冒険304.腹の探り合い

 ====== この物語はあくまでもフィクションです =========

 ============== 主な登場人物 ================

 大文字伝子(だいもんじでんこ)・・・主人公。翻訳家。DDリーダー。EITOではアンバサダーまたは行動隊長と呼ばれている。。

 大文字[高遠]学・・・伝子の、大学翻訳部の3年後輩。伝子の婿養子。小説家。EITOのアナザー・インテリジェンスと呼ばれている。

 一ノ瀬[橘]なぎさ一等陸佐・・・ある事件をきっかけにEITOに参加。伝子を「おねえさま」と呼んでいる。皆には「一佐」または副隊長と呼ばれている。EITO副隊長。

 久保田[渡辺]あつこ警視・・・ある事件をきっかけにEITOに参加。伝子を「おねえさま」と呼んでいる。皆には「警視」と呼ばれている。EITO副隊長。

 愛宕[白藤]みちる警部補・・・ある事件をきっかけにEITOに参加。伝子を「おねえさま」と呼んでいる。愛宕の妻。EITO副隊長。降格中だったが、再び副隊長になった。現在、産休中。

 斉藤長一朗理事官・・・EITO司令官。EITO創設者。

 夏目房之助警視正・・・EITO副司令官。夏目リサーチを経営している。EITO副司令官。

 久保田嘉三・・・警視庁管理官。前EITO司令官。あつこの夫である久保田誠刑事の伯父。

 新町あかり巡査・・・警視庁からのEITO出向。副隊長補佐。伝子を「おねえさま」と呼んでいる。

 田坂ちえみ一曹・・・陸自からのEITO出向。伝子を「おねえさま」と呼んでいる。

 愛川静音(しずね)・・・ある事件で、伝子に炎の中から救われる。剣道が得意。大学卒業後、EITOに就職。

 ジョーンズ・・・オスプレイのパイロット。

 高木貢一曹・・・陸自からのEITO出向。

 筒井隆昭・・・伝子の大学時代の同級生。警視庁テロ対策室からのEITO出向。

 原田正三・・・元新宿署警部。警視庁からのEITO出向。

 河野事務官・・・EITO東京本部事務官。主に、警察との連絡係を担当している。

 西部才蔵警部補・・・高速エリア署刑事だが、EITOの『片づけ隊』班長をしている。。


 大文字綾子・・・伝子の母。介護士をしている。


 東山英一・・・元SAT副隊長。現在は警備会社社員。実は、潜入捜査官。

 守谷哲夫・・・SAT隊長。

 倉敷恒夫・・・ピースクラッカーの『枝』。

 ※他にエマージェンシーガールズ。


 =================================================

 ==EITOとは、Emergency Information Against Terrorism Organizationを指す==

 ==エマージェンシーガールズとは、女性だけのEITO本部の精鋭部隊である。==


 午前11時。台東区浅草橋。TODAYS GALLERY STUDIO

「網にチュ!」という、ピースクラッカーの投稿を元にエマージェンシーガールズは、やって来た。

 既に盛況だが、どうしたものかと、なぎさ達が迷っていると、警備員が近づいて来た。

「あのー。こういう人達が来たら、預かり物を渡してくれ、と杖を突いた高齢者の方に・・・。」と、警備員はエマージェンシーガールズの写真と、お菓子の袋を、なぎさに渡した。

 なぎさ達は、外に出て、あつこがお菓子の袋を確認した。

「爆発物じゃ無さそうだわ。」

 袋は白っぽい袋の上にただ、『PEACE』と書いてある。

「ピースって書いた、クラッカーの袋か。あかり、メダルカッター貸して。」と、なぎさは、あかりに言った。

「え?おねえさまも持ってるんじゃ・・・。」と、あかりが言った。

 最初は、あかりの緊急武器だったが、今は、エマージェンシーガールズ全員の装備になっている。

「忘れてた。」なぎさは、左肘のメダルカッターを出して、菓子袋を開封した。

[小さな子供も、大きな子供も楽しみにしているらしい展覧会だ。無粋なことはしたくない。地図を同封しておいたから、ね。待っている。]

