第48話 初めてイケメンと話すかも
夏休みが始まってはや1週間。
今日はたまたま部活がオフだったのでアリスの家に遊びに行くことにした。
というのも、この前LIMEで「今度ワタクシの家で遊びませんか?」とお誘いがあったんだ。
アリスの方から誘われるのは何だか新鮮だけど、嬉しかったし喜んで「行く!」と返信した。
ワクワクしながら当日を迎えた俺はどんな服装で行こうか迷い、その結果、だいぶ露出度高めの服になってしまった。
ホットパンツに白のヘソ出しTシャツ、そして黒いキャップを被った俺はルンルン気分で駅に向かった。
そして今に至る訳だが——
「でかい……!」
——俺は豪邸を前にビビっていた。
まず、家の周りを囲う壁がある時点ですげぇ。
敷地丸ごと囲うようにレンガの壁が建っているんだ。2メートルはありそうな本格的な壁が。
そして正門と思われる鉄の柵扉を抜けて敷地に足を踏み入れると、そこでまたビックリすることになった。
「動画で見たことあるやつだ…!!」
人工芝の広い庭の真ん中にプールがあった。
海外の動画で見たことのあるようなやつが。
まさか実物を目にする時が来るとは思ってもみなかった…。
西洋風の母屋と合わせて見てみると、ここが日本だとはとても思えない。
ヨーロッパの家の様子です、って言われても納得できそうな風景だ。
俺は玄関までの道を歩きながら隣を歩くアリスに感想を述べる。
「凄いねアリスの家。こりゃあ誰か誘いたくなるわ」
「ふふふ、凄いでしょう? この家はワタクシの父と母が建てたんですよ」
「えっ!? 両親、建築士だったんだ?」
「はい、そうなんです」
「へぇ〜!凄いね!」
自分の家を自分で建てるなんてめちゃくちゃカッコいいじゃん。
うちの両親は普通の仕事だから少し羨ましい。
アリスの両親に感心しつつそんなことを思っているうちに、アリスは家に入ってドアを開けてくれた。
「シュン、どうぞ上がってくだ………」
そこまで言って、アリスは黙った。
アリスは家の中を見て固まっている。
何かあるのか?
気になるので俺も家の中に入ってみた。
「アリス、どうかした、の………」
すると、玄関に2人の人間がいた。
1人は白ドレスの金髪少女。顔つきが似ているし、この子がアリスの妹だろう。
そしてもう1人は茶髪の甘顔イケメンだ。
緩めの服装だからボディラインは見えにくいけど多分細身だ。
夜の街にいるホストみたいな男だが、俺たちの目の前で彼は妹ちゃんに首輪を繋がれて四つん這いになっている。
なに? どーゆー状況?
「あ!お姉様!」
俺たちが状況を飲み込めずにいると、妹ちゃんがアリスのところに駆け寄ってきた。
アリスは酷く焦った顔で妹ちゃんの耳元で何か囁いている。
その間、俺とホスト男はじっと見つめ合って無言の応酬を経た末、彼の方から口を開いた。
「…や、やあ」
うーん、なんだこの状況?
本当に謎だ。謎すぎる。
まあ、とりあえず返すとするか。
「やあ」
俺は「何も見ていないよ」みたいな笑顔で軽く腕を上げた。
「……」
「……」
どうしよう、気まずい。
助けてアリスさん!
そんな視線をアリスに送ると、アリスはホスト男に指示を出して妹ちゃんをどこかに連れて行ってしまった。
「じゃあ、えっと…」
「あ、藤宮です」
「そうか、藤宮ちゃん。僕についてきてくれるかい?」
「はい…」
どうやらホスト男はアリスの言った客間とやらに俺を連れて行ってくれるらしい。
俺は靴を脱いで家に上がり、置かれていたスリッパに履き替えて黙って彼についていく。
どうしよう、さっきから首輪に目がいっちゃって仕方ないんだけど。
それに、男と会うならこんな露出高い服にしなかったのに…。
軽い女だと思われたくないから。
「ここだよ」
俺は案内されるがままに客間に着き、中に入った。
シャンデリアとか絨毯とか、高級そうな物にいちいち反応していると貧乏人っぽく思われるかもしれないから気にしないようにする。
長い机と数多くの椅子があるし、いつかこの部屋でみんなでアリスの誕生日パーティでもやりたいな。
「すまないねぇ、あんな姿を見せる羽目になっちゃって」
俺が部屋を眺めていると、ホスト男は椅子に座って話しかけてきた。
俺もその正面の椅子に座った。
「あれは何だったんですか…?」
「そうだね、誤解を解くためにもぜひ説明させてもらいたいよ。けど、まずは自己紹介をしないかい?」
「そうですね。…けど先に首輪外してもらえません?さっきから気になっちゃって…」
「あっ! ごめんごめん、自分でも忘れてたよコレ…」
ホスト男は苦笑いしながら首輪を外して机に置いた。
「じゃあ改めて僕から。僕は神宮寺龍也。高校3年生だ」
「私は藤宮春です。アリスと同級生なんで、神宮寺さんのほうが先輩ですね」
「あはは、龍也でいいよ」
「じゃあ龍也先輩で」
「うんうん。じゃあ僕はシュンって呼ばせて貰おうかな?」
微笑みながらそう言う龍也先輩。
はい、アウトです!
中学で14人の男子から告白された俺の直感がこいつは俺を狙っていると言っています!
いやぁ、俺のこと落とせそうだとか思ってるのかな〜?
