冒険300.新たな敵『壊し屋』
===== この物語はあくまでもフィクションです =========
============== 主な登場人物 ================
大文字伝子(だいもんじでんこ)・・・主人公。翻訳家。DDリーダー。EITOではアンバサダーまたは行動隊長と呼ばれている。。
大文字[高遠]学・・・伝子の、大学翻訳部の3年後輩。伝子の婿養子。小説家。EITOのアナザー・インテリジェンスと呼ばれている。
一ノ瀬[橘]なぎさ一等陸佐・・・ある事件をきっかけにEITOに参加。伝子を「おねえさま」と呼んでいる。皆には「一佐」または副隊長と呼ばれている。EITO副隊長。
久保田[渡辺]あつこ警視・・・ある事件をきっかけにEITOに参加。伝子を「おねえさま」と呼んでいる。皆には「警視」と呼ばれている。EITO副隊長。
愛宕[白藤]みちる警部補・・・ある事件をきっかけにEITOに参加。伝子を「おねえさま」と呼んでいる。愛宕の妻。EITO副隊長。降格中だったが、再び副隊長になった。
愛宕寛治警部・・・伝子の中学の書道部の後輩。丸髷警察署の生活安全課刑事。
斉藤理事官・・・EITO司令官。EITO創設者。
田坂ちえみ一曹・・・陸自からのEITO出向。
安藤詩三曹・・・海自からのEITO出向。
浜田なお三曹・・・空自からのEITO出向。
天童晃(ひかる)・・・かつて、公民館で伝子と対決した剣士の1人で、EITO東京本部武術師範。
大蔵太蔵(おおくらたいぞう)・・・EITO開発部長。
大文字綾子・・・伝子の母。介護士をしている。
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==EITOとは、Emergency Information Against Terrorism Organizationを指す==
==エマージェンシーガールズとは、女性だけのEITO本部の精鋭部隊である。==
午前9時。EITO東京本部。会議室。
ピースクラッカーの「宣言」の次の日の朝。
早朝から、緊急会議がEITOと警視庁、そして、伝子のマンションのオンラインネットワークで行われた。
午前中に、記者会見要請が来て、午後からシネコン映画館を使ったリモート記者会見を行う。理事官達は、『大文字伝子』という言葉が出たことを気にしたが、伝子と高遠は気にしない、と応えた。
伝子は、世間的には既に『死んでいる』人間だ。葬式もあげたし、墓もある。火事で焼け死んだことになっている。伝子の分譲マンションのその部屋等は、昔一家心中のあったところだ。伝子は気にしないで購入、改造した。
藤井が散々言っていた、『犬はダメ』ルール。自治会を立ち上げてまで作った住人は『呪われている』と言って出て行った。そして、自治会は自然消滅した。
今、大文字伝子を知っているのは、藤井だけだ。
少し前の事件で、『大文字伝子』という名前の、同姓同名の人物が殺された。
記者会見で問われても、同姓同名の人物だろうと、惚ければいい。それより、警視総監や統合幕僚長まで出席した、一ノ瀬の法事にイチャモンつけることの方が心配だと伝子は言った。
午後6時。シネコン映画館。
記者達が詰めかけた会見会場のスクリーンに映ったのは、黒いスーツ、即ち喪服の理事官だった。結局、高遠が用意した台本に沿って、理事官は法事の説明をした。そして、いかに一ノ瀬孝一佐を亡くしたことが、日本の損失かを語った。警視総監は一ノ瀬の親族であり、自衛隊三将や統合幕僚長が出席したのは、全ての自衛隊に貢献していたからだと。
伝子の話は、時間切れで記者は質問出来なかった。
そして、翌々日。
今日は、ピースクラッカーが言った『休暇』の最終日だ。
「あ。お前も休暇中じゃなかったか?」と、伝子はみちるに言った。
「おねえさまの意地悪、解禁したじゃないの。」
「そうだっけ?」
「みちるの負けね。あ、さっき連絡があったんだわ。何か新兵器開発したそうです、理事官。」と、あつこが言った途端、大蔵が姿を見せた。
「呼んだ?」と、大蔵が、にこにこ笑いながら入って来た。
「おおぎ、ですか。」と、伝子は大蔵の持ち物を見て、怪訝な顔で言った。
「鉄扇、です。でも鉄にしては軽い。いざという時に武器になる。」と大蔵が言うと、「メダルカッター、みたいな?」と、あかりが言った。
「そういうことだね。普段はやはりバトルスティックが一番だろう。バトルスティックに仕込むのは大変なことが分かったから、別物にしたよ。」
「何本あるんです?あ、本じゃなかったかな?」「これ、一個。アンバサダーが使ってください。」「了解しました。」伝子は承諾した。
