拳の伝統でも変える気なのか!!?」


「何を言っているのですか。寺で仏が異なれば、師匠で技も異なる。師匠と弟子次第で拳法も、技の流派も変わっていく。

 ――――これこそ、功夫の神髄なりッッ!!!」



 その言葉を証明せんと、両手を前方に構えて交差し、独特なファイティングスタイルで相手を威嚇。

 まるで宙を舞い、天翔けるのように、全身を捻らせて臨戦態勢へと突入する……!!


「な、何だその構えは?! 中国拳法にそんな構えなどは……」


「当たり前です。これはわたしが『天翔道』にて編み出した青龍の構え。そして……!」


 構えを解いた挑戦者が、いきなり前進したかと思えば、跳躍してのムーンサルト。そこから繰り出される裂脚回し蹴り!!


「天翔道流・青龍奥義! 【龍尾の凪払い】!!」


 ――――デュバァァァッッ


 挑戦者の右脚が、僧長の横面にクリーンヒットッッ!! 重く鈍い音を立てて下顎を痛撃された僧長は、そのまま地面へと叩き落された!!!



「…………しょ、勝負ありいいいいいッッッ」


 衝撃の一撃に言葉を失う門下生達、我に返った審判の号令に忽ちどよめきに騒ぐ塔の庭の闘技場。

 そんなざわめきにも一切動じず、挑戦者は無心に抱拳礼で一礼するのだった。



 〚SETTING...〛


 ――ところで、この極界塔に挑み、番人に勝った暁にはどのような報酬が与えられるのか? 

 新しい技の伝授か、或いは強化アイテムの贈呈か。正解はこちら。


「では約束通り、汝の求めし秘宝を与えよう。


 ――日本式中華料理の始祖、【古のラーメン】でござる!」


 と、修行僧直々に大型の丼に並々と乗ったラーメンが挑戦者へと渡された………って、


 ラーメンが報酬ってどういう事!!??


「こ、これが……東京で初めて伝わったと言われる最初のラーメン、南京そばなのか! 感動的だぁ……!!」


 しかもラーメンに泣いてるし。


 格闘技解説兼グルメ解説もこなします、語り部の私『Mr.Fミスター・エフ』が察するにこのラーメン。

 1910年に浅草区に初めて日本人経営者が、横浜中華街から招いた中国人料理人を雇い、日本人向けの中華料理店「来々軒」を開店。


 この「来々軒」が、中国と日本の食文化が融合してできた日本初のラーメン店とされており、『支那そば』『南京そば』といったラーメンが、明治時代の主力メニューとして大人気となったのです。


 醤油ベースにネギ、メンマ、味玉と数枚のチャーシューを具材に作られた『南京そば』。

 ここから100年以上の歴史を経て国民食になったと思うと、感慨深いというかそうでもないのか。


「感動するのも結構だが、早くしないと麺が伸びてしまうぞ」

「おっと、わたしとした事が。では心して頂こう」


 100年以上の歴史を持つ古のラーメン。味の程は御想像にお任せするが、勢いよく麺を啜る音が、美味を物語っているに違いない。


 ゲームワールドオンラインでは、古に存在する食材・料理や、現実に存在しない未知の味を集めた食材データが存在し、実際にという。


 挑戦者はこの味を求めに、功夫を極め、強さを得ようとしているのでしょうか……?





 その挑戦者の名は――――武 龍青ウー リュウセイ(18)


 青龍の魂を持つ【天翔道流】の格ゲーファイターである!!

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