14106 

やと

第1話

僕は高校生で独り暮らしをしている。住んでるマンションが良い事もあり周りからは羨ましいがられるけど僕は家族団欒としている方が羨ましい。父はフランス、パリで料理人をしている。母は僕が幼い時に亡くなっていて母が生きてる時は父に会いにフランスまで一緒に行ったり逆に父が日本に帰ってくる事もあったが母亡くなってからは一度も日本に帰ってくる事はなかった。でも僕は父を超える料理人になりたいと幼いながらに目標をもっていたので小学生や中学生の時は夏休みや冬休みなど長期の休みがあれば父の店に行きそこのシェフやコックの人の技などを盗み見ながらノートとペンを持ってとにかくノートを書いて休憩時間では料理の腕を磨き続けた。そこのコックの人は他の店に行けばシャフになれる程の実力を持っているのでこのお店は世界でも随一の化け物が揃っている、そんな人達には褒められて育ったので皆には良くしてくれたそんなか高校一年の夏から高校三年の夏まで二年間フランスの学校に留学し父の店にバイトとして雇ってもらって調理場にも立たせてもらって厳しく指導してもらい二年間みっちりと修行をさせてもらった、留学が終わる最後の日には自分の十数年の料理の経験を詰めた一品を従業員に振る舞った、反応は良く皆を満足させる事ができたでも父だけは酷評の嵐だった。父だけは何を作っても褒めてくれる事はなかったその度に自分の技量を磨きいつか父にぎゃふんと言わせる事ができて父を超える料理人になる気持ちが強くなっていた。

そんな濃い二年間の留学を終えて日本に帰ってきた、相変わらず一人寂しい家に帰ってきて直ぐにやった事は何冊にもなったノートの束から世界が誇る料理人達のレシピを見て研究した中から厳選して料理を作っていく、料理が出来て食べて何が悪いのかをまたノートに書いていく。このままレシピ通りに作ってはただの真似事にしかならないので自分なりにアレンジなどを試行錯誤しながらやってみるが言ってみれば世界一の料理人達が作り上げた料理に自分の腕が立ち入る事は出来ない。それは当然である。

なぜなら彼等は全ての時間を費やして料理に向き合っているそんな人間が作り上げた言わば芸術なのである。最後に皆に振る舞った自分の料理もまだまだ改良が必要だ、ただ僕はそんな化け物が揃うお店でレシピを書いて過ごしていた訳ではない、そもそもレシピを盗んだくらいで真似できる物ではないだから僕は僕なりの料理を作りコースを作り上げそれをお客さんに出してもらう事も許可された事も自信なったが今一自分の料理に何かが足りない事も分かっていた。フランスを出る時に空港に学校の友達だけではなくお店のコックの人達も見送りに来てくれた、当然父さんは来なかったけどコックの人が父から伝言があると言われて何かと思ったけど用件は僕の料理には何かが足りないからそれを見つけろと言われた、やはり父もただ酷評しただけではないと理解して日本にいるこの半年でそれを見つける事をして過ごそうと思った。

さっそく次の日から学校に行く事になった。まずは職員室に行き担任の先生と面談をする為に早めに学校に行く事になった。

「失礼します、留学から帰ってきた本郷です」

「はーい」

そうして僕の前に先生が歩いてきた

「本郷君久し振り。担任になる武智だ」

「お久しぶりです」

武智先生は一年の時の担任だったので面識があった

「じゃあさっそく今後について話そうか」

そういい職員室の前に机と椅子に腰掛けた

「元気だったか?」

「はい、向こうでも沢山友達も出来ましたし」

「そっか」

「これ、課題です」

そう言ってリュックから沢山の紙の束を出した

「おお、こんなにあったっけ?」

「出した先生が言わないでくださいよ、結構大変だったんですから」

「まあ向こうの学校でも課題はあるし両立をさせたのは悪かったな」

「いや、まだこの学校にも通いたかったし頑張りました」

「そうか、そう言えば料理はどうだったんだ?」

「まあぼちぼちです」

「ぼちぼちって事はないだろう、その為に留学したんだろ?」

「まあそうですけど、結局化け物揃いで僕になんか簡単に立ちは入れる所じゃないと改めて認識しました」

「料理は諦めるのか?」

「そんな簡単じゃないです」

「でもやりたいんだろ」

「まあ」

「なら答えは出てるじゃないか」

「そうですね」

「じゃあ教室戻れ」

そう言われても実力主義な世界でまだ全ての時間を賭ける事が出来ない自分に何が出来ると言うのか、いやそれも言い訳にしかならない。今は自分の料理に何が足らないのかを考えなくてはいけない。そんな事を考えていたら教室まで着いてしまった。