 そんなことを書いた紙片が出てきた。

「案外、紳士なんですね。順路まで書いてある。浅草橋公園。歩いて10分位、ですか。」と、田坂が言った。

「よし、行こう。」なぎさは先頭に立って歩き始めた。オスプレイに戻って移動するより、この方が早い。途中、スマホで撮影する若者が何人もいた。無視するのがベストだ。

 予定通り、浅草橋公園に着いた。

『浅草見附跡』という石碑の前まで来ると、1人の男が近寄って来た。

「案外、紳士、なんて思ってるかな?正解だ。俺は、君たちが言う『枝』の倉敷だ。さ、行こうか。」

 到着したのは、浅草橋1丁目、と書いてある信号機の側。

「許可は、取ってあるよ。映画撮影ということでね。両端のコーンが終点だ。」

 倉敷が言うや否や、そのコーンの方から、一団がやって来た。皆、青い忍者衣装だ。鳴る程。歩行者天国で、映画の撮影をしている様に見えなくもない。

「ひょっとしたら、トーナメント戦か?」と、なぎさが尋ねると、「いや、乱打ち(らんうち)だ。正常に立っていられた者が最後の1人になった方が負けだ。お前達が勝った場合は、変な笛鳴らして、逮捕させればいい。」と倉敷は言った。

「私達が負けたら?」「後方部隊が、銃火器持って応援に駆けつける。詰まり、正当防衛だな。」「正当防衛とは違う、とは思うが・・・。」なぎさは声に出さず、『見張りつきか?』と、倉敷に尋ねた。

 倉敷は頷き、声を大きくして、「そうだ。物わかりがいいな、エマージェンシーガールズ。時間無制限。体力勝負だ。」と言った。

 なぎさは、インカムで、『見張りつき』を皆に伝えた。要は、『戦力の見極め』で、集団は、道具だ。

『試合』は、思ったより、長かった。エマージェンシーガールズはバトルスティック、またはバトルロッド、敵は木刀だ。木刀は、竹刀より数倍堅く、痛い。

 3時間後。EITO側は、一番持久力のある、あかりが膝を折った。

 残ったのは、剣道有段者の静音だけだった。そして、敵側は、倉敷以外の全員が、歩行者天国の空を見上げていた。

「降参だ。笛吹いていいぞ。俺は、剣道不得意だから。」

 その言葉に、なぎさは、倉敷の真意を汲み取り、インカムでジョーンズに伝え、長波ホイッスルを吹いた。

 長波ホイッスルは犬笛に似た通信機で、特殊な音波でオスプレイを通じて、警察に信号を送る。

 間もなく、西部警部補率いる『片づけ隊』がやって来た。

「倉敷。下の名前は何て言うんだ?」「聞いてどうする?恒夫だ。」「タイプだから。更生したら、付き合ってくれ。」

 西部は、首を傾げながら、倉敷他の集団を逮捕連行させた。

 午後3時半。EITO東京本部。司令室。

「食事取らせています。今日は、全員基地に泊まらせます。」と、なぎさは、報告した。

「うむ。明日、可能なら、須藤先生に臨時に診察して貰う様言ってある。まずは、休むことだ。」

「一佐は、あんなのがタイプなんですかあ?」と、原田が間抜けな声で尋ねた。

「おねえさま。原田が、原田がセクハラするんですう。」と、なぎさは、伝子に、『おんなモード』で甘えた。

「原田。減点2。」と、伝子は、言い渡した。

「馬鹿。余計なこと言うからだろ?一佐は、何か考えがあって、モーションかけたみたいな言い方したんだよ。」と、筒井は言った。

「モーション?古いな、筒井も。それ、死語だぞ。原田、今日も煎餅、なしな。」と、理事官は、戯けて言った。

「倉敷の反応を見たかったんだろ。倉敷恒夫という、名前の手掛かりが掴めた。」と、伝子が言うと、「久保田君に、あの『枝』倉敷恒夫の素性とか情報が取れれば、連絡して貰おう。河野君。メール打っといて。」と、理事官は、河野事務官に指示した。

