8 美味しい林檎
風も知らない、赤い静寂が手の中で揺れる
指が触れれば、時間が零れ落ちる
重力さえも無視して、甘く膨らむ沈黙
皮は薄い膜、宇宙と宇宙の境界線
その下に眠るのは、忘れられた星の記憶
一筋の光が、青い空を切り裂くように響き
そこにいたのは、林檎だったか、それとも私自身だったか
一口、無数の世界が崩れ落ちる
甘さが唇を溶かし、舌の上で踊る赤い砂
未来が、過去の影に溶け込むように滲み出る
無数の声がささやく、果実が語る夢
どこまでも続く透明な道、言葉にできない景色が広がる
林檎の汁が、風のようにゆっくりと流れ
その一滴は、遠い星の涙かもしれない
私は飲み込む、林檎の中に隠された秘密を
口の中で、果実の欠片が宙を舞い、無限のリズムを刻む
種は眠る
冷たい宇宙の片隅で、目覚めることのない夜に漂う
それは命の始まりか、終わりか、それとも単なる瞬間か
わからないまま、林檎はゆっくりと消えていく
私の手の中には、もう何もない
ただ、消えたはずの林檎の影が残り
その影さえも、夢の中で消え去る
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