「久し振り本郷」

「久し振り」

「フランスだっけ?どうだった?」

「まあ楽しかったよ」

「そう、お土産は?」

「それなら良いものあるよ」

「なになに」

「じゃーん、マカロン」

「おー」

「マカロンは有名だからな、取りあえずいっぱい買ってきたから皆食べてね」

「さんきゅー」

クラスの皆がマカロンに釘付けになっているところに先生が教室に入ってきた

「はーい、皆席について」

「皆知ってると思うけど今日から本郷君がフランスから帰ってきたから仲良くするように」

「はーい」

どうやら今のクラスメイトは良い奴が揃っているみたいだ、でも良く見れば一年の時のクラスメイトが結構多いので溶け込みやすい。

授業が初まって前日に届いた教科書を出して開いて授業を聞くが頭の中は料理の事でいっぱいになっている。この学校は三年生になると月曜日と水曜日以外は午前中に授業が終わる、でも今日は月曜日なので六時間まである、と言っても6限は学校の奉仕活動で学校付近の塵を回収すると言う内容の為授業となのか疑問である。

「本郷弁当じゃないの?」

「まあコンビニで済ましてる」

「料理得意じゃなかったけ?」

「あれは人に食べてもらう為に作る物だから自分では作ったりしないよ」

「そう言うもんか?」

「そう言うもん」

「そうか」

昼休みが終わり先生が教室に入ってくる

「じゃあ今日の5限は文化祭についてだ。じゃあ担当の生徒に頼むよ」

「よし、じゃあ何やりたいか案だしていこう」

そう言うと皆が各々と案を出していく

「お化け屋敷」

「劇」

そう、色んな案が出ていくと気になるものが出てくる

「喫茶店とかレストランとかどう?」

「じゃあ多数決にしよう」

僕はなんでも良かったけどなんでも良いならより適正があるほうにしようと喫茶店に手を上げた。

担当の生徒が人数を数えた結果決まったのは

「じゃあ喫茶店、レストランになりました」

「決まったか、それなら適任がいるな」

「適任って誰ですか?」

「本郷に決まってるだろ」

「俺ですか?」

「レストランにするにしても喫茶店にするとしても料理が出来る奴が必要だろう」

「僕は良いですけど」

「まあ折角やるなら本番仕込みの料理を振るまってほしいしな」

「まあフランスでやってたんだし皆異論ないよな」

「了ー解」

「じゃあ本郷が料理長って事で」

「料理長って」

「まあまあ、リーダーって事だよ。あんまり気張るな」

そう言う事じゃないんだよなと思いながらも皆が良いならこれも思い出と思ってやろうと思った。

「じゃあさっそくメニュー決めるか」

「それは良いけど結局喫茶店とレストランどっちにするの?」

「違うの?」

「喫茶店は主に飲み物をメインに営業してる所でレストランは食事をメインにしてるって違い」

皆が少し考え初めてだまっていると一人の生徒が口を開いた

「じゃあカフェ&レストランとか最近流行ってるしそんな感じで良いんじゃない?」

「おう、それ良いじゃん。じゃあそう言う方向に行こう」

「分かった」

「これで愈々メニューを決められるな」

「いやそう簡単じゃないよ。カフェ&レストランとなると少し厄介だよ」

「なにが?」

「まず何処まで本気でやるかにもよるけど」

「そりゃやる気は皆あるだろ」

皆の方を見ると頷いて本気でやりたいと言う意思が伝わってくる

「じゃあ、まずはドリンクから考えるか」

「取りあえず珈琲と紅茶で良いんじゃない?」

「何処の豆と葉っぱを使うかそしてお客さんに選んで貰えるように種類が多い方が良いし」

「種類ってどのくらい?」

「最低それぞれ三種類くらいは」

「何が良いか分からん」

「釘宮とかそう言うの詳しいでしょ?」

「確かにカフェとか喫茶店好きだし」

「私?」

どうやら釘宮さんは信頼されてるらしいのでそっちは任せる事にした

「じゃあ釘宮さんと他にも珈琲と紅茶が好きな人でドリンクは頼むよ」

「丸投げかい」

「ジュースとかも皆で決めて」

「じゃあ今度こそ食メニューだな」

「うん」

「取りあえず洋食だよな」

簡単で尚且つ皆が作りやすく提供がスムーズなものを考えみる。

「パスタ、カレーで行こう」

「なんで?」

「簡単だしどっちも作り置きができる」

「なるほど、じゃああと二品は洋食か?」

「うん、とりあえず親子丼あたりが簡単で良いかな。それとデザートでマドレーヌとか」

「良いじゃん。」

「いや、皆の意見は?」

「クラスに料理出来る奴はいるけどお前が決めたなら誰も文句は言わないだろ」

「そうだよ、大体私らでも出来る物を出してもらってるんだし本郷君に従うよ」

「分かった、じゃあそれぞれ誰が何を作るか決めよう」

そうして文化祭に向かって動き出した、皆僕の指示に従ってくれるしなによりマドレーヌなんかは完成度が高くそれに合う飲み物も決めてくれて自分が知らない所でも動いてくれてスムーズに進んでいった