「3日間、猶予を与える、と言ったんだ『果報は寝て待て』、午後からは、自由にしてくれ。」と、理事官は言い、出て行った。
忽ち、『伝子シスターズ』は集まって来た。
「ちえみ、扇を扱ったことは?」「あります。跳ばしたら武器になりますね。」と、田坂は言った。
「じゃ、後で教えてくれ。」
午前10時。EITO東京本部。訓練場。弓道パーティション。
田坂が伝子に扇の投げ方を指導している。それを見ている、安藤、浜田、七尾。そして、天童、大蔵。
「投扇興(とうせんきょう)とは?・・・」と田坂は話しだした。
「日本の伝統的な遊びである「投扇興(とうせんきょう)」は、扇子を投げる美しさが大きな魅力です。舞妓さんのお座敷遊びのイメージがあるかもしれませんが、実は多くの流派や団体があり、投扇興の大会も開催されるほど人気があります。最近では、投扇興を初めて遊ぶ方へ向けて、体験できるイベントも開催されています。試合では着物で対戦することも多いのです。扇子を使うのが特徴です。「枕」と呼ばれる土台に「蝶」と呼ばれる的を立てて、蝶へ向けて扇子を投げます。そして、投げた扇子が落ちたときの蝶・枕・扇子の形(=銘)によって、得点が与えられるのです。投扇興は対戦型のゲームであり、一対一(2人)で行われます。点数の付け方は、流派によってルールが異なります。よく知られているのは、それぞれの銘に日本の古典文学にちなんだ名前がつけられた、源氏物語形式や百人一首形式の遊び方です。たとえば、源氏物語になぞらえた銘では、「花散里」が1点、「夕霧」が8点といった形で点数が決められています。」
一息ついて、また田坂は説明を始めた。
「蝶とは、イチョウの葉のような形をした的のことです。枕とは、蝶を載せる土台のことで、桐製のものが一般的です。投扇興に使われる扇子は、通常の涼を取る扇子とは異なり、専用の規格が設けられています。遊び方ですが、まず2名の対戦者の中央に枕を設置して、その上に的となる蝶を置きます。この状態で的に向かって交互に扇子を投げて、銘の合計得点の高い人が勝ちです。銘の中には、得点が入る形だけでなく、得点が入らずに無点となる形や、反対に減点となってしまう形もあります。たとえば、扇子が枕に当たる「コツリ」は、1点の減点です。」
「減点があるのか?」
「はい。厳しいですね。扇子を投げる回数や点数の数え方は、流派によって異なります。銘の種類と点数は、各流派が公表している銘定表で確認できるほか、市販の投扇興セットに銘定表が付属していることがあります。投扇興の扇子の持ち方ですが、投扇興で扇子を持つときは、右手を使います。広げた扇子の要を下から親指で支えて、残り4本の指を揃えて上から挟みます。扇子を投げるときは、このように親指側が下になった状態で、扇面が水平になるように構えます。投扇興の扇子の投げ方ですが、投扇興で扇子を投げるときは、正座をして扇子を水平に構えてから、前に押し出すようにして投げます。このとき、軽く手前に引いて勢いをつけると、遠くまで飛びやすくなります。なお、投扇興での扇子の投げ方には決まりごともあるため、押さえておきましょう。たとえば、扇子を投げるときは正座をした状態からお尻を上げてはいけません。背筋を伸ばして、上体を的に近づけるようにして投げるのがポイントです。」
「田坂先輩は、何故そんなに詳しいんですか?」と安藤が尋ねた。
「副島先輩に教わったんだろ?田坂。実は、鉄扇を見た時、以前、副島先輩に聞いた事を思い出したんだ。実戦向きではないと、おっっしゃっていたが、私は、そうかな?と思っていた。」
「確かに、大文字さんの言うことも分かります。だが、どうやって?と思わなくもないが・・・。」と天童は首を捻った。
「はい。私が知りたいのは、その投げ方です。紙飛行機なら、子供の頃遊んだことがありますが。」
伝子の言葉に大蔵は、「確かに、紙飛行機の飛ばし方だと無理があるかも知れないね。重量があるし。でも、器用なアンバサダーなら、少し練習すれば出来るかも知れないな。百聞は一見にしかず。田坂君。急ごしらえだが、台は拵えた。普通の扇で投げてみてくれ。」と、大蔵は田坂に大きめの扇を渡した。
1回、2回、3回と田坂は投げ、3回目には『コツリ』では無くなった。
そして、大蔵に渡された鉄扇を投げたが、自分の体に近い所に落下しただけだった。
「おねえさま。無理です。」泣き声で田坂は甘えた声で伝子に訴えた。
「心配しなくていい。期限は設けない。折角の武器だ、いつか日の目を見せてやろう。」と伝子は言って、微笑んだ。
