第49話 why…??
アリスは額の汗を腕で拭いながら廊下を歩く。
(ふぅ…。まさかセレナがあんなことをしているだなんで知りませんでした…)
アリスは目にした光景を改めて思い浮かべ、再び体を震わせる。
(危ないところでした。シュンにワタクシがあんなものを持っているとバレていたらと思うと…。セレナには人の私物を勝手に漁らないように言わないとダメですね)
ひとまず〝お仕置き〟と称して倉庫にセレナを閉じ込めてきたアリスは、龍也とシュンがいるであろう客間の前に着いた。
ドアノブに手をかけ、深呼吸してから一気に開ける。
すると、予想外の光景が広がっていた。
「あははは!そんなことがあったのかい!? やっぱり中学生は面白いねぇ!!」
「そーなんだよ龍也〜。中2の時なんてクラスメイトの……あ」
「ん?…あぁ、アリス、戻ってきたか。見ての通り、僕たちは仲良くやっているよ」
「そ、そのようですね……」
客間には、隣に座り合って談笑する2人の姿があった。
歯を剥き出して笑い合う2人の姿はアリスが初めて見るものだった。
(シュンのあんなに楽しそうな顔、初めてみました…)
シュンとも2人で遊ぶようになるくらいには仲良くなったつもりでいたが、まだ彼女のことを全然知らなかったのだなと自認するアリス。
少し寂しい気持ちを感じながら、アリスは2人の前に座る。
「…龍也さん、先ほどはセレナがすいませんでした。本当にあんなことをしているとは思ってなくて…」
「ああ、いいよいいよ。その代わりアリスからしっかり言っておいてくれ。…それよりシュン、さっきの話だけど———」
「……」
アリスは目の前で起きていることが心の底から理解できなかった。
まず、いつもならネチネチ文句を言ってくる龍也があっさりと「いいよいいよ」と言い放った時点で異常だ。
だが、それよりも異常なのが龍也が歳下の女子と笑い合っているということだ。
大抵の女子を下に見る龍也は、それが歳下ともなればもはや相手を人間とは思わない。
自分を楽しませるオモチャ。そんな風に相手を扱う龍也が、2歳も歳下であるシュンと初めて見るような屈託のない笑顔で笑い合っている姿は理解に苦しむものだった。
「はははは! それで君は何て答えたんだい?」
「それはね〜」
(………)
そもそも、今日シュンを誘ったのは龍也を懲らしめるためだったのだ。
龍也はシュンのような女子を一目見れば必ず口説こうとしてくる。
そう確信していたアリスは前もってシュンに龍也の悪質さを伝え、あえて龍也に惚れるフリをして後から懲らしめてやってくれと頼むつもりだったのだ。
だが、家に入るなり龍也と遭遇するという想定外に加えてのこの状況。
アリスはすでに仲良くなっている2人を見て、当初の計画は実行不可能だと確信する。
だからつい、2人の会話に割り込んで訊いてしまった。
「……あの!」
「「ん?」」
「…どうして2人はそんなに仲良くなっているんですか?ワタクシが戻るまでそれほど時間は経っていないと思うんですが…」
「いやぁそれがねアリス、シュンとは結構趣味が合うんだよ。やってるゲームとか本の趣味とか、好きなアニメとか好きなサッカーチームとか」
「そうそう。龍也と私、話合うんだよ〜」
「…それだけで?」
「んーまあ、言われてみれば何か話しやすいってのもあるかもねぇ。お互いに苦しみを共有したってのもあるかもだけど」
「そんなことしてたんですか!?」
アリスは不貞腐れたようにそっぽを向いた。
(ワタクシはシュンと内緒話すらしたことがないのに、龍也さんはしたって言うの! ? ………やっぱりシュンもイケメンが好きなのでしょうか?)
やはりシュンもイケメンには弱いのかもしれない。
そんなイメージは無かったが、この状況を踏まえるとそんな気がしてきてしまう。
アリスがそう不安に思っていると、笑い疲れたように龍也は席を立った。
「…じゃあ僕はそろそろ行くとするよ。今日は2人で遊ぶ予定だったんだろう?」
そう言って部屋を出ていく龍也の背中を見送り、2人も遅れて客間を去った。
* * * * * *
「駅まで送っていきますよ?」
「いいよいいよ、別に夜遅いわけでもないし」
「そうですか…。では、さようなら」
「うん、バイバーイ」
俺は手を振りながらアリスの家を後にする。
いや〜、楽しかったな。
遊んだと言ってもアリスの部屋で女子トークしてただけだけど、結構内容がエグくて面白かった。
やっぱりアリスも中学ではモテたらしく、その辺の話を聞くのは楽しかったな。
告白時にアリスの手を両手で握った加藤君、勇気出したんだろうなぁ…。
「無理です。ごめんなさい」と答えられた時はさぞ辛かったに違いない。
そんな感じでそれぞれの昔話に花を咲かせたり男子禁制な話をしたりしたわけだけど、それとはまた別に不思議な出会いもあったな。
それは、神宮寺龍也だ。
最初はちょっと警戒してたけど色々話してるうちに仲良くなって、もう敬語は使わないくらいの関係になっていた。
あいつが言っていた通り、俺たちは趣味が合うんだ。それに、実際男同士なわけで会話のテンポも良く合う。
向こうからしたら俺は異性なのかもしれないけど、俺からしたら同性だから友達としてこれからも仲良くやっていきたいと思う。
てか、考えてみるとこの人生で最初の男友達かもしれない。
中学の奴らはだいぶ歳下だったから友達って感じはしなかったし、いつメンも男友達といる感覚とはまた少し違う感じだ。
そう思うと、本当の男友達は貴重な存在かもしれない。俺が行ってるの女子校だし。
よし、龍也のことは落とそうとか考えないでずっと仲良くやっていこう。
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