「いよいよ明日だな文化祭」

「うん」

「でも天気が心配だな」

「そうだね、今日ずっと雨降ってるし」

学校から近いスーパーで買い出しをして学校に戻っていた時にふと学校の目の前にある公園で雨なのに傘も持たずただ立ち尽くしている女子生徒が目に入った

「おい、あれ」

「なに?って安藤さんじゃん」

「知り合い?」

「知り合いってこの学校じゃ有名人だよ」

「そうなの?」

「めちゃくちゃ男子から人気なんだよ、それにしてもなにやってるんだろ」

「ちょっと話しかけてくる」

「ちょっと待てよ」

直ぐに安藤さんの方に向かった

「ちょっと傘も持たないでなにやってるの?」

「え?」

「え?じゃなくて風邪引くよ。ほれ」

傘を渡して立ち去ろうとしたら急にドスンと安藤さんが倒れてしまった

「大丈夫?おい?」

意識がない

「どうしよう、救急車呼ぶか」

「いや取りあえず保健室に運ぼう」

安藤さんを保健室に運んだら保健室の先生が焦って話しかけてくる

「どうしたの?」

「なんか急に倒れちゃって」

「ベットに寝かせて」

保健室の先生は安藤さんの様子を見て僕達に安藤さんのクラスの担任の先生を呼んでくるように言った

しばらく時間がたって僕は安藤さんのベットの横の椅子に座っていた。

「それ」

「あ、起きた。先生起きたよ」

「私なんで此処に?」

「公園で倒れたんだよ」

「ああ、そっか」

「寝不足が原因ね、心配だからもうちょっとしたら病院に行こう」

「はい。本郷君だよね?」

「うん」

「それポケベルだよね」

「そうだけど」

「なんで持ってるの?」

「母さんがくれたんだ、今でも使えるから母さんにはスマホで連絡してないんだよ」

「そうなんだ、実は私も持ってるんだ」

「そうなの?」

「うん。偶然だね」

「そうだね」

「ベル友にならない?」

「良いよ」

「じゃあベル番教えて」

「了解」

一方カーテンの向かい側では安藤さんの担任と保健室の先生が僕らの会話を聞いていた

「なんだか懐かしい会話ですね」

「そうですね、僕らの世代では当たり前でしたけどまだ使えるんですね」

「そうね、私も久しぶりに触ってみようかしら」

「あの、さっきからあいつらが話してる内容がよく分からないんですが」

「分からないならそれで良いのよ」

「良くないっすよ」

「良いの、今の時代にポケベルの話聞けただけで嬉しいんだから」

「答えになってないってのばばあ」

「何か言った?」

「なんでもないです」

「じゃあ先生は職員室に戻るから」

「ちょっと待って、俺も行く」

「さっきの意味聞きたいから私も行くわ」

「来なくていいです」

そうして保健室には俺と安藤さんだけになった

「なんだか外が騒がしいね」

「そうだね」

「そうだ、これ。良かったら飲んで」

「スープ?」

「そう、昔俺が風邪引いた時とか母さんが作ってくれたんだよ」

「そうなんだ」

安藤さんが一口スープを飲んだ瞬間に美味しそうにどんどんと飲み進めていく

「これ凄く美味しいよ」

「本当?なら良かった」

「なんて名前なの?」

「名前はないかな」

「そうなの?」

「うん、俺が付けるなら、そうだな。ジャンティスープかな」

「どう言う意味?」

「フランス語で優しいって意味」

「確かに名前の通りだね」

「うん」

「このレシピ教えてくれない?」

「良いよ、簡単だし」

「やった」

「誰かに作ってあげるの?」

「うん、お母さんに」

「そっか、このスープは大切な人の事を考えて作ると気持ちが伝わるって母さんの口癖だったよ」

「そうなんだ」

「さあそろそろ病院に行こうか」