「そうですな。それがいい。副島さんが、是非にと復帰させてくれた事は忘れてはいかんよ、田坂君。」と天童は言った。
「そうだ、もう一つお知らせがありました。エマージェンシーガールズのシューズですが、来月以降新調されます。芦屋総帥が、靴屋に特注で作らせました。いつか東京本部と大阪支部で守ったことがあったので、二つ返事で引き受けてくれましたよ。」
大蔵の言葉に、「ああ、両知事が誘拐された事件ですね。覚えてくれていたんですね。」と、伝子は感心した。
「楽しみだな、ちえみ、安藤、浜田。」と伝子が言うと、3人は揃って「はい!」と元気よく応えた。
伝子は、田坂を、そして、日向を、下の名前で呼ぶようになっていた。
誰も反対する者はいない。2人とも、死線を越えて来たからだ。
午後3時。伝子のマンション。
田坂、安藤、浜田は、伝子の招きで、やって来ていた。
藤井は、モールの料理教室に行っているが、その前に、たこ焼きを作って、置いて行ってくれた。
「成程。これは、違うわあ。総子ちゃんが関西だから、ですかあ。」と、安藤が言い、「お父さんが関西の人なんですよね。」と、浜田がどや顔で言った。
高遠が苦笑しながら、『関西弁矯正』の話を聞かせてやった。
「へえ。そうなんですか。全然『ナンチャッテ関西弁』に聞こえないから、てっきり・・・。」と、浜田は言った。
「やっぱり、凄い人なんだなあ。隊長も凄い人だけど、彼女も。レディースって、言うんでしたっけ?元不良を改心させたって話も凄いし。でも、どうやって?」と、田坂が言うので、「元は2つのレディースは反目しあっていた。それで、抗争の最中に出くわした総子が、南部さんから教わった手刀で、全員の手首を、あっという間に麻痺させた。それがキッカケだったと聞いている。」と伝子は応えた。
「正確には、更生させてEITOに入れたんじゃなく、更生した彼女達と再会した総子ちゃんがスカウトしたんだ、EITOに。」と高遠が説明を加えると、「やっぱり凄い!」と3人口を揃えて言った。
午後7時。
綾子がやって来た。「やだ。普通にご飯食べてる。」「普通で悪かったな、クソババア。」
「まあまあ。お義母さん、お茶漬けでいいですか?」と高遠は割って入った。
「ありがとう、婿殿。ピースクラッカーって、どういう意味?」と、綾子は無邪気に高遠に尋ねた。
「ああ。『壊し屋』って本人は言ってるけど。普通は、「デストロイヤー(destroyer)って言うんですけどね。昔、そう言うリングネームのプロレスラーがいたらしいけど。」と、高遠は呟いた。
「意訳って言うか、和製英語って言うか、まあ、日本人だな。」と、伝子は笑った。
「彼が意味したいのは『壊す』だから、押しつぶす、砕く、圧搾する、踏みつぶす、破砕する、粉々にする、って意味のクラッシュ(crush)の方が相応しいんだよ、母さん。」
「じゃあ、ピースクラッシュ?」」「ピースクラッシャー、だな。」
「間違えたの?おっちょこちょい?」「さあ、わざとかも知れないな。」
「お菓子の名前でクラッカーってあるわよね。あとアメリカンクラッカーって、流行ったけど。」
「クラックcrack(砕ける)からきたもので、お菓子の名前は砕ける感触からついた名前。『ピースクラッカー』は『平和の壊し屋』じゃなくて。『平和の砕き屋』ですね。因みに、コンピュータ用語の『クラッカー』は、『クライムハッカー』の略とも言われるけど、悪さするから、『砕く』意味もあるかもね。」
「ハッカーとクラッカーはどう違うの?」
「お義母さん、『オタク』って言葉知ってます?専門分野の依存症的趣味の人のことです。ハッカーは、『コンピュータオタク』、クラッカーはそのハッカーで、悪い事する人。紛らわしいからって、『悪いことしないハッカー』のことを『ホワイトハッカー』って言う言い方する人もいる。お義母さん、草薙さん、知ってるでしょ?」
高遠の問いに、綾子は「EITOの本部の人ね。」と応えた。
「草薙さんは、警視庁の『ホワイトハッカー』チームか出向の、特別事務員さんですよ。」
「ああ、そうなの。それで、そのピースクラッカーが、何か言ってるらしいわよ。」
「もう、早くそれ言ってよ。」と、自分のスマホでBase bookを起動した。動画で何か射ている。
「準備出来ましたか?EITOの皆さん。あなた方の言う、『幹』の多くがアナグラムでも大敗しているそうですね。私は、こう見えても得意なんです。早速ですが、一回戦はこれで行きましょう。」
そう言って、出したフリップには、こう書かれていた。
[ピルと足す豊胸]
―完―
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