「見張りがいる、って、なぎさに教えた段階で、『負ける覚悟』が出来ていたんだろう。勝つ気満々なら、自ら闘う筈だ。静音が残らなかった場合も考えていた筈だ。」

 伝子の言葉に、「うむ。少なくとも、倉敷は、他の『枝』もしくは監視役に敵意を持っている。だから、大文字君が推測したように、最終的に、こちらに勝たせる気でいた。」と、夏目警視正は、言った。

「確か、なぎさに笛を吹け、って督促した。言われなくても、作戦終了したら、我々は長波ホイッスルを吹く。」と、伝子が言った。

「つまり・・・ああ、何て言えばいいか。」と、なぎさが言うと、マルチディスプレイの画面の中の高遠が言った。

「周波数じゃないかな?いつか、伝子の声帯模写をエーアイにやられたことあったよね。チンピラがボンクラだから、役に立たないって、思い込ませた事件。」

「じゃ、なぎさがインカムで『終了』を警察に報せてくれ、って言ったのは、正解だったんだ。長波ホイッスルは、吹く真似だけした。わざわざ倉敷の下の名前を聞き出したのは、お礼の意味もあったんだろ?」「さすが、おねえさまね、私は何となく行動しただけだけど。」

「高遠。すると、他のチームに周波数を検知させる為に、あの場所におびき出したって言うのか?じゃ、お前が解いた『ミニチュア』ってアナグラムは、陽動用ってことか。」と、合点がいった筒井が言った。

「その通り。それと、今回もフリップ、単純に出しただけだったよね。他の『枝』か腹心のアイディアの作戦だったんじゃないのかな?倉敷はアンチ、つまり、そのアイディアに不服だった。ピースクラッカー同様に。それで、銃火器使わず、最初から木刀にして、勝たせた。こぶまんほどかどうか分からないけど、内紛はありそうだね。あ。あの投稿も『隠し音声』なかったらしいよ、本郷君、あ、本郷さんのメールによると。」

 高遠の話に、「成程な。」と、理事官は言った。

「じゃ、後は、明日の会議にしよう。筒井、悪いが大文字君を送ってやってくれ。」と、理事官は筒井に指示をした。

 午後5時半。伝子のマンション。

「それで、周波数知られると、どうなるの?」と、綾子が無邪気に尋ねた。

「逆に利用される。偽の指示を送ることが出来る、かも知れない。大混乱だね。闘いが終ってないのに、警察が来ると。」と、高遠は、ラーメンを作りながら、事もなげに言った。

「なぎさは、カンを働かせて、『終了合図』はインカムで報せて来た。すぐに、EITO東京本部から警察に連絡した。警察は、警察無線で対処した。」と、伝子は綾子に説明した。

「なぎさちゃんも成長したのね。」「そういうことだ。」

「しかし。妙だね。トーナメント戦に、乱打ちか。オクトパスこと山下みたいな『枝』が2人もいたなんて・・・あっ!!」と、高遠が叫んだ。

「どうしたの、婿殿。ラーメン、吹きこぼれた?」と尋ねる綾子に、「『後日談』が、ありそうだね、伝子。」と、高遠は言った。

「うん。だから、久保田さんに、『脱獄注意』の提言をしておいた。」

 午後10時。ある拘置所。

 倉敷の房に、刑務官が近づいて来た。

 その背後から近づいて来た、別の刑務官が声をかけた。

「こうたいの時間です。」「交替?聞いてないぞ。」「そうか?こうたいは、仕事を引き継ぐことじゃなくて、引き上げる方だよ、ダークレインボー。仲間の始末に来たか?単なるヒットマンか?」

 刑務官は、どこからか跳んできたモノに倒れた。

「殺したのか?」と、倉敷が言った。

「いや。獣医師が吹き矢で麻酔薬を打って眠らせただけさ。」と、刑務官に化けた東山が言った。

 バラバラと、守谷率いるSATがやって来た。

「どうやら、EITOの優秀な『エーアイ』のことは知らなかったようですね、隊長。」と東山は笑った。

 翌日。午前0時過ぎ。

 Base bookに、ピースクラッカーの投稿があった。

 笑っている。五分くらい笑った後、真顔になった、ピースクラッカーは言った。

「じゃ、気を取り直して、仕切り直しにしよう。今度のお題はこれだ。」

 差し出したフリップには、こう書かれていた。

「怪人 酔うな お城」

 ―完―

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る