「そんな大丈夫だけど」

「念には念をだよ」

「君のそう言う優しさが嬉しいな」

「何か言った?」

「なんでもないよ」

そうして安藤さんを連れて職員室に行って先生に任せて僕らは調理室に向かった

「よし最後の調整だ」

「お、丁度良い所に。本郷君味見してみて」

「了解」

「これは少し塩味がありすぎるかも」

「そっか」

「うん、あと五グラム塩少なくしてみて」

「細かいね」

「だってこれをメインにしたいんでしょ?」

「そうだけど」

「まあやってみよう」

料理班は皆飲み込みが早く直ぐにレシピ通りに料理を作れるようになって味を落とさずにスピードを上げて作れたのでなにかもう一品関連性がある物を作ろうと言う話になってスープパスタを作る事になった。

「はい、スープできた。味見よろしく」

スプーンでスープを飲んでみるとさっきより断然にいい具合に味の調整が出来ていた

「うん、これで良いんじゃない?」

「本当?」

「うん」

次々に料理班の皆が味見をして行く

「本当だ、さっきよりマイルドになってるしこっちの方が美味しいかも」

そうして料理が完成して後は明日になるだけとなって皆で提供など最終確認をして解散をする事になっった。

夜になって家に帰るとポケベルで安藤さんが連絡してきた

しばらく簡単な会話をして電話番号を教えあって電話をする事になった

「もしもし、本郷君であってる?」

「あってるよ」

「ごめんね急に」

「大丈夫だよ、それより安藤さんは大丈夫?」

「うん、寝不足だっただけ」

「そっか、ちゃんと寝ないとだめだよ」

「うん、でもついつい考えちゃうんだよ」

「何を?」

「好きな人の事」

「恋バナかい」

「高校生で一番盛り上がる話題はこれでしょ」

「そうなの?」

「フランスでは話さないの?」

「どうだろう、俺は料理の事ばかり考えてたからそこら辺は分からないな」

「本郷君は料理が本当に好きなんだね」

「そうだね、でも父さんはには酷評されてばかりだったけど」

「そうなの?」

「うん、結構関係性はぎすぎすしてるな」

「そうなんだ、私もにたようなものだったよ」

「そうなの?」

「うん、小さい頃にお父さんが死んじゃってお母さんが必死で働いてくれたけど大事な時にいつも仕事仕事って私の事をほったらかしてたから」

「そっか」

「でもさっき本郷君が教えてくれたスープを作って一緒に久しぶりにご飯食べたんだけど本郷君のスープのお陰で本音で話したらお母さんとの溝がなくなった感じがしたんだ」

「それならよかったよ」

「これから大切な日にあのスープ作るって約束したんだ」

「そっか、もういい時間だし明日に備えて寝るか」

「うん」

「それじゃあ」

「あ、ちょっと待って」

「なに?」

「後夜祭に花火やるじゃん」

「そうなの?」

「うん、だからその時に二人で話せないかな?」

「分かった」

「ありがとう、じゃあおやすみ」

「おやすみ」

電話を切って僕も布団で寝る事にした

翌朝学校に行くとすでにクラスの皆はクラスTシャツに着がえて準備万端だった

「遅いぞ料理長」

「ごめん」

「よし皆揃ったな、文化祭楽しむ事が大切だけどクラス一丸となって胸を張ってこのカフェ&レストランを成功させよう」

そう言うと皆に気合が入った

「よしじゃあ準備しよう」

文化祭は一日だけ開催で来年この学校を受験しようとしている中学生と親子だったり学校の友達の関係者だったり色んな人が出入りしているので学校自体が大きく盛り上がっていった。その中でもありがたい事に僕らのクラスにお客さんが沢山の来てくれて遊ぶ暇なんてなかった。