……うん、めちゃくちゃ思ってそうだな。
特に目だ。
「少し優しくしたらコイツ落とせそー」みたいな目をしている。
確かにお前はイケメンだけど、俺はイケメンよりも美女のがいい。今のところ男には興味がないんだ。
だけどまあ、その気持ちは分かる。
これだけイケメンだったら周りの女が自分より下の存在に見えてくるだろうな。
けど、残念。相手が悪かったな。
お前は俺を落とすんじゃない。
俺に落とされるんだよ!!
隙を見て返り討ちにしてやる!
もっとも、それで告白されてもOKしないが。
「好きなように呼んでください」
「ありがとう!じゃあよろしくね、シュン」
…こいつ、早々に握手を求めてくるなんて中々強引な奴だな。
まあいい。ここは合わせておこう。
「よろしくお願いします」
俺は差し出された手を優しく握り返した。
考えてみれば、男と握手するのなんていつぶりだろうか。
…いや、そもそも中学では男子とほとんど話してすらいないし、こんなイケメンと会話すること自体初めてのことだ。
そう考えると、俺って結構凄いな。話したこともない男子から告白されたんだから。
「…じゃあ、さっきのを説明するね」
握手を終えると龍也先輩は悲壮感マックスで語り出した。
悲しい感じのBGMを流したらめちゃくちゃ雰囲気出るんだろうな…。
「…僕はね、この家の人間じゃないんだ」
…ん?
開幕から不穏なんだが。
「訳あってここに住まわせてもらってる従兄弟なんだけどね、だからこそこの家の住人には逆らえないんだ…」
なんだ、血縁者ではあるのか。
「で、さっきの少女だけど、あれは察しの通りアリスの妹、小学2年生のセレナだ。可愛いかっただろう? 僕も最初は可愛い妹だなと思ったさ。……だけど、アレはそんなんじゃない。アレはそう、少女の皮を被った悪魔か何かだ!」
「…何をされたんですか?」
「それこそ君が見た光景が全てさ、シュン。セレナは僕に首輪を巻いて散歩させるんだ!!僕をポチって呼んで散歩させるんだよ!?
それを〝おままごと〟って言って!!!」
「……」
なんか思ったより酷い話が出てきたな。
小学生2年生のやることにしてはぶっ飛んでやがるぜ。
だけど、アリスの妹だからなぁ…。
そこ知れぬ何かを感じるアリスの血を分けた妹なら、それを純粋に〝おままごと〟だと思っていそうな気がしてしまう。
にしても龍也先輩、情緒どうしたよ?
さっきは俺のことを下心丸出しで見てたくせに、今は目に涙を浮かべているじゃないか。
どんな言葉をかけたら良いのかなと悩んでいると、先輩は顔を下に向けたまま話を続けた。
「おままごとはどのくらい続いたと思う?」
「…3日とかですか?」
「はは、そうだと良かったよ。……7日!!今日でちょうど7日目だよ!!分かるかい?
僕はあれを7日も続けたんだ!…それに、おままごとだけじゃない。おままごとは夏休みになって始まったことだけど、前々から色んなことに付き合わされていたんだ。3時間読み聞かせをしたこともある。2時間ぬいぐるみショーをしてあげたこともある。セレナが好きなアニメの映画に連れて行ってあげたり、食べたいとねだるスイーツを買うために長時間並んだりしたこともある!他にも言い出したらキリがないほど沢山付き合ってあげたんだよ!……だけど僕はもう疲れたんだ。君みたいな美人にあんな姿も見られちゃったし、もう精神が擦り切れてしまいそうだ」
先輩はそう言い終えると机に突っ伏してしまった。
なんか、普通に可哀想だな。
最初は女たらしの空気をバチバチに感じだけど、案外根は真面目そうだし、なんだかんだ言って優しいところもありそうだ。
よし、ここは1つ俺から行動してみよう。
「…先輩、大変だったんですね。偉いです。先輩はとっても偉いです」
「……シュン」
俺は聖女のような微笑みと全てを包み込むような柔らかな声を以て龍也先輩の頭を撫でる。
そしたらなんと、龍也先輩はしくしく泣き出してしまった。
「…ありがとう、ありがとう。久しぶりに人の温かさを感じたよ。どうやら僕はまだ人間性を失っていなかったらしい」
「そうですかそうですか。大変だったんですね。辛かったんですね。今までよく頑張りました。でも大丈夫。私はあなたの味方です」
「うぅ、ありがとう…」
一体どれだけセレナちゃんにこき使われていたらこうなるんだ?
この人、イケメンな上に不憫属性も持ってるとか、そこら辺の女子だったら一発で落ちてるぞ。
俺はそこら辺の女子とは一線どころか三線くらい画しているので落ちないが。
むしろ、このチャンスを利用して俺が先輩を落としてやろうという意気込みだ。
「龍也先輩は初対面の私に辛いことを話してくれたんですね。私、嬉しいです」
「シュン…?」
微妙な俺の変化を感じ取ったらしい龍也先輩は体を起こして俺を見る。
俺も先輩と目を合わせ、再び聖女のような柔らかな笑顔を見せた。
「じゃあ、私も辛かったことを話しますね」
「いや、君はそんなこと——」
「良いんです。先輩だけが弱みを見せるなんてフェアじゃありません。私も先輩に弱みを見せてあげます。これで私たち、一緒ですね」
そう言って、俺は笹木と水瀬の一件を話し出した。
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