第37話 ダンジョン崩壊再び

二度目のダンジョン崩壊が起きる日が来た。


市ヶ谷ダンジョンの周りには、多くの市民が集まっていた。市ヶ谷ダンジョンは、迷宮都市・新東京のシンボルになっていて、周りは公園として整備されていた。


市ヶ谷ダンジョンは魔物が出ない、出るのは魔石だけ。だからダンジョン崩壊が起こっても怖がる必要がない。そして今度のダンジョン崩壊は、新しい時代の幕開けを知らせるものと告知されていた。


市民たちは、その時を観ようと集まっていた。


そしてマリとアキラが壇上に現れると、「救世主様!」「救世主様ばんざーい!」と歓声と拍手が鳴り響いた。その中に「アキラ君、かわいい」」「アキラちゃん、こっち向いて」という声が小さく聞こえた。


「オレのファンもいるのか!モテ期きたー!」と、アキラは嬉しくなって手を振った。


ドン!マリが杖を床に打ち付け、物凄い音がした。そして声が聞こえる方を睨みつけた。その気迫に会場はシーンと静まり返った。


アキラはそっと見上げると、マリが冷たい笑顔でアキラを見ていた。

「ア・キ・ラ」と小さい声が聞こえ、「こ、こわー!」と、アキラは震えた。


こほん、と田所が咳払いした。


マリは姿勢を正し、笑顔を振りまき、お辞儀をした。


「もうすぐ、ダンジョンは崩壊します。新しい時代の幕開けです」


マリの声に、みながダンジョンに注目した。


「アキラ、まだなの?」マリはアキラにささやいた。


「もうちょっと」

アキラはダンジョン・コアの様子を探っていたところだった。そしてダンジョン・コアに亀裂が入った感触がした。


「よし、いまだ」アキラはマリの手を強く握った。


マリは大きく杖を振った。

「これより、ダンジョンが崩壊します!」


おおお!と会場がどよめいた。


しかし、しばらくしても何も起こらなかった。


「えっ?」「えっ?」「えっ?」と会場は静かになっていった。


「アキラ、どうなってるの?」マリは焦っていた。


「ちょ、ちょっと待って…え、えーっと…よし、きた!」

アキラはもう一度マリの手を強くに握った。


マリはもう一度大きく杖を振りかぶった


「これより、ダ…」


と言ったとき、ダンジョンは光りだした。そして光が消えた時、ダンジョンは消え、大量の魔石が残っていた。


「ダンジョンが崩壊した」「ダンジョンが消えた」「大量の魔石だ」「新しい時代だ」という大歓声と拍手が鳴り響いた。


マリはアキラを睨んだ。

「だから、こんなセレモニー嫌だって、言ったのに」


アキラは目をそらし項垂れた。

「ご、ごめんなさい」


田所が一歩前に進み、手を挙げた。会場は静かになった。


「これより都市防衛戦に入る!生き残るため、未来のために!」


「やるぞ!」「うおー!」「救世主様!」会場は割れんばかりに声が沸き上がり、興奮の坩堝となった。


アキラ、マリ、田所は壇上から降りた。


朝比奈が笑顔でやってきた。

「お疲れ様でした」


マリはぷりぷり怒っていた。

「もう、アキラのせいで大恥かいたじゃない」


アキラは何回も謝っていた。

「ごめん、ごめんなさい。わざとじゃないから許して」


朝比奈が笑って、マリをなだめた。

「式典は成功したんだし、そのへんで許してあげたら」


そこに若い女性陣がやってきた。

「飛行部隊、準備完了しています。アキラ隊長ご指示を!」


アキラが一歩前に出て、彼女たちを見渡した。


「各自指示されたポイントに急行し、偵察を開始せよ。決して攻撃はしないように。では出立!」

「はっ!いってまいります!」


アキラの号令のもと、彼女たちは飛んでいった。


関東一円のダンジョンは、ほぼ消滅か魔石製造機になっていた。それ以外はさすがに手が回らなかった。魔物は新東京に集まってくる。一日二日は東は仙台、西は大阪辺りまでの魔物が来るだろう。この二日間が激戦になり、ここを乗り越えれば生き残れると考えていた。まずは、どれくらいの規模の魔物が、どの方面から来るのか調べる必要があった。


「じゃあ、オレも行ってきます」

アキラが飛ぼうとした時、マリがアキラを腕を引っ張って、アキラを抱きしめた。


「やっぱり私もアキラについて行く」

「えっ?マリはここに残るって決まってたじゃん」


「アキラから離れない。それに、さっきのお詫びに、お願いを聞いてくれてもいいでしょ?」

「そ、それは、困ったな」


アキラは田所に助けを求めた。


田所は、マリがこうなると、誰も止められないことを、よく知っていた。

「司令部の方には私から話しておくから、いっしょに行きなさい」


マリが破顔一笑した。

「ありがとうございます。田所さん」


「仕方ないな。じゃあ、行こうか」

アキラとマリは一緒に飛んでいった。


朝比奈が笑ってつぶやいた。

「アキラ君も、これから大変ですね」


田所がアキラたちを見て、つぶやいた。

「魔物討伐では彼は主力だからね」



「いえ、それとは別で。アキラ君はもてもてですから」

「ん?マリ君がいつも側にいるから、誰も近づけないのでは?」


「それでも親子ですから、絶対アタックしてくる女の子はいますよ」

「しかしマリ君には誰も勝てんだろう?」


「女って、怖いんですよ」

「そ、そうなのか?」

朝比奈は面白そうに笑い、田所は引き攣って笑った。

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