十五時になって学校の生徒と先生以外は帰る時間になってやっと一息できると思った時に先生が僕を呼んだ

「本郷居るか?」

「なんですか?」

「お客さん来てるぞ」

「お客さん?」

「取りあえず行ってこい」

「分かりました」

指定された場所に行くと父の店でスーシェフをしているダミアンが居た

「ダミアンさん、久しぶり」

「おう、元気そうじゃん」

「相変わらず日本語上手いですね」

「まあな」

ダミアンさんは僕に料理の基礎を叩き込んでくれた言わば師匠のような存在だった

「なんで日本にいるんですか?」

「それがな、こうした催し物を学校でやるって聞いて来たんだよ」

「父に聞いたんですか?」

「まあそう言う事だ」

事前に父には文化祭の事そして自分のクラスで料理を提供する事を連絡していたのだがやはり父は想定していたように来なかった

「それでなんでダミアンさんが来たんですか?」

「お前の料理が食べれるって聞いて飛んで来たんだよ、皆来たがっていたけど店の事もあるしくじ引きで俺が引き当てたってこと」

「なるほど、でどうでしたか?」

「うん、正直驚いた。教える事は何もないって感じだったよ。特にスープパスタは絶品だった」

「なら良かったです」

「お前高校卒業したらどうするんだ?」

「そうですね、料理の専門学校にでも行こうかって考えてたます」

「そんな所に行くくらいなら内に来い」

「え?」

「実はシェフに審査してこいって言われてたんだよ」

「審査?」

「そう、日本に帰る時に料理に何かが足りないって言われただろ?」

「はい」

「それが今日の料理にちゃんと出てたよ。お前にももう分かってるんじゃないのか?」

「そうですね」

「それが分かってるなら卒業したら内でまた修行しろだとさ、じゃあ俺はちゃんと伝えたから後は親子で話せ」

「分かりました」

なんだか全部父の手のひらって感じで嫌だったけどまたあそこで料理ができると思うと嬉しくなった

ダミアンさんと分かれて調理室に戻って片付けを終わらせる時には後夜祭が始まる時間になっていた

「後夜祭の時間だから行く奴は体育館に行って帰る奴は気をつけて帰れよ」

先生の一言で各々調理室を出て行った、僕も体育館に向かった。

「後夜祭やるぞー」

MCの生徒が叫ぶと皆が雄叫びをあげて後夜祭が始まった。ダンス部がダンスをやったり歌を披露する生徒がいたり中にはおふざけでスカートを男子が履いて流行りのダンスをしたり先生がコントや漫才をしてくれたりなどとても楽しい時間だった。後はグラウンドで花火をするだけとなった。

グラウンドの中心で大きい花火が上がりそれぞれ配られた線香花火を持って皆が楽しんでいた。中には公開告白をする大胆な生徒もいたなか安藤さんが話しかけてきた

「本郷君、今良い?」

「うん」

僕は一人で線香花火を楽しもうとしていたのでなんの問題もなかった

「此処じゃなくて人がいない所で話したいんだけど良い?」

「いいよ」

少し移動して落ち着けるまで行った

「話しってなに?」

「ポケベル持ってる?」

「持ってるけど」

「じゃあ今から送るから見て」

「分かった」

そうして送られたてきたのは

「39104」

「なんで?」

「もしかして覚えてない?」

「何を?」

「二年前に電車で痴漢されてたのを本郷君が止めてくれたんだよ」

「そうなの?」

「うん、あの時は髪も長くてメイクもしてなかったから」

「そっか」

「でも本郷君の為に自分磨きして頑張ったんだよ、でも直ぐにフランスに行っちゃたから全然話せなかったんだ」

「そうなんだ」

「返事もらえないかな」

「今すぐには出来ないよ」

そう言うと安藤さんの目から涙がこぼれた

「もっと関係性が深くないとだめだよね」

「まあ、それもあるけど僕卒業したらフランスで修行する事になったんだ、だからもし付き合うとしても凄い遠距離になっちゃうよ」

「なるほどね」

「僕は小さい時から料理以外は興味持てなかったけど安藤さんには他の人よりもっと沢山話したいって思ってるよ」

「なんで?」

「僕はずっと父親を超える料理人にならないとって焦っていたけど日本に帰ってくる前に僕の料理には大切なものがないって言われたんだ。それがなにか分からなかったけど安藤さんのお陰で分かったんだ」

「何が足らなかったの?」

「お客さんを想う気持ちだよ」

「気持ち?」

「うん、僕には料理を食べてくれるお客さんより父を超えるって思いが強かったけど安藤さんにあのスープを通して教えてもらった」

「そっか」

「あのスープは僕が一番最初に覚えた料理だったけど小さい頃に母さんが亡くなってから作らなかったから気付なかった、料理人はどんな時でもお客さんの事を考えなくてはいけなかったのに」

「なら私はずっと待ってるよ本郷君からポケベルに14106が来るまで」

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14106  やと @yato225

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